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“光の庭”のうたた寝 =079=

❝ =第一章第5節_12= ; 陰山山脈の南域にて・・・・ ❞

 朝餉を終え、何蕎の案内で耶律康阮と康這の兄弟、梁山泊の宋江、呉用、燕青の六名が一団と成ってセデキ・ウルフ邸に出向いた。 冬の太陽が黄河の背後から登り来て、三時間は過ぎていたであろう。 風は無く、寒さは感じない。 何蕎が五名を案内した部屋は、セデキ邸の奥庭に面する部屋である。 池が配され、古木と奇岩が池を際立たせているようである。 奥庭は渡り廊下で囲まれ、彼等が入った部屋の廊下は太陽の光が奥まで届いていた。


 乾燥地帯である黄土高原の北限に位置する興慶城郭内で、これ程の邸宅を構えるセデキ・ウルフの権勢は前庭、中庭、この奥庭と渡り来れば自ずと知ることが出来る。 しかし、権勢には無関係に、いや 強いて権力者に逆らう生き方を選んでいる宋江や呉用、燕靑には苦々しい思いであろう。 たとえ、その力を有する者が仲間であろうと。 


 何蕎の案内で耶律康阮と康這の兄弟、梁山泊の宋江、呉用、燕靑の六名が中庭に面した部屋に入るなり、セデキ・ウルフ殿が王宮へ参内して昼前まで帰らぬと門衛が耳打ちしたと何蕎が言いつつ、部屋の左奥にどっかと胡坐をかいた。 それに倣った他の五人は思い思いに、部屋の壁際に置かれている大きな脇息、膝枕を腰の背後や脇下に置いて、直接 絨毯の上に腰を下ろした。 しかし、両脚を組んだり、揃えて流したりで どうも 納まりが悪いようである。 彼等には椅子に座せば、背筋が伸びる事で態勢が整い、思考も整理できるようである。 また、室内や廊下 庭を歩き回ることも意に介す事も無くふるまえるのだが、どうも 絨毯にこしを落としてしまうと、再び 立ち上がるのに決意がいるらしい。


ウイグル族の生活には机や椅子の生活は無い。 床に胡坐(あぐら)をかく生活である。胡(西域の異民族、匈奴・騎馬民族)人の坐(座ったまま、何もしないさま)姿が屋内での基本的な姿勢なのである。食事は食菜を部屋の中央の床に直接置いて、車座になって食べる。 箸は無く、手で いや 指で摘まむように食べる。ナイフで肉の塊を自ら切り刻んで口に運ぶ。無論 食前、食後の手洗いや口すすぎは宗教的慣習の一環として励行せねばならない。彼等が思い思いに寛いでいる屋の中央には大きな銀皿に果物と、小麦で作られた菓子が盛られていた。


 何蕎が勧めるままに、思い思いの果物や菓子を膝上に置いて六人は食していた。昼餉前にセデキ・ウルフは帰って来た。 部屋に入るなり、彼は順繰りに一同の顔を眺めている。 同行した下僕が大きな脇息を奥の中央に置いた後に、何か耳打ちして出て行った。セデキは脇息の左側にどっかりと胡坐をかいて壁際に座す六名に車座になるよう促した。 何蕎が右脇に座り、左側には宋江、呉用、燕靑と連なり 何蕎の右手側に耶律康阮 その右には耶律康這が座した。 セデキ・ウルフと燕靑、康阮の二人の若者が対座する型と成っている。 中央には果菜が銀の大皿に盛られている。 沈黙する中 互いに目と目を合わせているが、泰然と胡坐をかく人物が醸し出すのであろうか 室外の雰囲気は、あたかも晩冬の陽光が満ちているような 和やかさであり、初対面の連中が醸し出すかた苦しさは微塵もない。


 「丞相さま、こちらのお二人が耶律大石総師の将 耶律康阮殿にその弟耶律康這殿。 昨日 お話致しましたように、康阮殿は楡林を基点に燕雲十六州南域にて宋と金の動向を探っておられる。 康這殿は鄂爾多斯南域にて天祚帝を窺い、長城南部の要路にて南の情報を・・・・」


 「はい、セデキ丞相さま 先般は必要以上の御援助を賜り、お礼の言葉もが在ません。 先に お礼を申し上げねばならぬものと・・・・・・」と康阮兄弟が低頭するのを優しく制したセデキ・ウルフが言葉を継ぐ。


 「康阮殿、我が方も西夏の忍びを方々の要路に配している。 それに、近々 これと言った動きは無さそうだ。 先般、燕京の石抹言尊父の紹介で梁山泊の宋江殿が参られ、宋の動向など詳しくご講義下された。 また 先日には宋江殿に呼び寄せられたと そちらのお二人、確か 呉用殿に燕靑殿が参られ 種々 話を聞かしてもらった・・・・」


 「宋江殿、オルドスは如何でしたかな、漢南の方には草原の旅は趣が異なり 日々 飽きる事が無かっただろうと思われますが・・・・」


 「無頼者は詩情を持ち合わせて居りませんが、漠々と広がる草原、緑萌える時節には今一度 旅したいものですな。 梁山湖に艫結する船は晁蓋に引き渡しましたが故に、呉用の知恵と燕靑の探索で草原に駿馬を走らせるのも、痛快かと愚考いたすが故に 両名を呼び寄せたのだが・・・・・・」



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