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「……ワンモアプリーズ」
「一回で聞き取れクソ野郎。この武器全部お前にやるから、明日までにこいつら全員の盾作ってこい。俺と同じヤツな。出来なかったらお前石抱かして海に沈めるから」
耳クソでも詰まってるのか、耳を穿る森林の国の大柴に俺が掲げているのは以前こいつらに作ってもらった盾、曰くタワーシールドだそうだ。大人の身長ほどの長さを持つ至ってシンプルな長方形の盾だ。派手な装飾は嫌いだから付けてもらってはないがな。
「ムリムリムリ! 絶対に不可能だよ!!」
なんだ、普通にしゃべれるじゃねえか。
「何言ってんだ。無理とか不可能とか何にもやらない負け犬の言い訳だぞ? いいか、クライアントってのは得てして我侭なもんだ。納期の前倒しとか直前の追加、修正なんかフツーだフツー。出来る出来ないを聞いてるんじゃない、やれっつってんだよ」
「待って、ウェェェイトッッッ!!」
まだ余裕あるなこいつ。もうちょい追い詰めるか?
「ユーの部隊は1000人だよね? 単純に1000の盾を用意しろってことだよね!?」
「正確には1010だ。理解が早くて助かるぜ。じゃあ明日取りにくるわ、出来なかったらお前鼻エンピツな」
「……王国中の盾を集めて、職人、技術者を纏めて1週間、いや、せめて5日はないと」
「しょうがねえな、じゃあそれで手を打ってやるよ。感謝しろよ?」
「ああ、サンキュー……。って何で僕が礼を言わなくちゃならないんだ!」
かかった費用は王に請求しておくよう伝えると大柴はすぐに取り掛かる為に城へ走って行く。うむ、出だしの早いヤツは俺の好感度が高いぞ。さて、次はこのクソゴリラどもだ、どちらかと言えばこっちのが問題だ。整然と並ぶ兵士達の前に立ち、奥まで届くよう声を上げる。
「よく聞けクソゴリラども! 今、貴様等から敵を攻撃する手段を取り上げた。意味はわかるな?」
「はっ! つまり敵を殴り倒せということですね!」
並ぶ兵士達の視線は俺の後ろだ。8の字に上半身を回転させているバカと左腕を振り子のように振るバカに集まっている。もう仕事終えてきたのか、有能なバカはほんとタチ悪いな。
「違ぇよ! 攻撃すんなってことだろがボケ! いいか、今後一切敵を攻撃することを禁じる!! おい、そこのゴリラ、『盾』とは何だ? 答えてみろ」
「殴……「違う、もういい」」
流石だな、一言目から期待していたことと間逆のことが口から出ている。逆に盾をどう扱うつもりなんだ? 少しでいいから賢いヤツはいないのか?
「じゃあ副隊ゴリラ、お前は周りを囲まれた状態で10人相手にケンカして勝てるか?」
「勝てます!!」
勝つんじゃねえよ、言ってることが台無しになるじゃねえか。
物事の本質は『質と量』だ。どんなに良い物でも1つじゃ足りねえしゴミはいくら集めてもゴミのままだ。俺の見立てでは帝国軍との質に大した差はない、何故なら大半がバカばっかりだ。だが問題は量だ。
「10人相手にケンカで勝つには、まず逃げだ。逃げまくって相手をバラけさせろ。そっから隠れて1人づつ不意打ちだ、転がして力の限り顔を蹴り続けてやれ。真正面から相手する必要はまったくない、重要なのは如何に無傷で戦い続けるかだ」
帝国軍との軍勢の差は倍ほどある、おまけに相手が陣形組んでそれぞれが役割を果たしてきたらこっちは蹂躙されるだけだ。
「要はいつでも数的優位に立つことだ。千には二千で当たれ、二千には四千だ。王国軍の中でその状況を作れるのはお前らだけだ。ただただ前へ進め、敵を討つのは周りに丸投げしろ、指揮も届かなくなるぐらい相手を分断するんだ」
どうせ攻撃特化型ゴリラだから不満だらけだろ、そう思いながら並ぶ兵士達を見渡すと何か信じられないモノを見る目つきで俺を見ている。お前らそんなに殺し合いがしたいの?
「……天才だ」
副隊長の1人が呟いた言葉を皮切りに兵士達は地鳴りするほどの歓声を上げる。
「我等の隊長はとてつもない戦略家だ!!」
「この方の下で戦えるとは次の戦が楽しみだな!」
「NA・I・SEI!! NA・I・SEI!!」
「焼いた肉をパンで挟むなんて画期的でござるな!」
……バカにしてんのかテメェら? だが結果オーライだ。これでこいつらが相手を殺すことはないはずだ。……はずだよな?
明日から本気で働く。多分




