表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/32

2

 さきほどの出来事はやはり夢じゃなかったのか……


 気が付けば俺は草原と森の境界に立っていた。峠道で死んで幽界それから異世界へと、夢だったらよかったなと思うが視界の右上にチラつく-8000Pという数字が俺を現実に引き戻す。


 あのクソジジイの説明だと10000超えると何だっけ? たしか深海魚マニア垂涎もののホテイエソに転生させられるんだったな。それは嫌だ! 光も届かない深海でヌメヌメ泳ぐだけの一生なんて絶対に無理だ!!


 流石のこの俺でも背に腹はかえられない、水戸黄門と見紛う如き人助けと世直しの旅に出るのだ。これでパシリのスケカクがいれば言うことなしなんだがな。八兵衛? アレと旅は無理だろ、うっかりしすぎて命の危険を感じる。


 だがその前にジジイがつけた能力を確認しておく必要があるな。重い物でも楽に持ち運ぶことができる、単純に腕力が上がったのか? 足元の小石を拾い先に見える木に向かって投げる。


 ……うむ、普通。別に木を薙ぎ倒すワケでも165キロの剛速球が投げれるワケでもない。日ハムのハンカチより若干制球がいいぐらいのもんだ。


 次は拳ほどの石を拾ってみる。ん? 重さを感じないな? 同じように投げてみたが飛距離は半分ほどに落ちた。もしやと思い自分の頭の3倍はある岩を持ち上げてみる。いとも簡単に持ち上がった。だが放り投げようと手から離れた瞬間、地面に落ちた。


 なるほど俺が触れた物が触れている間だけ軽くなるという認識でいいな。その後いろいろ試してみるとある程度の物は持ち上げることができるが極端に大きい物は無理。木など根が張っている物も無理、しかし抜いてしまえば軽くなることがわかった。


 うん、微妙だなコレ。シンプルに腕力が強くなるだけのほうが良かったな。ちなみに俺の視界にチラつく数字は-8005Pになっている。木を引っこ抜いたからか? マジか、一歩ホテイエソに近づいたじゃねえかくそったれ、若干アゴがしゃくれてきた気がするぞ。まったく世知辛い世の中だな。


 さて、そろそろ人恋しくなってきたので人の集まる場所を探そうと思う。だがこちとら異世界歴1時間未満のひよっこだ。右も左もわからなければ自分の現在地すらさっぱりだ。目の前は草原、後ろは森。普通は草原だろ、ここで森に向かうヤツは頭おかしいんじゃないか?


 だがそんな俺の予想を裏切り森から女の悲鳴が聞こえてきた。この俺が助けを呼ぶ女の声を聞き逃すはずあるまい! 男? 絶滅しろよ。


 身を潜めながら悲鳴が聞こえた方向にむかう。この田中、下心を隠したりはせぬ。なんなら恩を着せる心構えだ! そうこうしているうちに人影を見つけた俺は即座に木の陰に身を隠す。まずは女の顔をチェックするのだ!


 山賊みたいな男が2人、女に詰め寄っている。そいつらはどうでもいい、肝心の女の顔がここからじゃ見えない。もう少し近づくか……


 身を屈め、物音を立てぬよう少しづつ近づいていく。


 ………………………………!?


 あぶないあぶない。咄嗟にマガジンマークがでてしまうレベルだ。恐らくあの女はアレだ、この森の主だ。間違いなく強い、そう断言できる。


 問題の平和的解決を確信した俺は即座にその場を離れようとする。もちろん善行ポイントは-8010Pの現状維持だ、何も問題ない。唯一問題があるとすれば俺の体だ。なんせ足が動かない。それどころか俺の意思に反して森の主のほうへ向かおうとする。


 これはあのジジイの呪いか? ふざけるな! ヤツは助けを必要としていない、余計なお世話というものだ。その上でこの足が主へ向かうのなら、俺はこの足を切り落とす。この手が主を救うというのなら、この手を引きちぎる。甘んじてホテイエソに生まれ変わることを受け入れよう。深海も案外いいとこかもしれんしな。


 そんな抵抗もむなしく俺は山賊の前に立たされる。俺、生まれ変わったら憎しみで人を殺せるようになりたい。


「誰だ!」


 もうどうでもいいナリ。


「なんだオメェ、この女のツレか?」


「そこは訂正させてもらおう。この女とは髪の毛1本ほどの関わりすらない」


 お前ら失礼すぎんだろ。俺とこいつの共通点は霊長類というカテゴリーだけだ! そこのガキの落書き帳みたいな顔した女、そんな希望に満ち足りた目で俺を見るんじゃない。目ん玉潰したくなるだろ?


「お前らに聞きたいんだが、コイツをどうする気だ?」


 女を指差し、山賊に尋ねる。もちろん興味本位だ、助ける気など最初からない。だが山賊は俺に向かい斧を突きつけながらこう答えた――奴隷商に売ると。


 俺の怒りのボルテージは一気にMAXまで上り詰めた。貴様らはなぜ人の迷惑を考えれんのだ? 商売というのは店主と客の信頼があって成り立つものだ。買取拒否など店の信用問題に繋がる。馬のフンを売られる道具屋の気持ちが理解できるか? 奴隷商も泣く泣く買い取るしかないのだ、たとえ不良在庫とわかっていてもだ!!


 近くに倒れていた3mほどの木を片手で持ち上げ山賊を威嚇する。今の俺の双肩には全奴隷商の切実なる想いが乗っているのだ! 貴様ら覚悟しろ!! 


 だがそれを見た山賊たちは恐れをなして一目散に逃げ出した。やはり丸太最強武器説は正しかった、伊達に数多の吸血鬼を葬ってきたワケじゃないな。それに右上にチラつく数字はいつのまにか-8005Pになっている。俺は見も知らぬ奴隷商を救ったのだ!


「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました」


 斬新な顔立ちの女が俺に話しかけてくるが、俺には何も聞こえぬわ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ