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思い起こせばこんな状況に置かれているのもEDにされたのも全部あの野郎のせいじゃねえか。何回ブチ殺しても気が済まねえぞ!
「世界には不必要なものが多いとは思わないか?」
あ、まだ続いてたのか。不必要なもの? 酢豚のパイナップルとかかな?
「くだらない歴史、くだらない文化」
確かにおとこの娘はどの層をターゲットにしているかわからないな。
「強き者は奪い、奪われた者は更に弱い者から奪う」
何その見えない自由が欲しくて見えない銃を撃ちまくりそうなヤツ。
「私は常々思うんだ、この世界は一度消えたほうがいいと。愚鈍な人間、煩わしい害獣、堕落した文明、その全てを」
「それで神様に世界を消してくれとでもお願いしようってとこか」
「そうだ。世界は破滅を迎え、選ばれた人間、選ばれた動物のみが新たな歴史を創る。それが私の想う理想であり、実現すべき必要なことだ」
まあそうだな。世の中必要とされないで荒れてるヤツとか泣き寝入りして自分からフェイドアウトしちまったヤツとかいるしな。根っからの悪人もいりゃ、この世界なんか見てみろバカばっかりだぜ?
「でもなぁ、お前が望む理想郷ってスゲエつまんなそうだな」
「そういう問題ではない、喜怒哀楽そのものが必要ないのだ。皆が1つの目的に歩みを揃える、善人も悪人も差別も争いもない世界。素晴しいと思わないか?」
「あくまで俺の考えなんだがな、賢いヤツが国を作り、人と違うヤツは文化を作る。強いヤツが国を支え、弱いヤツは技術を育てる。悪いヤツがいるから秩序が生まれて、バカなヤツがいるから世の中楽しいんだ。それすら必要ないってことか」
「ふん、貴様のように表層でしか物事を見れない者に私の崇高な考えがわかるはずもあるまい。討論するだけ時間の無駄だ、これで失礼させていただこう」
踵を返し、城の奥へ消えようとする司祭。追うべきか? 実際に神の召還なんて出来るモンなのか? 脳裏に先程の魔物と中島が思い浮かぶ……マジっぽいか。
「トーマス、ミシェラン追うぞ! 中島、魔物はよろしく!!」
――グニッ
グニッ?
俺の足の下には踏んづけた可能性を否定することが出来ない大きな蛇のようなモノ。誰だ、こんなとこに蛇を置いたヤツは! けしからん!!
蛇の先には見覚えのあるトゲトゲ。何この世紀末風味、こんなの刺さったら死んじゃうだろ?
逆側には大きな肉食獣のような体、その先には眉間に皺を寄せ、牙を剥き出しにする鬣を付けたおっさん。そんな怒んなよ。若気の至りだ、許してやれよ。
「……お前ら、司祭を追え。中島、手伝え」
ブチキレたおっさんが俺を威嚇する。ツキがないとかそんなレベルじゃねえぞクソが。だが案ずるな、こちらには中島がいる。俺の見立てではこの魔物決戦、中島のほうが分がある。なぜなら爬虫類っぽい中島のほうが防御力高そうだからだ。
「行け、中島! 100万ボルトだ!!」
「まかせるっスよ! この中島式ドラゴンヘッドバットをお見舞いするっス!!」
だからどうしてお前はそういつも攻撃のチョイスがおかしいんだよ!
長い首を勢いをつけ大きく後方に撓らせる中島。その反動で頭突きをかまそうという魂胆だろう。けどお前、真後ろにでかい石柱があるの気付いてるか?
城内に二度響く轟音。
一度目は石柱を真っ二つにするほど後頭部を強打した音。
二度目は気絶した中島が倒れる音だ。いい加減にしろよ?
暫くは中島の一人劇に目を奪われていた俺とおっさんだが、ふと目が合い我に帰る。
……マジで俺1人でやんのコレ?
ぼんやりとする視界に巨大な肉球が映る。猫かな?
「アブッ!!」
危ねぇっ、走馬灯見てた! 意識を取り戻し、即座にしゃがむことで危機を回避する。いや、まったく回避出来てないな!
しゃがむ俺に対し、おっさんは鋭い爪を剥き出しにした前足を振り下ろす。床を転がり避けるが、おっさんの連打は止まらない。余りのしつこさに苛立ちを覚え、転がる最中に中島の顔を蹴り飛ばしておく。何のことはない、ただの八つ当たりだ。
『誰っスか! 今、顔蹴ったの!!』
俺だ馬鹿野郎、文句あんのか?
『なかなかやるじゃないっスか、おっさん顔の魔物! こうなればドラゴン中島奥義、廬山亢龍覇を見せざるを得ないっスね!!』
あかん、それ死ぬヤツや。
「中島、少し時間を稼げ! 俺に手がある!!」
急いで司祭追わないととんでもないことが起こりそうな気がする。こんなとこで時間食ってる場合じゃねえんだ!




