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このアートな顔立ちの女の話では、自分はこの森の近くにある村に住んでいて、今日は薬草採りに森に入ったところを運悪く襲われたそうだ。たいして興味もない情報をありがとう。襲われるぐらいなんだから普通グッドルッキングウーマンを期待するワケじゃん……ありえん、あいつらB専かよ。
だがこの女、抽象画のような見た目とは違い、俺にお礼をしたいので村へ招待させてくれと申し出るほどの心優しき娘だ。人は外見のみで判断してはいけないという教訓だな。俺は外見でしか判断するつもりはないがな。
いい機会だからこの世界についていろいろと聞いてみた。女にはなぜそんな質問をするのかと訝しまれたが、俺の見たこともない服装と神により違う世界から連れてこられたとの説明で納得した。どうやら俺と似た境遇のヤツが他にもいるみたいだな。別に嘘をつくつもりはないが、信用されたいとも思わん。女の名前? 忘れた。フラグの可能性は微々たるものでも立つ前にへし折ってくれるわ!
この世界はおおまかにいえば2つの大陸、王国を宗主とし複数の公国から成り立つ複合国家と単一国家の帝国に分かれている。ここは複合国家の1つ『草原の国』だそうだ。ちなみに王国と帝国は戦争中だそうだが、まあ俺には関係ない話だな。
そうこういう内に数刻もせず寂れた村にたどり着く。ちらほらと人は見かけるが全体的に活気がないシケた村だな。村の中でもひと際目立つ大きな家の応接間に通され、待つこと数分――
「私はこの村の村長を勤めておりますアッサムと申します。この度は娘が大変お世話になったようで……」
「俺は田中だ。気にするな、よきにはからえ」
これまた幾何学的な顔立ちのおっさんが現れ、涙を流しながら俺と握手を交わす。権力者に恩を売ることは忘れないのがこの田中だ。さきほど他の村人を見かけたが、こいつらが特別なようだな。天は二物を与えず、俺の中の金持ちとビジュアル反比例説が確信に変わった瞬間だ。
助けたくて助けたワケでもないんだが、アッサムは大したもてなしも出来ないが食事の用意をするのでゆっくりして行ってくれと言う。よくまあ会って数時間もたたない人間を信用出来るもんだな。裏でもあるんじゃないか?
「さきほど娘に聞いたんですが、タナカ様は相当お強いそうで?」
シモの話か? 『幕張のショットガン』との異名は伊達じゃないぞ。撃つぜ? 超撃つぜ?
「たった1人で賊10人を追い払ったと聞いたんですが……」
そっちかよ、あと話盛ってんじゃねえぞクソブス。
アッサムの話では近くの森に賊が住み着いたらしく、若い女や子供がさらわれているそうだ。そういや山にいる賊で山賊、海で海賊だが森にいる賊は何て言うんだろうな? 森賊か? なんかターゲット層のわからない愛知のモリゾーみたいな語呂だな。キッコロ←わかる、モリゾー←!? だったもんな。
要するに俺に賊を退治してくれってことだろ? もちろん答えはノーだ! いいか? 俺はバカじゃない。殴り合いはしても殺し合いに身を投じたことはない一般人だ、無理に決まってる。そもそもそういう案件は国の仕事だろ?
それに断ろうとしたことで-8010Pになったこの善行ポイントだ。環境破壊しただけでマイナス5なのに人殺したらマイナスいくらだよ。それに運よく賊を退治したとしても、多くの賊の死体の中でホテイエソがヌメッと横たわってるビジュアルにお前ら耐えられるのか?
「村長! もうあいつらには勘弁ならねえ! 国も助けちゃくれねえし、ワシらで何とかするしかねえだろ! タナカさんの助けがあればできるはずだ!!」
突然、村人達が村長宅になだれ込んできた。こいつら盗み聞きしてたな? 行儀の悪いやつらだ、しかも他力本願草不回避。
「タナカ様お願いします! 無事、賊を討伐できた暁には私の娘を……」
馬鹿野郎、そんな奇抜なルアーに喰いつく魚はいねえよ。
いや待て、冷静になれ。俺は『浦安のカリスマ戦略家』とまで呼ばれた男だ。敵の状況、俺の持つ技能次第では相手を殺さずになんとかなるんじゃないか? それにさっきの話だ。若い女がさらわれてると言ってたな。美女の危機に颯爽と現れ救い出すヒーロー田中もいいんじゃないかな。撃つぜ? 超撃つぜ? ガキ? 知らんがな。ロリコン? 死ねよ。
「村長にとっては大事な娘だ。安易に差し出すなどせず、文字通り箱入り娘として厳重に保管しておくといい。賊に関してはまだなんとも言えないな。まずは知っているのならそいつらのアジトに案内してくれ。話はそれからだ」
村人の1人が賊の棲み家を知っているらしく案内してくれることになった。
数人の村人と共に森の中を進んで行く。1時間ほど進んだ先に鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた洞窟を見つけた。村人の話ではあそこが賊の棲み家らしいな。入口に突っ立っている下っ端みたいなヤツがその証拠だな。
聞けば洞窟の出入り口はあそこ1つしかないと言う。自ら袋小路に嵌まるとはバカすぎワロタだな。よかろう、この世の地獄を見せてやる――