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“光の庭”のうたた寝 =029=

❝ =第一章第2節_16= 陰山・五原 ❞

 久しぶりの拝謁である。 中門を警備する兵を威圧気味に無言でと売り抜けた大石は、正面の宮殿を睨むように近づいた。 15,6段の階を登る。 回廊に立った時、唐突に耶律尚老将軍が現れた。 皇帝に燕雲の自領に戻る挨拶に伺候したが、可否の言質もなかったと不満を漏らして大石を奥に誘った。 しかし、大石は話し込む時間がないと断りつつ、燕雲に向かわれるなら耶律涅魯古ヤリツ・デツロコ殿に会われよと伝えた後、皇帝の在室を確認して立ち話で別れ奥に進んで行った。 不思議なことに大石の歩みを詰問する官吏の姿はなく、おおいしは一足進めるごとに決意を固めて行く。 先ほど、大石の風圧に恐れ、奥に走った側近が駆け戻って扉をひらいた。 室内には衛兵が立ち並び、将四名が玉座の傍に立っていた。 皇帝・天祚帝は玉座に座り、玉座の周りのみ 明るく照らされている。 耶律大石は今春から、もはや皇帝の器を見切り、見下しっていた。 無論 諸将や側近は眼中にない。


 「大石、事前の断りなきは、無礼であろう 」 


皇帝を睨めつける大石、その態度 諸将には高圧的に映るかも知れない。 が、傲然たる音量で大石は声を放った。 


 「拝謁は、あの事件以来半日が初めての事。 あの日以降この日まで、拝謁して諾否を問わねばならない案件は、一つだに見い出し得なかったがゆえに参内しなかった。 ただ、今日この瞬間は、寸刻前に北遼は金の差配を受ける事になったと知った。 この事、承知いたされておられようか・・・ 」


・・・・・・居並ぶ将軍や左右の大臣の表情に驚きと動揺が走り、天祚皇帝は胸を張って虚勢の態度を執り、 「北遼は北遼のこと、遼の皇帝はここにおる 」


 「されば、北遼が軍事統師、申し上げる。 金の阿骨打アコッダが遼を攻めさせた先遣隊の指揮官は造次顛沛ソウジテンハイ将軍でありましょう。 かの将とは幾度も矛を交えた覚えがあり、敵将と言えども地理に詳しく、部下を大切にする智将。 彼が南京(燕京)を制圧したと成れば、阿骨打の弟である呉乞買ウキツバイが燕雲十六州に侵攻している状況下では阿骨打親衛隊を中核とする金国軍の本体この五原を陥落させるべく進軍しているのでありましょう。 ならば、急ぎ北帰策にのっとり、北の草原に燕雲十六州の兵をも集め、 まず 小興安嶺山脈に出るは、我らが故地にて、お家再興を図る最高の策。 このこと再度 申すべく ここに参上に越しておる 」


 「余にも 策がある。 造次顛沛には苦杯を飲まされたがゆえに・・・・ 汝が献策とは 相容れぬが・・・・・ 」


 「されば、 太祖より受け継ぐ 我が血 幾瀬まで繋がねばならぬが信念。 閣下とて同じでござろう。 また 武運つたなく、敵に屈する時に至らば、潔く自害するか 敵将と刺し違えるが将の誉れ。 北遼が軍事統師として、今 ここに至らば、我が道は己がこの両手で切り開き、進むまでのこと。 これ以上申し上げる言葉は見当たりません。」


 頑然と胸を張る巨体に 皇帝は腰を玉座に沈め、大石から眼をそらした。 怒りの眼差しは長く続かなかった。 立ち並ぶ将軍の中で誰一人として抗ずる口を開く将はいなかった。 無論、左右の側近は 終始 下に目を落としたままであった。 ただ一人、天祚皇帝の佞臣耶律隆先ヤリツ・リュウセンが猜疑の目で大石を覗い、何事かを皇帝に囁いていた。

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