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“光の庭”のうたた寝 =065=

❝ =第一章第4節_16= 可敦城 遊牧民との協調 ❞

 凍てつく黄河の左岸を鳥海に向けて、商人姿の石隻也は北上していた。 興慶の街から鳥海までは彼の足では早朝に出立すれば日が陰る前に鳥海に着ける。 初めての道とはいえ黄河を眺めながら北上すればよく、迷うことは無い。 また、この道は蒙古高原に向かう隊商の幹線路でもある。 興慶で過ごした何蕎宅での四日間で燕京からの長旅の疲れも取れ、大石統師の下に帰れると思えば自ずと脚が進む。 日没前に鳥海の街なかを歩んでいた。 前夜、何蕎が話してくれたた忠弁亮の店は街道に面していた。 鳥海では一番の商人であろうか大きな構えの門前で案内を乞うと直ちに中庭に通され、母屋の温かい小部屋に導かれた。 肥満した体躯を軽快な歩みで入って来た女性の後ろからチムギが顔を出した。 隻也を驚かそうと二人して相談しつつ現れたのであろう。 事実、隻也には彼女がここに居るとは思いのつかなかった異変であったのだ。 


 店の主人の忠弁亮が北方の商いに出て不在の事、楚詞さまが蒙古東北のタタル偵察に行っている事、等の情報をチムギはなんだか愉快そうに話した。 挨拶前の事でもあり、隻也はチムギの振る舞いが可笑しく思いつつも、セデキ・ウルフから預かった忠弁亮が世話した二頭の駿馬と鞍への答礼の品を女主人に手渡した。 そして、背筋を伸ばした後に、燕京の状況やチムギの父母からの伝言の言付け また、彼女の実家の状況や興慶で会ったチムギの姉パチグルの壮健ぶりなどを話し込んで行く。 何時しか、日は傾き部屋の中までも赤く染まる。 女主人はチムギの傍にて、チムギが娘でもあるかのような立ち振る舞いで隻也の話を聞いていた。 


準備された部屋で休息した後、隻也は女主人が手造りの料理を心行くまで味わった。 それは、隻也が初めて口にするウイグル料理で羊肉が主体であった。 暖かい寝床で熟睡した翌朝も暖かいウイグル料理が出された。 聞けばチムギが手造りと言う。 隻也は、深窓で育った彼女の一面を知った驚きと商人宿の女主人がチムギに男の集団の中で生活して行く上での知恵と技術を教え込んでさまを知った。 翌朝、日の出と共に朝餉を食べ終えた隻也にもう一晩の休息をとの二人の勧めに、彼は未だ見ぬ可敦城と早く大石統帥に会いたくて 飛ぶように旅立っている。 彼の脚なら、三日の旅程で北庭都護府・可敦城に至るであろう。



❝❝❝❝ 有閑挿話・鄂爾多斯 ❝❝❝❝


オルドス地方(鄂爾多斯)は、現行の行政地区では内モンゴル自治区南部の黄河屈曲部、西・北・東を黄河に、南を万里の長城に囲まれた地方を言う。 黄河対岸(北側)の河套平原なども含め、河套かとうともいう。 五原は河套平原の中央部にある湿原地帯であり、いたる所 自由気ままに蛇行した黄河が取り残したのであろう大小の湖、沼がある。  逆U字型に三方を取り囲まれるオルドスの大部分が海抜1500メートル前後の高原で鄂爾多斯高原と呼ばれ、南方 万里の長城を南に超えれば黄土高原に続く。


オルドス地方の中核地である鄂爾多斯からは、延安・銅川・西安の城郭都市はほぼ直線的に真南に位置し、楡林・大原・石家庄は真東に並んでいる。 鄂爾多斯に円の中心点を置けばこれらの城郭都市は等距離の同心円上にくる。 従って、モンゴル高原から華北、華北からモンゴル高原に通じる交通上の要衝が鄂爾多斯であり、古くは蒙古高原の支配者匈奴と秦・漢が争奪した地帯であった。 遊牧民族王朝(遼、西夏、元など)あるいは中華王朝(唐、明など)による支配を受けた。  しかしながら、オルドス高原の一部はステップであり、農耕には適せず遊牧民の世界であった。


因みに、後年にチンギス・カンが西夏の都興慶(現在の銀川)攻略のおり、西夏軍は30万以上を圧倒して夏期の避暑のため六盤山に本営を留め、ここで彼は西夏の降伏を受け入れている。 しかし、金から申し込まれた和平は拒否しつつ 金帝国攻略の戦略を練っていたのだが、突然 陣中で危篤に陥った。 このためモンゴル軍の本隊はモンゴルへの帰途に就いたが、西暦1227年8月18日、チンギス・カンは陣中で死去する。 彼は死の床で西夏皇帝を捕らえて殺すよう命じ、また末子のトルイに金を完全に滅ぼす計画を言い残したという。 元朝のクビライ・カアンはトルイの四男。

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