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“光の庭”のうたた寝 =056=

❝ =第一章第4節_07= 可敦城 遊牧民との協調 ❞

 厳冬期の草原で建設資材を入手するのは不可能に近い。 10日以上の旅をして定着民の社会、多くは万里の長城南の農耕村落に赴き物々交換での購入か、略奪するかしか方法がない。 蒙古高原の南東部に位置する可敦城跡の近辺が表土は凍り、しばらくは粘土ですら掘り起こして建設素材として活用できない。 勢い、手持ちの家畜の皮・骨 等を流用するのだが、寒気を防ぐ天幕としてしか使えないのであるから、建設資材とは言えぬであろう。 だが、蒙古高原は北庭都護府・可敦城の砦に入った諸兵は苦難を苦難と感じない若さがあった。

 新しい世界の創造に燃えていたと言える。 北辺の地から南下した太祖耶律阿保機は万里の長城の南北を支配する契丹人の帝国・遼王朝を開闢した。 その太祖耶律阿保機の末子である耶律牙里果の7世の子孫に当たる耶律大石が指導者として、遼王国は壊滅しようとしている中、この地にて、正嗣の遼王朝を新しく開こうとしている。 彼に従う若者たちは、全員が大石に心服し、彼の意を推し量って行動する集団であった。


 耶律大石は、28歳の時に科挙で状元となって翰林院へ進み翰林応奉に就いた。 太祖・耶律阿保機が王朝の根幹として、中華の諸制度を政経の範とした。 しかし、大自然を畏怖し、神が宿るがゆえにその恵み感謝する心の糧は中華の華美に流れ染まることを嫌った。 中華の諸制度を活用するために漢人を雇い入れて、公人官吏となした。 官吏の登用に模倣した制度の内、科挙制度は若き秀英たちが目指した最高の学位資格であった。 漢人であれ、契丹人であれ、他の民族であれ、遼の皇族であれ科挙に応試することに差別はない。 官僚登用試験でもあるこの科挙に応試するだけでも名誉であった。 


 大石はその科挙の状元である。 第一等の成績を修めた者のみに与えられる称号が状元。 大石はそれを得ていた。 遼王朝開闢以来、100年にしてやっと誕生した、全ての公人が認める駿馬であった。 推挙によって北面官の大林牙院(南面官の翰林院に当たる)に進み上級の林牙に就いた。 そして、 泰州・祥州、平州の二州の刺史、遼興軍節度使を歴任した。 金が南下して領地への侵略を始めると撃退し、遼皇帝・天錫帝の傍に登籠すれば、宋の侵攻をくい止めた。 軍事的な才能も天与の異彩であることを証明した。 また、彼の人柄に多くの才人が自ずからと集まり、多くの異能者が彼の指示の下で働く喜びを覚えていた。


 耶律大石が飛躍の足掛かりに選んだこの地・北庭都護府可敦城は遼王朝が管理していた北方の遊牧民・蒙古族との交易の為に設けられた要塞である。 しかし、遼の衰退は中華風に染まった遼人が自らまねいたものだが、この城砦は遊牧民の生活を忘れていくに伴い見捨てられ、荒れるがままに、また 自然の為すままに荒廃していたのである。 故意に人が破壊しない限り、木材は乾燥地帯で朽ちる事は稀である。 構造物に使われた資材が朽ち果て、消滅する事はない。 例えば、長城の日干し煉瓦など 砂に埋没するだけで風雨による崩落はない。 また、蒙古草原で遊牧の生活を営む民の燃料は、家畜の糞である。 彼らには、木材を薪などに使おうという発想すら持っていない。


 開城祝いをした翌朝、大石の下に何亨理と耶律遥が思案顔で訪れてきて、「統師殿、朝一番に見回ってきて思うのですが、布と釘があれば寒さを防ぐ手当てができます。 ついては 私に10名の兵と馬30頭を貸し与えてください。 西夏の鳥海に行けば、見知りの商人がおります。 往きは四日、帰りの六日と集荷に四日、二週間の旅程ですが、その間に曹舜が木材を整理し、表土は硬いでしょうが氷った土を掘り起し、西側に擁壁を築き上げるのは容易でしょうから畢厳劉にこの作業を お命じ下さい。 全体の指揮は遥殿にお願いしたいのです・・・・」


 「よく気が付く、西側に擁壁を工夫して建造すれば、直ちに兵馬の畜舎が設けられると共に砦の防御の補強が一石二鳥と完備できるな。 して、鳥海に向かう馬と兵はそれで十分かな それと、遥よ、物見やぐらを考えて貰いたい。 木材は西側の柵の残材を工夫するとして・・・・・」


 「物見やぐらまでは・・・・ はい、直ちに、・・・・・革紐が・・・・耶律磨魯古の知恵を借りましょう。 亨理殿、革紐の数量を出立前までにお知らせします」


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