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「報告します! 帝国軍が山の国より撤退を始めました!」


今後の方針を話し合う王城の会議室に入室を許可された兵士の声が響く。室内では郊外に駐屯する連合軍と共に王国奪還の勢いに乗じて山の国も奪還しようと意見を挙げる開戦派、帝国と一時休戦を結び国内の疲弊回復に努めようとする穏健派に別れて会議が行われている最中だ。ちなみに俺も隊長職の退任と城下町に一大歓楽街の創設を訴えているが聞き入れられていない。


「今が絶好の機会、このビッグウェーブに乗るしかない!」


「時は来た、ただそれだけだ」


開戦派も穏健派も揃って奪還する方に決めたみたいだな。まあ間違いなく罠だろうけど、いちいち指摘するのもメンドくせえや。


「開戦ということで纏まったようだな。では皆、明後日の朝には出れるよう準備に取り掛かってくれ!」


相変わらず椅子に縛られているへんたいの号令と共に将兵達は会議室を後にする。俺もここに居てもやることがないので出て行こうとした矢先、へんたいに呼び止められる。くだらないこと言ったら椅子ごと窓から投げ捨てるか。


「恐らく撤退は罠だと思う」


「じゃあ止めてやれよ」


「私とて兵達の命を軽んじている訳ではない。だが如何ともし難い戦力差があるのだ。それに先日の戦のように奇跡が起こることもないだろう」


何が言いたいんだこいつ? 無茶振りは出来ないパターンの方が圧倒的に多いぞ。


「罠と知りつつ死中に活を見出したいのだ。タナカ殿、貴殿にすべてを託す私を許してくれ!」


「馬鹿野郎、過程を省くにも程があるわ。突然すぎてビックリしたぞ」


と言いつつも実は結構面白いことになりかねん。大柴に盾を注文してからキッカリ5日、仕上げてきたのにも驚いたがあいつは更に+αを加えてきた。それに戦場の雰囲気にも多少慣れてきたところだ。重火器や砲弾のある世界じゃないからな。投石や火攻めさえ気をつけとけば、この鎧を身に付けている限りは命の危険はかなり下がる。それでも怖いモンは怖いがな。


勝手に命運を託してきたへんたいの上にテーブルやら椅子やらを重ねてから会議室を出ると、10名の副隊ゴリラとバカ2名が待ち構えている。盗み聞きでもしてたんだろう、顔が無駄にやる気に満ちている。


「説明する必要はないな。適当に準備しとけ。もちろん盾の使い方も全員に説明してあるな?」


「はっ、いつでも出撃出来ます! 今から出ますか?」


「盗み聞きするならちゃんと全部聞いとけ、明後日の朝だクソゴリラ。そんなことよりもトーマス、ミシェラン、準備は整ってるな?」


「万端でござるwww」


「容易いことですぞwww」


「うむ、ご苦労。副隊ゴリラは今から部下を全員集めて城下町に集合だ」


本来なら街の飲み屋大半を貸切にした盾完成パーティーの予定だったが戦前の景気づけに変更だ。もちろん綺麗どころも用意している。勃たないけどな! 金? そんなモンへんたいに請求回しとけ。









綺麗どころ用意しとけとは言ったがな……


「失礼しまーす」と俺の両脇に座ったのはレンゲとナズナだ。何でこいつらここにいるんだ? こんなんでも一応、公女と聖職者だろ? 


「お前は何でここにいるんだ、草原の国はほっといていいのか?」


「バカ王子の戴冠式に呼ばれていた。帰るのもメンドくさいのでまだいる。……ほら何してる、コップが空だぞ? はよおかわり作れ」


レンゲの足元にはバカ2人が跪いて接待している。そういや今はこいつらの主君だったな、バカが自由過ぎて忘れてたわ。服が所々解れているのでまた何か悪口でも言ったんだろ。


「お前はいい加減に村へ帰れよ。何でこんなとこで水商売の真似事なんかやってんだ」


「真似事じゃありません、副業です!」


何でも王国の城下町はサブカルが豊富らしく、欲望の赴くままに買い漁っていたら路銀すら無くなったと。どうせなら来月開かれる即売会にも参加しようと。もう死ねよ。


「当日は売り子で参加しますよ。なんと巷で流行のシスターコスです!!」


いいのか神様、この不届き者に天罰を与えなくても。


「あっ! あなたがタナカさんですね!」


「日本の事教えてくださーい! それにどんな女の子が人気あるんですかぁ?」


寄ってきたのは見覚えのない女の子、恐らく飲み屋で働いている娘なんだろうな。よかろう、この俺が直々にモテ女というものを教えてやる。


「まず1番人気は小悪魔系だな」


あの誘う仕草が兎に角いい。いちいちボディタッチなんかされた日には初陣の童貞なんざ一撃で轟沈させられるな。なかなか釣り上げれないからまた来ようという気にさせるテクも流石だ。ああ違う、これキャバ嬢だわ。今どきage嬢なんかいねえな。


「次は泥酔お漏らし系女子だ」


「やあよwwwやあよwww」


「さびしんぼやあよモードwww」


あれマジか? 何でも適当に書きゃいいってモンじゃねえぞ。実際に遭遇したら病院連れて行くわ、そいつ何かの病気だぞ。


「要するに見た目が良けりゃ何でも許される人生イージーモードってヤツだ。無論、俺もクソ性格の悪い美人は全然オッケーだ。性格の悪いブスはひっぱたくぞ。ハードモードの更に上を見せてやる」


「タナカ隊長、こちらにいらしたのですか!」


俺の周りに副隊ゴリラ達や兵士達が集まってくる。他の店でも飲めや歌えやの大騒ぎらしい。王国軍や連合軍の他の部隊も集まってきて城下町はさながらお祭り状態なんだとさ。


この世界の酒がいくら度数が低いとは言え量が嵩めばそれなりに酔う、酔い覚ましに店を出て市街をぶらつく。確かにどこもかしこも阿鼻叫喚の坩堝だ。まあ数日後には戦争始めようとしてるんだ、今日ぐらいは何もかも忘れて大騒ぎしても罰は当たらんだろ。


中央の広場ではキャンプファイアーのような催し物も始まっていた。井桁を組んで火を熾しているんだが、その中心にへんたいが磔にされている。あいつの業もどんどん深くなっていくな。関わらないでおこう……

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