過去
一章 神様の操るこの世界は何色だったのだろうか
第1章【ねぇ、君は何色?】
エルトミア国 サファイア街 路地裏
「君、こんなところで何をしているの?」
ある男の人がいきなり話しかけてきた。驚いて顔を俯いてしまって相手の顔は見えない、僕は、ハク・リミュール、路地裏の薬屋で、熱の出した双子の兄に飲ませる薬を買っていたところだった。
「兄弟に飲ませる薬を買いに来ただけですよ、」
僕は落ち着いたトーンで話した。
「ふーん」
男の人は僕の顔をのぞき込む、僕もふと顔を見てみたら目の前には物語に出てきそうな王子様のような整った顔立ちの青年の姿があった。
僕より年上だけど…2、3歳上ってところかな、
「あの、なんかようですか?」
青年はニコッと微笑むとこう言った。
「…、いやぁ、マジュっていう桃色の髪を持つ桜猫のやつを探してるんだよね…君、ソックリだよマジュに」
「そ、そうなんですか?」
僕は驚いた。
「兄弟って、そのマジュっていう子じゃないの?」
「えっ…」
そのとおりだ、最近…、いや昔からマジュは珍しく、魔力の塊のような強さとどんな人も魅力してしまう綺麗な顔を持っている、マジュの過去には色々あって神々のお話…神話にそれが記されている。その話が正しいかはわからない。神話にてマジュがどんなに特別ですごい奴なのかは分かる。だから、それを読んだ怪しい組織などに手配されているのだ。
※神話…神の話、いつの間にかの歴史の動き、影響を及ぼすものを記している。
双子といえど僕は失敗作に過ぎない…。
(でも、失敗作の僕でも全身全霊でマジュを守る勇気くらいは持っているはずだ、狙われてるのはマジュだけなんだから、狙われてない僕が守らないと!)
でも、なぜこの人はそんな事(僕とマジュが兄弟か)を聞いてくるのだろうか、僕は怖くなった。マジュを狙ってるんだ…、
「違います!そんな人知りません!!ぼっ、…僕、用事があるので、失礼します!」
ここにいてはいけない、多分コイツはマジュを狙う暗殺組織だ、マジュの強さを悪用する気だ。瞬時にそう悟った僕は家に帰ろうと急ぎ足で路地裏を出ようとする。
「待って、別に探してると言っても連れ去るとか、殺すとかそういうことはしないよ、ただ、その子についての神話を…本当の話を聞きたい、」
この時の青年は必死で、何か裏があるようにも感じた。
(神話を読んだのなら、わざわざ、本当の話を聞きたがるなんて怪しすぎ)
「…、だから兄弟じゃないと言って…」
「僕、わかるんだよね、君が嘘をついていること、dialmemory【記憶】の使い手だから…でも、この神話の本当の話だけは手に入らなかったんだ…本当の事は咲夜姫と君しか知らないからね、しかも君の脳内にもフィルターが貼られている、誰にも見つからないように。」
中途半端な情報しか手に入らなかったから…気になるのかな?
とか思いつつ…体は正直で、断ったら何されるかわからないという恐怖のあまりいつの間にか震えていた。
「…わかった、でも急いで兄弟に薬飲ませないとだから…」
モヤモヤする…、なんで僕はわかったなんて言ってしまったのだろうか。
僕の言葉を聞いて、青年はキョトンとした。
「マジュは薬なんて飲まなくてもすぐ治るよ」
「へ?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
「だってあの子…神話では不死身だって記されてたけど?不死身であれば何でも魔力さえあれば、熱なんて一日ですぐ治せちゃうんじゃないの?苦しいだろうけど」
え?
「そういうものなんですか?」
知らなかった、多分マジュ自身も知らないと思う。
「じゃ、そういうことで、教えてもらうとしますか…」
青年はニコッと微笑んだ
「僕の別荘、このへんから結構近いから、行こっか」
僕はこの時、この男の笑顔で少し安心してしまったことに今は後悔している。
30分後
僕はコイツを睨みつける、よく考えたら、そんな話、(マジュの能力などの仕組みについての情報)怪しいヤツなんかにできるか!
家に入れられたあと、何されたかわかるかい?情報提供をさせるために地下室みたいなとこに僕を拘束したんだぞ!!
ていうか…、普通に聞けばいいことを何故拘束したのだろうか…、僕は約束した事は守るし、逃げたりしない。
怪しさを倍増させるだけで、あっちに得なんてないのに…、とか思いつつ、
なぜついてきてしまったのか…、僕は数十分前の自分を恨む。
あの時、僕はコイツに臆していた、そのため思考が鈍っていたのかもしれない…いや、鈍っていた。(勢いでわかったって言っちゃったし)
上品で、かつ全身が麻痺して動かなくなるほどの威力があるコイツのオーラは多分上級品。マジュを助けに行ったあの日から魔法が封印されてて制限されているし、コイツと闘っても殺られるだけ…、多分それで、咄嗟に 言う という選択をしてしまったんだと思う。正直このまま話をしてしまったほうがいいと僕も考える。でも、ダメだ。
「言うわけないだろお前なんかに!」
約束は破ってはいけない、でも、マジュを絶対に守らなくてはいけない…、本当に大事なのはこんな男との約束じゃない、マジュだ。
青年は何かを考えるかのように顎に手を置くと少し間をおいた。
「ねぇ?知ってるかな……あの子はね…世界を守るヒーローじゃなくて世界を壊す道具になるために生まれたんだよ。この前、僕の弟が計画に最も必要な人物…マジュをやっと見つけたってすごく喜んでてさ、で、弟がマジュを研究室に監禁して実験してるって聞いたから、マジュの監禁されてる研究室に行ったわけ…そこで見た光景は恐ろしかったよ…こんな僕でもね、…あんな力持ってるんだよ?怖すぎだろ…フフフ、でもね、実験したりするだけじゃ分からなかった事とか、マジュの記憶が読めなかった部分があるんだよねだから君に聞きたかったんだ…本人じゃ怪しんでついてこないだろうしね…フフフ」
青年は気味悪く笑う。
「マジュに何をしたんだよ!?」
僕の声は地下室に窓や空気穴は少ないため、こもって跳ね返ってきた。両腕、両足を拘束されているため、何も出来ない。
「別に大したことはしてないさ、強さの秘密を知りたいだけ…薬物を投与したり、検体を殺さしてそれを観察してただけだったと思うよ、
観察しててわかったことひとつ教えてあげる。マジュはね、闘う時、【自喰他人】の呪いに喰われる…本当の自分…理性が、…理性がぶっ壊れたマジュは仲間をも喰らおうとする。強くなるために…お前もいつか喰われるよ、実際、大切だったマリアちゃんだって食べちゃったし…ククク」
何を言っているんだコイツは…、頭が追いつかない。
僕は、この男の言う事をただ、聞くことしか出来なかった…。
「ほら、いいなよ…、泣いたってダメだよ、痛い目にあいたくないでしょ?マジュの強さの秘密…昔の出来事を教えて?」
やっぱり悪用する気なんだ…、マジュを…。
僕は、恐怖と後悔と心に残るモヤモヤで反論する気も失せた。
「…………」
バシュッッ!!
「…っ!!イタィ…っ、」
背中に叩きつけられたムチの音も聞こえないほどに、それは痛く…心にも身体にも響くものだった。
(マジュは道具でも何でもない)
このまま話したら少しでも楽になれるだろうか。
マジュの体の仕組みの情報を渡せば弱点もわかってしまう…。でも、このまま言わなければ僕が死んでしまうかもしれない…痛いのは嫌だ、苦しいのも辛いのも…。この時の僕は恐怖のあまり自分を守ることで精一杯だった。
「わかった、でもまずアンタの名前を教えてくれ、あとアンタの弟の事も」
コイツの弟がマジュを傷つけたやつ…、きっとラピトに違いない。僕は、平等に取引をすることにした、
「…いいよ、僕の名前は、ラク・ゾルゲン…弟の事は君の話が終わったらしてあげるよ」
ラクはニコッと怪しく笑うと僕のことをじっと見た。
地下室の暗い空間に少し差し込む光がラクを照らすとその笑顔がより一層怪しく怖いものに変わって見える。
僕はスゥっと息を飲み込むと口を開いた。
「…あれは、僕とマジュが幼かった頃の話…」
続く