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 ――洞窟内


「お頭、近くの村の奴等が洞窟の外まで来てるんですが……」


「何で俺達の居場所がバレてんだ? まったく隠れ家もクソもあったもんじゃねえな……で、何だって?」


「はぁ、何でもこれから毎日酒と食い物と金渡すからさらった女とガキ返せだそうですよ。食い物持って入口まで来てますけど、どうします?」


「何だそりゃ、そんなバカな要求通るかよ。それに毒でも入ってるんじゃねえのか?」


「ああ、目の前で毒見させましたけど平気そうだったんで、多分大丈夫だと思いますよ」


 まあ、俺達ァ賊だ、欲しいモンは力尽くで奪えって話だ。村の奴等の要求なんざ飲む必要もねえしな。


「さらった奴等は返さん。食い物は奪っとけ。それとこう伝えとけ、明日から毎日持って来いと。1日でも来なかったらガキ1人ずつ殺すってな」


 どんな考えがあったか知らんが所詮は浅知恵だな。人質がいる時点でどうにもなりゃしねえんだ。飽きたら女もガキも売っぱらっちまって村からありったけ強奪すりゃいい。また他所の村襲えばいいだけの話だからな。


「お、お頭ァ、大変です!」


 さっきの見張りのヤツか、騒々しいな。


「洞窟の入口が塞がってます!!」


 村の奴等の仕業か? 目を離した数分でいったい何が出来るってんだ。


「そんなモン蹴破って、くだらんことを企んだヤツを殺しちまえ!」


「そ、それが……」


 周りの奴等を集めて洞窟の入口に向かう。俺の視界に入ったモノは入口をほぼ塞ぐ巨大な岩だった。


「貴様がここの親玉か。俺の名は田中、ネゴシエイター田中だ」


 俺は岩の端、ワザと顔半分ほどの隙間を空けておいた箇所から洞窟内の奴等に話しかける。ちなみにこの岩を運ぶ最中、木を10本ほど薙ぎ倒してきた。おかげで善行ポイントが-8060Pになってしまった。木に対してやけにシビアだな。モリゾーの呪いか?


「貴様等がさらった女とガキを開放しろ」


 無論、美人優先でな!


「バカかお前、人質はこっちにいるんだぞ? どうやって運んだかは知らんが、さっさとこの岩を退けろ! 人質殺しちまうぞ!!」


「うむ、交渉決裂だな」


 俺は岩を動かし、そっと隙間を塞いだ。中でなにか喚いているが知らん。貴様が交渉を放棄したのだ。


「あんた何やってんだ!? 助けてくれるんじゃなかったのか!?」


「えー、だって会話になんなかったじゃん。あいつ超バカそうだし」


「会話してないのはあんたも一緒だろ!」


 やれやれ、注文の多い奴等だ。


「反省したか?」


 岩を少しずらして親玉に話しかける。


「この俺をコケにしくさりやがって……今からお前の目の前でガキをブチ殺す。お前も間違いなく殺してやるからな?」


 ごらんのあり様だ。まったく反省などしておらん。


「さっきから殺す殺すと、俺とお前の価値観にズレがあるな? そもそも俺と村の奴等は会ってまだ数時間だ、助けてやる義理などない。もちろん人質とも縁もゆかりもない。ぶっちゃけ殺すならどうぞって感じだ」


 見も知らぬヤツが死んでもなんか遠くの国の出来事みたいな感じって話だ。美人が死ぬのは居た堪れんが、まあご縁がなかったということで。


「だがな、俺は貴様等から直接被害を被ってるんだ。貴様等の所為で暗い深海にまた一歩近づいたんだぞ? 俺の深い悲しみと猛る怒りが理解出来るか?」


 枯れ木、枯れ葉を洞窟の前にせっせと集めながら親玉に語りかける。貴様等に俺の慟哭が伝わるか? 魂の嘆きが聞こえるか?


 そもそも交渉というものは双方の落としどころを模索するものだ。だがそれでは所詮二流交渉人でしかない。このネゴシエイター田中であればさらに上の展開を望むことが出来る。相手の要求に一切耳を傾けることをせず、こちらの要求のみ一方的に伝える。これこそが超一流交渉人というものだ。


「何をワケのわからねえこと言ってんだ! 大体、俺達はお前に何かした覚えはねえぞ!! で、さっきからお前何してんだ?」


「いや、ここで焚き火して洞窟の中を煙で充満させようと……」


「何考えてんだお前!? 中には女子供がいるんだぞ!! うわっ、こいつ本当に火つけやがった! やめろっ、火を投げ込むな!!」


「開放するか? 今なら大サービスだ、お前らの命だけは助けてやるぞ?」


「ゴホッ、ふざけるな! ゲホッ、絶対殺してやるからな!!」


 うむ、なかなか根性のあるヤツだ。しかしどこまでやせ我慢が続くかな?


「わかった、俺は貴様を好敵手と認めよう。他にこれといってやることもないから暇つぶしにここで延々と焚き火を続ける。根競べといこうじゃないか!」


「ゴホッ、暇つぶしでこんなことされてたまるかっ! 待て、何で横になるんだ? 馬鹿野郎、起きろ! 寝るんじゃねえぇぇぇ!!」


 ――1時間後


 うむ、頭もスッキリした気持ちのいい目覚めだ。


 NASAの研究によれば仮眠をとることで仕事効率34%注意力54%アップするらしい。だがよく考えてほしい。注意力100%のヤツが54%アップしたところで最初から間違えないんだから仮眠をとる必要がない。注意力50%のヤツは仮眠しないと半分間違えるんだからまず社会人としての在り方を疑うべきだ。注意力0%のヤツはそもそも論外。仮眠必要ないじゃん。


 自分の賢さアピールをしたところで、なぜこんな場所で寝ていたのかとの疑問にたどり着く。ふと洞窟のほうへ目をやれば「もう、勘弁してくれ……」と親玉が息も絶え絶えで倒れていた。すまん、忘れてた。

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