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中島の命令により竜騎士隊は山の城へ帰還した。命令を出した本人が敵と仲良く話しをしているのを見ても一欠けらの疑問も持たないのが不思議でならない。
質問形式に変更し、中島との会話を進めていく。だが、こいつとの会話はある程度のところで止める必要がある。何故なら話が脱線しまくるからだ。先程も「何故ドラゴンの姿になったのか?」から「きのこの山、たけのこの里戦争」まで話が飛んだ。いい加減にしろ、きのことか雑魚すぎんだろ。
「なるほど、つまり帝国の司祭とやらがお前を召還したと。言う事を聞けば日本に還してくれると、そういうことだな」
『そうっス! けど何かあの人胡散臭いんスよね。日本人に会わせてくれるって言ってたのに全然会わせてくれないし。帝国じゃ英雄とか神竜とか持ち上げられてるんスけど、この図体じゃどこにも遊びに行けないし。しょっちゅう戦争に駆り出されるし。ご飯なんか最初生きた牛まるまる1頭っスよ! もう至れり尽くせりっスね』
それを言うなら踏んだり蹴ったりだバカたれ。
『知ってる人もいないし、それでホームシックになっちゃったとこだったんス』
結局、何故ドラゴンになったかは本人も司祭すらもわからず終いか……。まあどうでもいいか、人事だし。ちなみに俺がこの世界に来た経緯も話してある。日本に帰る方法なんか俺も知らんし。
「ところで、お前ら何やってんだ?」
中島の背中にバカ2人が張り付いているのを見つける。問い詰めるとバカ公女が竜の鱗で作った矢なら俺の装甲を貫けると思ったらしく鱗の回収に来たそうだ。なあ、俺そんなに恨まれることしたか?
「オラ、散れ! バカ公女に伝えとけ、てめえは見つけ次第モグラの刑だ」
『いいっスねー、こっちはアットホームで』
「俺を射殺そうとしてるヤツがいるのに何がアットホームだ。つーかよ、お前そんだけ強いんだから言いなりになってないで脅しの1つぐらいかけてやれよ」
『無理っス! そんなんしたらボッチ確定じゃないっスか!!』
正直ドラゴンの時点でボッチだと思うんだが。
『あっ、そうだ! 僕こっちの軍に入れて下さい! 出来たら司祭さん捕まえるの手伝って下さい!! あー、けど無理っスかねー、こっちの人いっぱい殺しちゃったし。現実味なさすぎなんスけど』
「いたけりゃ好きにしたらいいだろ。殺したとかどうのこうのとかは気にすんな、戦争やってんだ。ごちゃごちゃぬかすヤツがいたら俺が黙らせてやんよ」
「ねんがんのサラマンダーをてにいれたおwww」
「これでビッチ王女だまらせるおwww」
まだいたのかお前ら。後、残念だがビッチはサラマンダーには靡かんぞ。
――本陣天幕
「なるほど、話の経緯はわかった。ではナカジマ殿は私達に協力してくれるということだな?」
「ああ、本人? 本竜? まあどうでもいいわ、ここにいたいって言ってんだからその解釈でいいと思うぞ」
『オナシャース! あっ、ひょっとして現在の王様っスか? すんません、お父さん踏んづけたの僕っス。いや、違うんスよ? 足で追っ払おうとしたら勢い余って踏んじゃったんス。お悔み申し上げるっスね、マジすんませんした』
天幕に顔だけ入れて発言する中島に、流石の王も「戦争をしているんだ、ナカジマ殿だけの責任ではない。気にしないでくれ」とは言ったが微妙な顔してるな。強大な戦力を引き込めた喜びと親の敵を天秤に乗せているワケじゃなく、単に中島が空気を読めないからだろう。
「では私達は山の国奪還の為、ナカジマ殿は司祭を捕らえ祖国に帰る為に共に歩んで行こう!」
『シャース!』
王が高らかに宣言する。天幕にいる連合軍の隊長格から異論を挟む者がいないことから皆、納得してるんだろうな。もしこれが帝国が仕組んだ罠だったら? その考えが頭を過ぎったが、俺ならアレにそんな大役を任せない。可能性はゼロだな。
「まあ、司祭捕まえても交渉に自信がなければ俺に言え。ネゴシエーター田中の深淵を魅せてやる」
「キターwww」
「超www一www流www」
「タナカ、お前交渉という言葉に罪悪を感じないのか。恥を知れ、痴れ者が」
振り向いた時には公女は逃げ去っていた。あのガキ、絶対埋めてやる。
竜騎士急襲の件も片付き、連合軍は再び進軍を開始する。「中島がいれば問題ないだろ、俺は帰るぞ」と言ってはみたが、軍は俺でもってるようなものだから勘弁してくれと懇願された。一度止まって、ちょっとだけ考えたらわかることしか言ってないんだがな、大丈夫かこいつら。
鉱山と山間に潜む帝国兵への対抗手段だが、結局は有効な手段もないまま進むことになった。いや、有効手段がないってのはちょっと違うな、中島がいれば大体問題がないだけだな。
要はあいつら帝国がやりたい戦術ってのは、えー誰だっけ、竹田黒兵衛? 何かちょっと違うな。あー……ひこにゃんでいいや。ひこにゃんがやった『十面埋伏陣』に似たようなモンだろ。如何に背後を突くか、それが肝になる。対抗策として中島を軍最後尾に回した。
正面は俺達でなんとかする、後ろと左右は中島がなんとかしろ。上? 知らねえ。つまり中島が抜かれた時点で戦術が完成する。
だから進軍する前、俺は予め聞いておいたんだ。
「お前、弱点とか苦手なモンないだろうな」
『ないっスねー。あっ、しいて言えば虫が大っ嫌いっスね』
「その図体で虫如き怖がってんじゃねえよ、そもそも蛍と勘違いしてこの世界に呼び込まれたんだろうが」
『それもそっスねー。じゃあナシでオナシャース』
雷鳴の如く響き渡る咆哮。暴風を起こし彼方へ舞い上がる灰色の塊。それを追う無数の黒い粒。今まさに『十面埋伏陣』が完成したということだな。




