表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/101

“光の庭”のうたた寝 =071=

❝ =第一章第5節_04= ; 陰山山脈の南域にて・・・・ ❞

 喉を焼くような狼酒(ラオシュウ)は蒙古高原や満州の大地に相応しい。 契丹や女真の民が高粱(コーリャン)から造る焼酎。 白酒(バイチュウ)は雑穀酒であり、宋江の故郷には高粱の茅台(マオタイ)酒が名産であるが・・・・・。 鄂爾多斯(オルドス)長城の南東に接する望夏邑の商人宿で語らう耶律康阮と康這の兄弟が宋江を挟むように円卓の座していた。 小奇麗な部屋は暖かいが外は駱駝すら凍死する寒気である。 春が訪れる、その直前が一番厳しいのであろう。 しかし、部屋の暖かさに増して 三人の身体は狼酒が内部から温めていた。 三人そろって酒豪であった。 耶律康阮は、宋江に一時間ほど前に初めて会い 酒を注ぎ合っているのだ。


 「今宵のお酒は、誠に美味い、また 宿の主人が差配した鶏の肉 柔らかくて口に会う。 耶律康阮殿、この小麦で作った菜は遊牧の民の料理であろうか・・・・昨年の初め、安禄明殿の屋敷で石隻也と言う若者に会った。 禄明殿の誘いで夕餉を共にしたのだが、その折に安家に伝わる北方の料理を頂き、箸を使わぬ作法に満悦した。 その折に彼が顔を出したのだが、大石統帥の命で旧主への連絡に立ち寄ったと言っていた。 彼の話で、無事に北庭都護府・可敦城に入られたと知った。 自由の身で居られると知った以上、何としてもお会いしたい。 なれば、追うしかないと 寒さが厳しくなった燕京を一旦 離れて、江南の古巣に舞い戻った」


「 一ヶ年近くの不在だったが、仲間に語らい、《光の王国》を耶律大石殿と共に築くと決意を述べた。 そして 晁蓋(チョウガイ)を新生梁山泊の初代首領に定めると、大石殿を追って蒙古高原に向かうと決別した。 直ちに 燕京に再び入京して石抹言殿から西夏の重鎮であるセデキ・ウルフ殿への紹介状を拝領したしだいです。 思い立てば足が勝手に動く。 西夏から蒙古高原に脚を踏み入れる事は、愚生はもとより 新生梁山泊にとっても都合が良いわけ。」


 宋江は、一見 風采のあがらない小男に視えるが梁山泊の好漢百八人中の序列第一位の好漢と呼ばれた人物。 今は首領の地位を晁蓋に委ね耶律大石の下に向かおうとしている。 康阮は如何にも武将に相応しい巨体、北方遊牧民の顔たちで口髭と顎鬚が一体と成って唇の赤さが目立つ。 康阮の弟康這は西夏の都興慶で宋江に会いったのは五日前であった。 康阮ははち切れんばかりの筋肉が上着を通して知れる身躯、棒術と弓矢の名人である。 四日前の早朝に興慶を出立した康阮と宋江の二人は、黄河右岸の昊忠から長城沿いに交易路を東に旅し、ここ望夏邑に二日前に来ていた。 宋江は酒を 到着以来 一時も身辺から離さないのであるからして 子柄とは言え酒豪である。


 「宋江殿、我らが軍師 欽宇阮に会われましたかな?」


 「欽宇阮殿とな・・・・? いや、興慶のセデキ・ウルフ殿宅に五日ほどお世話になっておったがが・・・・・、何蕎殿からも・・・・・」


 「兄者、私は何蕎さまから 宇阮さまの一団は、西蔵に向かうソグドの隊商の護衛として旅に出ていると聞きました。 これはセデキ・ウルフさまのお計らいとのこと。 なんでも、宋の南下、西夏の東進で吐蕃が北東へ勢力を伸ばそうと動き出しているとの事。 いま、金との関係で西夏が表だって吐蕃の動向偵察に向かうわけにゆかず、宇阮さまにその任を依頼されたのです。 二ヶ月を要すると言っておられましたが」


 「なれば、五月の新緑の折には北庭都護府・可敦城に戻られるわけか、我らの苦労もそれまで続こうと腹を決めねばならぬか・・・・・」と 耶律康阮は弟の康這を見据えて呟き、杯を干している。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ