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“光の庭”のうたた寝 =031=

❝ =第一章第3節_01= 五原脱出 ❞

 「金が帝都を制圧している内は、戻ってはならないとの石抹言(セキ・バイゲン)殿の言明、そのことは承知している・・・・ して、 ツムギ殿、 今 いや、これからの事、 どうさなされる・・・・・」 


 「ツムギ殿は 雪の残る太行山脈は小五山の険しき間道を歩き抜かれた、伴する男すら音を上げた難所 我々と行動を共にされても、手足纏いにはならないでしょう 」と 耶律楚詞が大石を見詰めて口を開いた。


 「・・・ さりとて 北は原野 草原の地、 漢中や燕雲十六州とは・・・・・・」


 「私くしは、ウイグルの一族、ウイグルの民は草原の民、 “北帰”は楚詞さまの献策と伺っております。 ウイグルの私くしにしても 帰郷でございます。 北の蒙古高原はウイグルの故地。 ウイグルは騎馬の民でございます」と凛とした声が 静寂の部屋に流れた。 その余韻が何時までも留まっている。


 部屋に流れる沈黙を破るように、大石が言葉を継いだ。 「そこに居られる 何蕎殿・曹舜殿・畢厳劉殿・何亨理殿 方々のお考えは・・・」


 「申すまでもない事、我らが主命はチムギ殿をお守り致す事。たとえ、北遼軍事統師が反対されようとも、チムギ殿の意が楚詞殿の“北帰”に随行することである以上 背負ってでも後を追いましょうぞ 」と言い終えた何蕎は、

 「統師殿、僭越ではございますが、今 一言申上げたいと・・・・ この地に参り 早や半月、王庭とは申せ、ここは砦。 しかも、諸将や兵は楽しみが無く、望郷の念に心ここに在らずと見受けられます。 また、今 聞かせて頂いた“北帰”策の準備等 万全を期さねばなりますまい、しかも 露呈せぬようにと極秘の行動のように思われますが、・・・・・・・」と。

 

 何蕎が何を話し出したのか、その筋が読めない大石たちは小柄で顔や全体の体形が角ばっている何蕎の視線を注いだ。


 「さて、緊張する必要は毛頭ない無い。 客人としてではなく、我らが策に なにか・・・」


 「されば、この地は西夏の中興府に比すれば、荒廃の原野に佇む砦。 寒さは厳しく、これより 日増しに寒さが強くなりましょう。 予測だにしなかった西行で、帝都よりこの地に来た天祚帝を警備する諸兵は二年目の冬に望郷の念に不満を募らせ、耐えがたき寒さは警護を鈍らせますが 当方とて、夜陰に紛れての行動が鈍りましょう。 そこで、いかがでしょうか、我ら四名は楽士の触込みで、この地に滞在する者。 明晩より、城門近くの広場にて大きな焚火を五六ヶ所設けて楽を奏でましょう。 楽しみを忘れている将兵が多く集まり来れば、伺いました行動の一助に成ろうかと考えますが・・・・」


 「蕎殿、若さに似ずとは失礼ながら、その策 儂は乗る。 隻也、明日から湖面にて鳥を射ぬいて参れ、篝火の下 楽が流れれば、歌う兵士も出てこよう、されば 彼等への賞金として焼き鳥を与えれば、なお 兵は集まって来ようと言うのじゃ、四五日毎の宴の決行として、算段いたせ ・・・・・  ところで・・・・」と 背後に向きを変えた耶律時が最後尾の石隻也を見詰めて


  「・・・ ところで、隻也 汝のこの任務を なんと読む・・・・・・」

 

 「鳥打ちに 行け とは・・・・・ 道を作れとの事でしょうか・・・・」


 「その道とは・・・・」  


 「砦を離れれば、南は葦原 私を見出すことはできますまい、馬とて首を下げれば見つかりません、狭き馬道があれば、夜陰の事 葦が少々そよごうとも 馬に布を履かせて葦の中を進めば、音も聞こえず、姿もみえず 行動は捗りましょう 」


 この会話を聞くともなく、耳にしている楚詞は安禄明の屋敷裏で弓矢に励んでいた若者がここまで成長したのかと驚きの顔で振り返っている。 石隻也と耶律時の師弟関係は 打てば響くごとくに何時しかなっていた。 楚詞は耶律時の指導者としての器とその技量に感じていた。

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