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 何だ今の音は?


 壁に亀裂が走った音じゃない、もっと異質な何かだ。辺りを見回すがそれらしき物は見当たらない。


 気のせいか、そう思った瞬間とんでもないプレッシャーが圧し掛かる。


 中島も何かを感じ取ったのだろう、表情に不安が隠しきれていない。爬虫類のくせになかなか芸達者だな。


 トーマスとミシェランは文字通り滝のような汗を流し、足元には水溜りが出来ている。いや、流しすぎだ。お前ら脱水症状で死ぬぞ?


 こいつら本当は余裕あるだろ? ああ、バカには緊張なんて過ぎたものか。そう思いながら重圧の発信源を探す。まあ見つけたとしても何か出来るとは思えないな、逃げの一択しかないだろこんなモン。


「おいおい、マジかよ……」


 司祭が立つ後ろ、部屋の天井付近、何もない空間に亀裂が入っている。妙なモンには慣れたつもりだったが、流石に驚かされるな。そうしている間にも亀裂は広がり、ガラスのように空間は崩れ落ちた。


 何もない空間にポッカリと空いた真っ暗な穴。だが俺は見ちまった、その向こうからこちらを覗く奴等を。





 ――1人は炎のように真っ赤な髪を逆立てた男。人を壊すのに躊躇いがない、そんな鋭い目つきでこちらを見る。


 ――もう1人は黒髪の男。赤いジャージに釘バット、どこから見ても量産型茨城県人だ。


 ――最後の1人は銀髪の優男。温和そうな顔立ちだが底知れぬ恐怖を感じる。





 待て、変なのが混ざってるぞ!?


 そんな俺の視線も気にせず、3人の内2人がなんか揉め始めた。


 どうやら赤髪がジャージ男に怒ってるようだな。それに対しジャージ男は手の平を水平にあげてヤレヤレとでも言いたげなポーズを取っている。とてもむかつく。


 赤髪が魔方陣を指差して怒鳴っていることから、何故あそこから登場しないんだってとこで揉めてるんだな。それにしてもあのジャージのドヤ顔よ、積極的に煽っていくスタイルだな。


 銀髪に仲裁され物音ひとつ立てずに3人が降りてくる。そして司祭には一瞥もくれずにしれっと魔方陣の中に立ち並ぶ。


『我を呼んだのは貴様等か』


 よりによってジャージ男の発言だ。周りの2人ならともかくお前かよ。まあ何でも破壊しそうな出で立ちではあるが。


「……後ろだ、後ろ」


 考えなくてもわかんだろ、雰囲気で察しろよ。


「あなたが『黙れ! 誰が発言を許した、この塵芥が!!』」


 めちゃくちゃだなあいつ。


『よく聴くがよい、愚かな烏合の衆よ。我は呼び掛けに応じたのではない、そのような真似はこの聖帝もとい破壊神の沽券に関わる。よってこちらから出向いた所存だ』


『悪ィな人間達、意味わかんねえだろ? だが安心しろ、こいつの言ってることは俺達にもわかんねえ』


 呆れ顔の赤髪と顔を背けて笑っている銀髪。ほんと何なんだよこいつら。


『しかし我とて鬼ではない。願いを1つ言え。何でも叶えてやろう』


「では! 世界の滅『断る!! 人の世に関わらんのがこの破壊神クオリティー、理解したな?』」


 最初から聞く気ねえじゃん、もう帰れよ。


『む?』ジャージ男が何かに感づいたらしく、その黒髪が一斉に逆立つ。怖えよ。


『我の日本人アンテナが反応した。この中に日本人がいる!』


「……俺だ」


 別に隠す必要もない。こいつもどう考えても日本人だろうし。いや、元日本人か、とてもじゃないが真っ当な人間に見えん。ドス黒いオーラみたいなの垂れ流し続けてるしな。


『そういや前の世界にも異世界人結構いたな』


『む? そうだっけ?』


『忘れれること自体、凄まじいですね』


『愚かなり。この山田メモリーは全ての歴史を鮮明に記録する。ちなみに昨日の夕食はナポリタンだ』


『あれだけカレー食いたいって騒いでそれか馬鹿野郎』


『あれはナポリタンという名のカレーだ、問題ない』


 アレが相当なバカなのは理解した。俺が今まで出会った奴等の中でもぶっちぎりだ。お前がナンバー1だ。


「おいジャージ、ちなみに俺の後ろにいるドラゴンも日本人だぞ」


『何で余計な事言うんスか!!』


 部屋の内装と同化し、我関せずを貫いていた中島に話を振る。へたれが。考えが甘えんだよ。だが再びジャージ男に視線を戻すとヤツの姿は見当たらない。


『オレサマ コイツ ツレテカエル オレサマ ゴキゲン』


 目を離した一瞬の間に俺の後方にいた中島が捕まった。やっぱり明らかに人間じゃねえな、速すぎるわ。 


『俺、子供の頃からドラゴン飼うのが夢だったんだ……。さあ者共、撤収だ!!』


「待て、破壊神よ! 送還は私にしか出来ないぞ!! 還りたいのであれば私の願いを叶えてもらおう!!」


 出来ないんじゃなかったのか? まあ十中八九嘘だろうけどな。


『ふん、矮小なる人の子よ。我が力、篤と目に焼き付けるがよい』


 ジャージ男は釘バットを何もない空間に叩きつける。空間は陶器と見間違えるほど盛大に脆く割れ、大きな穴を開けた。もう何でもありだな。

 穴の向こうは何処かに繋がっているらしく随所に文明の端切れを思わせる建造物や看板が見える。なになに、『釣堀 霞ヶ浦血の池地獄』……マジか。


『さあ帰るぞドラゴン。貴様の小屋を準備せねばならんな』


『帰るって、何処にっスか……?』


『愚問だな、地獄に決まっているだろ』


『イヤだ、絶対イヤだあああ!! 田中さん助けて、マジヤバイっスよこの人!!!』


「すまん無理だ、手に負えん。お前のことは世界を救った英雄として広めておこう」


 嫌がる中島を片手で引き摺り出すジャージ男。元より中島が通れるほどのスペースなどなく、挙句に中島がそこらを掴んでいるもんだから天井、壁、いたる所に亀裂が入る。


『我侭を言うんじゃない!!』


 ジャージ男がその身から流れるドス黒いオーラに包まれると禍々しい鎧姿へと成り変る。

 何かわからない威圧のようなものに城全体が震え、周囲への重圧が数段跳ね上がる。壁を壊しながら中島を引き摺り出すと、その巨体を片手で持ち上げ天井までも壊しながら先程の穴へと叩き込む。


『ではさらばだ、罪無き子羊共よ』


『邪魔したな。もう来ねえから安心していいぞ』


『あなた方のこれからの発展をお祈りしてますよ』


 そして何事もなかったかのように静寂が訪れる。いや、気のせいだ。ジャージ男の一連の行動により天井や壁の亀裂は更に広がり崩れ始める。


「タナカ隊長、大変です! 先程の地震により城が崩壊し始めています!!」


 副ゴリが部屋に駆け込むと同時に上から城を形成していた瓦礫が落ちてくる。 


「急げ! 全員城から退避だ!!」


 しかし身動きひとつ取らない者がいる。司祭だ。


 先程の出来事により茫然自失となった司祭は大きな穴があった場所をずっと見続ける。そんな司祭に構うことなく瓦礫は降り注ぐ。


 チッ、あのバカが! 


「何やってんだ、死にてえのか!!」


 司祭に駆け寄り胸倉を掴み上げるが何の反応もなし、ただブツブツ呟いてるだけだ。


「……もういい、殺してくれ。こんな世界には何の望みもない」


「てめえはこんな事しでかした責任をまだ何にも取ってねえだろうが! 死にたきゃやる事やってから死にやがれ!!」


 司祭を引き摺りながら部屋を出るが崩壊は完全に始まっている。城が崩れるというよりは山自体が地すべりを起こしてるみたいだな。あのジャージ男とんでもねえヤツだな。


「お待ちしてました! 急いで脱出しましょう!!」


 ホールまで走り抜けるとうちの部隊の奴等が数人、どうやら俺達を待っていたようだ。もう救助活動は終わってるみたいだな。


 が、その時ホールの天井の全てが落ちてくるのが見える。


 駆け抜けて間に合うか? ……無理だな、全員下敷きだ。


 こいつらは誰1人意地でも死なせねえ、だったら――


「お前ら、最後の命令だ! 全員こいつを連れて入口まで全力で走れ! 時間がねえ、急げ、振り返んな!!」


 司祭を副ゴリに渡す。その代わりに巨大な瓦礫を担ぎホール中央に立つ。多少の時間稼ぎにはなるだろ?


 ……クソが、マジで250日すら生きれなかったな。二度目の退場も早いもんだ。まあ何だかんだ面白かったけどな。


「……おい、何やってんだ?」


「助太刀するおwww」


「ここは任せるでござるwww」


「クソ馬鹿野郎、支えるならせめて瓦礫を支えやがれ! そこは俺の足――――」









「ほっほっほっ、傑作じゃな」


「何がそんなに面白い、ブチ殺すぞカメムシ」


 結局俺は死んだみたいだな。頑丈な鎧を着ててもあれ程の規模の衝撃は耐えられなかったってことか。


「あれだけ悪態ついてた者が最後は悪人までも自らの命を犠牲にして救う。これを傑作と言わず何と言うんじゃ」


「チッ、性格の悪ィジジイだ。そうだ、聞きたいことがある。何であそこまで木に辛辣だったんだ?」


「ああ、それか。少しは自然について造詣を持ってもらいたかっただけじゃ。お主等が何気なく使い捨てる割り箸とかの、それらを作るのにどれ程の木が年間で消費されているか。尋ねられれば必要な時以外は受け取らない。そういう心構えを身に付けてもらいたかっただけじゃ」


「そもそも箸もなけりゃ、木が足枷になってる生活だったぞ。大体そんなモン地球に生きてる奴等に言え。死んだ俺に言うんじゃねえ!」


「じゃあただの嫌がらせじゃ」


 ホントに性格悪ィな、碌な死に方しねえぞ。


「で、俺はどうなるんだ、アフリカマイマイか? ホテイエソか? 生まれ変わんだろ?」


「ほっほっほっ、天国の道を開いてやるわい。次に人として生まれ変わるまでゆっくりするがよい」


 何も無かった空間に現れる輝く階段。その階段の元に跪いてるバカ2人。


「何であいつらがいるんだ……?」


「お主の魂を引き上げた時に足にしがみついておったんじゃ……」


 何の呪いだよ、まあいいか。


「おい、お前ら行くぞ」


 俺は階段を登りながら考える。平静を保っていたが、まだ何も終わってない。


 あのジャージ男を思うに人外の強さを手に入れれるはずだ。俺はまだまだ弱い、天国で強さを手に入れる。そして天国を戦う集団へと変える。


 その時が俺の物語の始まりだ。


 やられれば必ずやりかえす。


 EDにされた恨みは忘れてねえぞ、覚悟しとけ――

拙い話ですが読んで頂きありがとうございます。読んでくれた方、評価してくれた方、わざわざブックマークまでしてくれた方、感謝の言葉もありません。今は素人まるだしの文章ですが、他の皆様の完成された物語を読み、勉強させて頂いてからまたくだらない物語を始めようと思います。

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