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“光の庭”のうたた寝 =051=

❝ =第一章第4節_02= 可敦城 遊牧民との協調 ❞

 五原の王庭を離れた耶律大石、耶律楚詞、石チムギに先行する耶律遥、曹舜・厳劉兄弟と何亨理が黄河北端北方のバヤンノールの 臨河村落で落ち合い、旅の支度を整えて北西に間道を辿って陰山山脈西端部の交易路に向かったのは七日前であった。 この交易路は西夏王国の幹線路であるにもかかわらず、厳冬期にこの道を旅するのには旅慣れた者でも厳しい。 鳥加河村落を以降は陰山山脈に食い込んでいる谷を登り詰めて蒙古高原に至るのであるが、谷筋を登るこうていは四日を要する。 宿泊できる人家はなく、厳冬期には駱駝でさえ凍死すると言う。


その途中、陰湿で両岸の岩が迫る谷底を通過せねばならない。 この隊商宿無き陰山越えの旅程は過酷である。 人々は集団を組んでこの谷を通過する。 人馬一体と成り、互いに寄り集まって旅をする。 旅人の生理処理からしてマイナス40度の世界では地獄の責め苦であろう。 まして 女性のチムギには拷問であったろう。 耶律磨魯古が率いる兵糧運搬先遣隊の三十騎と60頭の兵馬は鳥加河から隊商路を北上した五日目に大石一行が追いついたのであった。 大石達がバヤンノールを離れて二日目であった。 チムギは大勢の若者と共に行動できる旅に本来の明るさとゆとりを取り戻していた。 “北帰先遣隊”一行は峠らしき場所に達し、蒙古高原に踏み込んでいる。 今、可敦城の城壁が確認できる大きな窪みで野営している。

 

 陰山を抜けて出た時 広大無辺の白き大海に狂喜したツムギを楚詞は、今 思い出している。 夕餉を終えた後の一時、 先ほど 一人で窪みを抜け出し、肌を刺す寒さの中で拳法の型を復し、その動作に専念して 一汗かいていた。 今はその余韻を楽しんでいる。 陰山の山裾が緩やかに足元まで続いている。 星空が地平彼方まで拡がり、 下弦の月、こぼれんばかりの星にこの静寂。 その肌を刺す静寂の中、楚詞は寒気を大きく吸い、ゆっくりと吐き また吸っていた。 小一時間は過ぎたであろうか、戻ろうとして向けた視線は、窪みの底に繋がれている馬群の近くで 剣を振るツムギの姿を捉えた。 青白き半月がそれを認めさせてくれた。 彼の中に 彼女への愛おしさがこみあげて来たようである。



 日が昇る前に朝餉を終えた兵士たちは、もどがしげに荷を馬に積み、勇んで窪地を離れようと動き 進み始めた。 大石は笑みを浮かべ、その群れの中にいる曹舜、畢厳劉、何亨理と耶律遥を呼んだ。 四名が馬を曳いて、駆けるように大石の傍に寄ってきた。


「今から、騎馬にて 曹舜、畢厳劉、何亨理、耶律遥と 楚詞 五名は この窪みの底を砦の方向に進んでもらおう。 一人は必ず、上部で砦の方向を確認しながら進み、大きく枝分かれがあれば、別れるもよし。 楚詞は四名の動きに目をそらせずに、全体を見てもらおう。 我らはゆっくりと駒を進め、注意深く兵糧と資材を運んで行く。 牛歩の歩みであろうとも、日が落ちる前にはあの砦に着けるであろう。 磨魯古が率いる兵糧運搬先遣隊は楚詞を追いつつ、夕刻までにはどの道を進もうとも砦に入ってもらう。 今宵は 我々が城の開城祝いじゃー」


 「遥 なんだか 嬉しそうな顔をして おるのぉー」

 「はい、統師さま、楚詞皇子と 行動できるかと 思えば・・・はい 」


 「オォ、武者と荷が上で待っておるわー チムギ殿 いきましょうかな 」


 日が未だに高く、夕刻には有り余る時間を残して、一団は可敦城に着いた。 可敦城とは名ばかりの砦であった。 その砦は朽ち、城門は朽ち果てて無く 城門近くの日干し煉瓦で構築された建屋には遊牧民が越冬用に冬の家として使っていた。 蒙古族であろうか五六家族であろう。 城門を潜り、中央の広場に集結している耶律磨魯古の運搬先遣隊の将兵の中から、年長の将兵多郁を耶律大石は呼び、使えそうな部屋を兵の宿舎に、倉庫に 集会所、また 家畜舎の場所を決めるように指示を与えた。


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