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「竜騎士隊はどこだ!」
天幕から飛び出し辺りを確認する。実際にこの目で確認して絶望的だったら逃げよう。戦力差なんか初めからわかりきってたしな。
「北、山の城方面上空です!」
一度上空に視線をやった後、目を擦り再び上空に視線を預ける。……目悪くなったかな? 遠近感がいまいち掴めないんだが。
「おい、どれがナカジマだ?」
「飛竜の群れの中央を飛ぶ者です!」
理解した。今、俺はすべて理解した。10万の軍を相手取り、単騎で城を崩す者。そしてトカゲの群れにコモドドラゴンがいる如き違和感、だって飛竜の群れの中に1匹だけ馬鹿でかいドラゴンが混ざってるんだぜ? 竜騎士隊が強いんじゃなくてアレ単体が強すぎるんだろうが! アレは別物だ、一括りにすんじゃねえよ。
「おいおい、冗談だろ!? アレにナカジマってヤツが乗ってるのか?」
「いえ、中央を飛ぶ巨大な飛竜がナカジマです。異世界の日本から召還されたとの噂ですが、タナカ殿と同郷の者ではないのですか?」
「バカ言え、あんな日本人いてたまるか!!」
「変身出来るものかと……」
どこの戦闘民族だよ。
「こんなモン勝てるワケねえだろ! 撤退だ、撤退!! うぉっ、何だオイ、揺れる!!」
――巨大な塊が地面に衝突する衝撃。その振動が収まれば、背後の頭上から聞こえる荒い息遣い。チラッと目の端に映るモノは爬虫類を連想させる堅固な灰色の鱗。……マジヤバイのがそこにいる、逃げれん。
「……ゴリラども聞こえるか? こっからは自由行動だ、全員周りの奴等を守りながら何とか逃げろ。こいつは俺がどうにか引き付ける、ロックオンされてるっぽいしな」
どっちにしろ転生させられるまでもう700Pきってるしな。第2の人生も早々に終了か、結局250日すら生きれなかったな。この世界来てからホント諦めつくのが早くなったよ俺。
しかし、そうは言ったものの引き付けることすら無理な件、戦いにすらならんだろ。勝てる見込みなんかゼロだゼロ。ハンカチが開幕ノーヒットノーランやるほうがまだ可能性が高いぞ。まあゼロが0.1%になるぐらいだがな。
ナカジマと呼ばれるドラゴンはまるで値踏みするように俺を睨め付ける。実力を測ろうとでも言うのか? そんなモン見りゃわかんだろクソッタレが。
生まれてこの方聞いたこともない唸り声を腹から響かせ、ナカジマは俺に背を向ける。この体勢から繰り出される攻撃はドラゴンお馴染みの尻尾攻撃ってヤツか! 「ヤバイよ、ヤバイよ」と俺の中の出川が警鐘を鳴らす。駄目だ、ここでリアクション芸などしようものなら即ゲームオーバーだ。
勿論、尻尾で攻撃された経験なんか猫ぐらいしかない。どう避ける、避けきれるか? 様々な思考を巡らす中、ナカジマが取った行動は意外なものだ。
「――ッ、廻し蹴り!?」
度肝を抜かれた俺は立ち尽くす形になる。だが無傷だ、当たってないからな。尻尾なら間違いなく殺られていただろう、そのフォルムで廻し蹴りは無茶ってもんだ。
自分の攻撃がかわされたと思ったのだろう、ナカジマは目に怒りの色を宿し、大きく息を吸い込む。この体勢から繰り出される攻撃はドラゴンお馴染みのブレス攻撃ってヤツか! 「ヤバイよ、ヤバイよ」と俺の中の出川と上島が警鐘を鳴らす。駄目だ、おでんとは比にならないぐらいの熱がくる。リアクションとる前に即ゲームオーバーだ。
勿論、火で炙られた経験なんかない。『やってみたいことランキング』上位の『汚物は消毒だ!』もやったこともやられたこともない。余計なことに思考が移る中、ナカジマが取った行動は意外なものだ。
「――ッ、チョッピングライト!?」
再び度肝を抜かれた俺は立ち尽くす形になる。所謂、打ち下ろしの右だ。だが無傷だ、当たるワケないからな。腕の長さ考えろボケ!
「てめえ、いい加減にしろ! 何ださっきからバカにしてんのか、尻尾使えよ! 火ぐらい吐いてみせろ!!」
『ちょっと前まで人間だったんだから尻尾も上手く使えないし、そもそも火の吐き方なんか知らないっスよ!』
こいつしゃべれんのか!? 奇妙な声だがハッキリと人の言葉が耳に届く。それに人間だっただと?
「おい、ナカジマって言ったか? お前、マジで日本人なのか? 俺は千葉から来た田中一郎ってモンだ」
『え、アンタ日本人っスか!? ……やっと、やっとぉぉぉおおお!!!」
ナカジマはその爬虫類のような目から涙を溢れ出させ俺に顔を近づける。お前の顔超怖えよ。
涙と鼻水で顔をグチャグチャにしたナカジマが身の上話を始める。興味ねえと言ったら更に泣きそうだから黙って聞いてやるとしよう。
――中島三郎16歳至って平凡な群馬の高校生、以上。
「馬鹿野郎、過程を省くどころか何にもわかんねえぞ! 興味もねえのに聞いてやってんだ、どういう経緯でここに来たかぐらい説明しやがれ!!」
同じ日本人でもこれかよ。この世界、バカになるウイルスでも蔓延してんのか?
『あっ、何だソッチ系っスね? 学校帰りに道端に光るモノがあったんで「蛍かな?」と思って覗き込んだら、この姿でこの世界にいたってところっスね』
駄目だ、全然意味わかんねえ。と言うか、こいつ元より頭悪いな。バカにしゃべらすのも時間の無駄だ、こっちが質問して話整理してやんなきゃなんねえなコレ。
「その前に周りがやかましくて話になんねえ、ちょっと部下の竜騎士ども帰らせろよ」
『そっスね。みなさーん! おつかれーっス、もう撤収していいっスよー!!』
軽いな、バイトかよ。




