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「あのガラスの器、何なんだ?」
「分からないのか?」
「分からない」
「お前が学生時代に骨董品屋さんで、欲しいって言ってたヤツだよ」
「あ、ああ、そうだったな!ありがとうな!」
僕は彼に、そう言って、そのあと、お互いの近況を語りあって電話を切った。
そうだったな…僕が欲しかった物だった。
部屋にあったものは、僕が自分で骨董品屋さんで買ったんだった。
整理してみる。
僕は、大学の時、骨董品屋さんで、この器が欲しかったが金銭的に買えなかった。
僕は、社会人になって、金銭的に余裕が出来て、自分で買った。
僕の大学の同期生が、僕が、この器を気に入っていたことを覚えていてくれて、買って、わざわざ送ってくれた。
僕は、2つの器を見て自分に言い聞かせていた。
(思い出すんだ、僕は、この器の、どこが良かったのか)
でも、僕には、この時、目の前の器に価値を見出だせなかった。
二つも、持っているのに。
僕は、台所に行き、2つのガラスの器に日本酒を注いだ。そして、一つを手に持ち、グッと飲んだ。
『あら、イイ飲みっぷりね』
気になる、あのヒトが、もう1つの器を持って、そう言ってくれているのを妄想していた。




