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『なんスか、田中さんの考えって?』
「まあ見てのお楽しみだ」
ともかく魔物から一度離れなきゃ始まらないしな。中島を隠れ蓑にして魔物から姿を眩ます。完全に俺をターゲットにしていた魔物が辺りを見回すその隙に中島が襲い掛かる。ディスカバリーチャンネルあたりでやってそうな雰囲気だな。
急がなきゃならないのには違いないが、こちとらブン殴られて跳ね飛ばされてはらわた煮えくり返ってんだ。きっちり落とし前つけてから進ましてもらうぞ。
「装甲兵! 余にも何か出来ることはないか」
負傷兵の救助を手伝っていた皇子がこちらに向かって来る。魔物退治を手伝わすか? いや、無理だな。そこいらに転がる細切れと同化する未来しか想像出来ない。
「あんたは竜騎士隊の生き残りがいるか探してくれ。いなければ馬でも何でも駆って王国、帝国の両国に今の状況を伝えてくれ、あと負傷者救護の応援もだ」
皇子自ら両国に話をしに行けば、そりゃ信じるしかないだろ。これで万が一逃げられても国際指名手配だ。逃げる気があるかどうかは知らんが。
さて、あの魔物をブチのめす方法だが俺がやるワケじゃない、やるのは中島だ。俺が持つ盾ではどう足掻いても倒すのは不可能だ。最初は瓦礫でも上から投げて倒そうかと思ったが、あの魔物あんな顔して結構素早い。まず当たる気がしない。
中島に全投げしようともあいつの攻撃方法は難がありすぎる。あそこまで身体的特徴を活かせないのもある種の才能だな。
なら攻撃が当たるようにすればいいだけの話だ。
先程、中島が真っ二つにへし折った石柱。これを抱えて元の石柱が立っていた場所に隠れる。ヤツがこの前を通った瞬間、石柱を倒し下敷きにするのだ。
(中島! なんとかこっちまで誘導しろ!!)
『え? なんスか? 全然聞こえないんスけど?』
(声がでけえんだよ、馬鹿野郎!)
『あっ! わかった! それで下敷きにするんスね?』
もういいや。魔物に言葉が理解出来るとは思えんしな。だが、チラチラこっち見るのはやめろ、不自然すぎるわ。もう中島ごと下敷きにしちまうか?
しかし中島なりに頑張ってるんだろう、努力している姿は窺える。だがな……
『今っスよ、田中さん!!』
悉くチャンスを潰してるのもこいつなんだよな……。何が『今っスよ』だ。柱を背にして言う台詞か、狂ってんのか。マジでどうでもよくなってきた。
「中島! 横に跳べ!!」
『了解っス!!』
これで魔物に向かって跳んだらマジ天才と思ったが、流石にそこまでじゃないか。中島ごと下敷きにするつもりで石柱を倒す、無論そうなったらそうなったまでだ。
……チッ、避けやがったか。だが、石柱はギリギリで避けれた中島の影に隠れていた為に魔物の視界には入っておらず、対応しきれずにそのまま下敷きになる。
「中島、今だ! 顔面踏み潰せ!!」
『え? イヤっスよ、気持ち悪ィ』
――やれよ、馬鹿野郎。
『ウエェェェ、気持ち悪ィっス……。まだ感触残ってるっスよ……』
「ごちゃごちゃ言うな、倒せたから良かったじゃねえか」
無事に中島のトラウマを増やしつつ、先行したトーマス、ミシェランを追う。城内に居てくれればいいんだが……
山を利用して作られた城だけあって、流石に建築スペースは限られている。奥に進むほど活用できる空間は狭くなっており、そろそろ中島が自由に動き回るのが難しくなってきた。この辺りで見つかってくれると助かるんだがな。
通路に並ぶ扉、その1つにようやく2人の姿を発見する。2人は部屋の中を窺っており、恐らく司祭がその中に居ることが想像出来る。これでこいつら全然関係ないもの見てたらウケるな。
2人に目配せをし、同時に部屋の中になだれ込む。中島は中に入れないから顔だけ入れてる状態だ。
「もう逃げ場はないぞ、クソ野郎!」
部屋の内部は予想より広く、床には魔方陣のようなものが描かれており、司祭が錫杖を構えている。
「やはりナカジマ相手では分が悪かったようだな。だがもう手遅れだ、儀式はすでに終わっている!」
司祭が錫杖を魔方陣に向け翳すとそれはうっすらと光始める。なんかヤバげだな、中島突っ込ませるか?
「大陸は度重なる戦争により、城内は魔物による惨殺劇により。殺意、狂気、絶望、悲愴、負の思念は満ちた。喜ぶがいい、新たな世界の始まりだ。滅亡を司る神が今ここに顕現する」
そして陶器にヒビが入る、そんな乾いた音が部屋に響く。
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