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“光の庭”のうたた寝 =054=

❝ =第一章第4節_05= 可敦城 遊牧民との協調 ❞

 見張り台を降りた大石は未だに佇んでいる長老に何事か告げると広場を横切り、北側の建屋に歩み寄って行った。 その建物の中央部、下屋の廊下に耶律遥を見つけた耶律多郁が彼に近づきざま 彼の袖を引く。 一言も口にせず、遥をぐいぐいと曳いていく。 足早で広場の中央に至ると、年下の遥に頭を下げた多郁は四辺を見渡して口を開いた。 大石統師から言われた城内の当面の使い方について遥の知恵を借りて、見落としが無い様にしたい。 と再び低頭している。 大石統帥は一任した任務については全く口を挟まない指導者であった。 老兵の多郁は部屋割りとは言え任された以上は最善を尽くそうと年は若いが人望がある知恵者の遥の助言を取り入れたかった。


北側の建屋の中央には大きな部屋があった。 その部屋には両脇の部屋に通じる扉があり、堅固な黒檀であろう扉は軋むことなく開閉できる。 中央の大広間が奥行6メートルで幅はその2.5倍であろう。 両脇の控室が6メートル四方。 三連部屋は天井が張られている。 板張りで装飾を施した天井で、壁は成形した堆積岩で四辺の壁を形成していた。 野性味がある。 西隣りの部屋との石壁には暖炉が設けられていた。 多郁が気を使ったのであろうか、大石がこの部屋に入り前から燃える黒い石が淡い炎を立てている。 また、両脇の部屋の寝台や机・椅子等の備品も黒檀であろう。 必要な物は揃っていた。 過日に近隣の遊牧民を統治支配した執行官の執務室としては質素であるが。


この北側建屋の中央部を構成する三連部屋は、蒙古高原の獣皮、羊毛やフェルトや乳製品と漢南の茶葉と穀物の交易基地として開設した北庭府の管理事務所の中核だったのであろう。 北側建屋の各部屋には寝台を始めとする家具が揃っていた。 続き部屋が三連部屋の東側にあり、必要な家具に不足はない。 奥行6メートルで4.5メートルと3.0メートルの続き部屋であり、天井の装飾が美しく、壁は漆喰で白い。 ツムギが占有することに成っている。 その先の東側には三つの大きな部屋が並んでいる。 そのうちの最東端を楚詞が選んだ。 仮設の馬小屋に近く城外への開口部を窺うことが出来る窓がある。 三連部屋の西側には大小の部屋が七部屋並ぶ。 30名の北帰行先遣隊が寝食を行うのに、十分である。 全ての部屋には暖房用の焚き口がある。 


 見渡す限りの平原の真っただ中に、遼王朝を建国しその権勢を拡大させていった耶律大石の五世代前の遠祖たちが、近隣の遊牧民を従わせると同時に北方のキルギス族やウリヤンカイの侵攻を防ぐに適したこの場所を前哨基地とし北の守りを営為して来た。 その後、時の推移と共にこの北庭府を増強し、北方の諸部族との交易基地とした。 そして、この場所を北庭都護府に昇格させては兵を駐屯させ、名を可敦城なる交易と防塁を経営して来たのだ。 視て回った可敦城の北側と南側の開口部なき堅強な外壁は、堅牢な城砦であったことを物語っている。 


しかし、遼の王家は南下してきた女真族に追撃され、遼の封土を侵略から守り切れずに長城の南に閉塞する状態に追い込まれた。 いや、今は 女真族を率いる阿骨打の後継者呉乞買は遼の王家を壊滅状態に貶め、万里の長城以南の遼王朝が公臣たちを金政権の下僕にしている。 阿骨打の丁寧な招聘を拒否して辿り着いたこの可敦城は、放置されて一部は朽ち、破損していが、いまなお 堅強で機能的な可敦城である。・・・・耶律大石統帥は満足していた。 燃える石の暖気がこれ程までも心地よいとは思っていなかった。

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