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“光の庭”のうたた寝 =094=

❝ =第一章第5節_27 ; 陰山山脈の南域にて・・・・ ❞

 話の興味を削いだようだが、 時の流れを踏まえるために、今一言。 天祚帝は興宗の孫である。 第8代皇帝道宗の子の章懐太子耶律 敖盧斡(梁王濬)の長男として生まれている。 政争の結果、幼くして父を失い、これを哀れに思った祖父道宗によって妹の秦晋国長公主とともに養われ、梁王に冊封されていた。 1101年、道宗の崩御により 彼が第9代皇帝に即位する。 天祚皇帝である。

 

 因みに、耶律大石統帥が弟と呼ぶ耶律楚詞の父は同名の耶律敖盧斡ヤリツ・ゴロアツ。 楚詞の父は天祚帝と蕭文妃のあいだの長男であり、陰謀の誣告により罪で母の文妃は処刑された。 しかし、天祚帝には敖盧斡を処刑するに忍びず、人を派遣して絞め殺させた=貴人に対する刑の執行=。 ある人が敖盧斡に亡命を勧めたが、敖盧斡は「小さな体を守って、臣子の大節を失うことはできない」と言って従容と死についたという。


 このように、天祚帝は暗愚な性格で政務を顧みず、諫言した臣下に対しては処罰を以って臨むなど、民心の離反を招いていた。 遼と敵対関係にある金は遼の弱体化を好機と捉え、1122年 金の太祖・阿骨打は親征した天祚帝を入来山で迎戦、完膚なきまでも撃破した。 大敗した天祚帝は長春に逃れ、 陰山南麓の五原に残余の諸将と共に陰住した。 五原に陰住し、砦のような宮庭にて自身の安住のみを策動する天祚帝は西夏王国への亡命は受け入れられず、単独で北宋への潜入を画策していたのであろう。 全ては、事ある度に大石派に反抗し、時には誣告や陰湿な策謀を献策してきた佞臣の耶律撒八が画策し、暗躍した結果であろう。


 金の阿骨打は、 翌年の1123年に逃亡した遼の天祚帝を追撃する。 しかし 瀋陽付近で、56歳で病没した。 金帝国を磐石な侵略国家に再構築する前の若すぎる死であった。 彼の死に関しては、緘口令が敷かれ、 同母弟の呉乞買(太宗)が後を継いだことは極秘事項にされ、敵対勢力に漏れる事はなかった。

 

 金の阿骨打が病に伏して薨かった 四年後の事、金の第2代皇帝に即位した呉乞買・太宗は寛大で人格者だった太祖(阿骨打)と違い、勇猛果敢で果断な行動に出る。 その実行への批判は許さず、独断専行である。 燕雲十六州の奪還を目指す宋軍が燕雲地方に駐留する金軍を牽制する動きの情報を知ると激怒した。 燕雲十六州は、金の皇族の粘没喝(ネンボンカツ、阿骨打の従子)が統括しており、彼の武将として帰順した耶律余睹が都元帥府・右都監に任じられ、西京(大同)の統括に当たっていた。


 天会4年(1126年)呉乞買皇帝は 逸早く 早く直ちに北宋との戦端を開いて黄河を渡り、北宋の首都開封を包囲した。 独断専行の親征である。 この戦役は宋軍がよく持ち堪えたため呉乞買は宋と講和を結び、引き揚げた。 だが、宋が再び盟約で約束されていた歳貢も滞ったため翌年の1127年に再び宋を攻めて開封を陥落させ、北宋皇帝欽宗とその父を北方の上京会寧府(金朝の都城、1153年に燕京に遷都)へと連れ去って北宋を滅ぼした。


 この時、北宋の皇后、皇女、女官達、女性数千人も同様に拉致し、金の官設の売春施設・洗衣院に入れた。 彼女達は一名も生還しなかったと言う。 呉乞買は敢えて宋の憎しみを買ったのか、それとも 己の色情に浸ったのか。 いや、彼は蒙古草原を支配する野望を潜めていた。 蒙古高原東部の有力部族であるタタルに宋の皇女、女官達を宛がい懐柔したのである。 呉乞買はタタルを通じて耶律大石が蒙古高原の可敦城で再興を目論んでいることを知っていた。

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