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“光の庭”のうたた寝 =033=

❝ =第一章第3節_03= 五原脱出 ❝

 1123年初冬、五原の天祚皇帝が王庭を耶律時が率いる25騎の騎馬武者が10頭の代え馬に兵糧と弓矢を載せて黄河の左岸を早がけの襲歩でパオトウ(包頭)を駆け抜けていた。 太陽が昇りくる前である。 一時ののち、25名の勇者の左前方に横たわっていた陰山山脈の山腹が朝日を浴びて黒き陰影を浮かび上がらせだした。 フフホト(呼和浩特)の手前であろう。 これ以上の襲歩は馬には過酷であると判断した時が手綱をひいた。 「あの小川で朝餉にしよう」と時が促した。 彼らが日の高いうちには、ウランチャブ(鳥欄察布)に至るのは容易であった。 彼らは、慕田峪(ポテンヨク)長城から居庸関(キョヨウカン)と古北地帯での金軍の動向を偵察に赴く途上であった。 一隊は25名の騎馬武者。 精鋭揃いである。 耶律大石総統との密なる連絡に五名の騎馬兵を追加している。


 その頃、 阿骨打アコッダの親征軍が部堵濼(ウトゥル、現在の阜新市付近)に差し掛かっていた。


 “北帰”遂行の実行会議、いや 天祚帝との決別を表意するために参内し、拝謁したその寸刻前まで耶律大石が手にする文を幾度も繰り返し読んでいた。 南京(燕京)の安禄明(アンロクミン)が送ってくれた伝書鳩に結ばれていた伝文である。 南京(燕京)には英知な耶律遥が情報集めに奔走しているのであるが、城内の奥深くで起こる事件の情報は禄明が知らせてくれる。 禄明は、耶律大石が1115年に科挙で契丹人として唯一の状元となって翰林院へ進み、翰林応奉に就いて 秀英の名を欲しい侭に、活躍し始めた折に知り合った友であった。 以来 困難に遭遇した折は言うまでもなく、欠かせぬ親友の契りを交わして来た。 その彼が寄こした伝文には、≪初代皇帝・天錫帝の太子の耶律朮烈(セチレチ、英宗)が擁立されたが、10月05日に金軍に包囲され、英宗は内訌によって家臣たちに殺害されてしまった。 秦王・耶律定は未だ来臨せず、北遼は滅亡を迎えることになった。≫と書き出し、


≪入京を果たした阿骨打は、燕京を含む燕雲十六州を北宋に割譲し、委ねた。 割譲の代償に、金は遼にかわって宋から歳幣に銀20万両・絹30万匹・銭100万貫・軍糧20万石を受け取ると言う。 そして、宋と約定を交わした阿骨打は、契丹人である遼王朝の優秀な文士公僕たちを引っ立てて金の王府・上京会寧府(ジョウキョウカイネイフ、現在の哈爾濱)に凱旋=11月03日=した。 帝都南京の優秀な技能職人をも連れ去った。 その後、逃亡している天祚帝を追撃する親征に向かったもよう。 長春、通遼を経過して瀋陽へと軍団を率いて南下して行った。≫と記している。  


更に、≪彼の進軍路は、瀋陽から西に向かい朝陽を抜けて赤峰へ入城し、赤峰の西北部に広がるシュリンゴロの大草原南縁を西走してウランチャブ(鳥欄察布)に至ると思われる。 万里長城の北側を平行して西行する経路であり、草原の道が続き、軍団が移動するには安全なルートである。 天祚皇帝を追い詰め、討ち取り、雪辱を与え、更に西夏に金の武力を誇示できうるこの進軍路は誠に容易であると思われる。 万里の長城が燕雲十六州に割拠する遼皇族ゆかりの勢力の攻撃を遮断してくれる。 そして、ウランチャブ(乌兰察布)-フフホト(呼和浩特)-パオトウ(包頭)-五原は10日もあれば進軍できる距離であり平穏な海原を渡る船団のごとき容易な進軍になるであろう。≫と私見を・・・・・やや長文の伝文に幾度もなく目を通した大石が決断していたのである。 


 耶律大石は”北帰”は急がねばならぬが、過酷な冬がすぐそこまで迫りくる今、春まで待つべきか 自問していた。 二百有余名が凍てつく蒙古の草原で越冬できるであろうか、草原の民は冬営地で殻に籠り、没交渉の生活を強要され、沈黙している。 なれば、半年間の兵糧を運び込まねばならない。 春まで勇者たちをいかにすべきか・・・・急ぐ必要があるのか・・・・


 大石はゴビ砂漠の北、陰山山脈の北麓にある遼王朝の北庭故城を北帰行の拠点に考えている。北庭故城は大蒙古高原中央部の南部に位置し、遊牧の民との交易を執り行う砦であった。 遼王朝が盛んなころには漠北の遊牧民を統治する基点であった。 北庭故城から草原を東に移動すれば小興安嶺山脈の故地に、容易に辿り着ける。 二百名の兵団でも二十日の行軍、金軍の側腹後背面を突く進路であり、危険はない。 だが、目的地の故地にて契丹人を集握して遼の政権を鼓舞できるであろうか、そして その挙兵以降は・・・・・

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