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私には魔力はありませんが、だからといって無力でもありません

風邪でダウンして遅くなりました。

皆さんもお気を付けて。

「父上っ!!」

「先生!?」


 声は同じでも間違える訳が無い。目から狂気の色が消え、穏やかな雰囲気を纏っている。


「……すまなかったね。でも、そうか、小生の研究は失敗したのか」


 フォカロルマーレに乗っ取られていた間の記憶があるのか。

 どう声をかけたらいいんだろう。マクリル先生がこの研究にかけた時間を考えると、その無念さを考えると何も言葉が出てこない。

 そんな俺の隣からロンメルトが叫んだ。


「ふははは! 何を言う、失敗あっての成功と口うるさく申していたのは父上であろう!? また頑張れば良いではないか!!」

「次があるなら、それでも良かったのだけどね……」


 そう悔しそうに呟いて、マクリル先生は頭を押さえた。


「せ、先生?」


 船室の扉が開いて、智世が心配そうにマクリル先生に駆け寄る。だけどそれを先生が手で制した。まるで危ないから近づくなと言うかのように。


「フォカロルマーレは消えたわけではないよ。今も確かに小生の中にいる。今にして思えば、10年前のあの日からフォカロルマーレはずっと小生の中にいたのだろう。少なくとも、命を弄ぶような実験を喜々として繰り返す程度には……影響を受けていたのかもしれない」


 そんなことは無い、なんて言えるほど俺達はマクリル先生と付き合いが長いわけじゃない。それでも、先生は俺達には優しく親切だった。断じてあんな化け物と同じなんかじゃない。

 だがマクリル先生は首を横に振った。


「いたのさ、間違いなく。そして10年間消えなかった理由も何となくだけど分かっているよ。簡単な話、小生とフォカロルマーレは似ていたのさ。人間を憎んでいるという点でね」


 人間を? マクリル先生が? そんな馬鹿な。


「憎んでいたんだよ。恨んでいたんだよ。全てが壊れてしまった19年前のあの日からね……」






 彼女は美しい人だった。そしてなにより、心の強い人だったーー



 それは今より20年前。

 まだ魔力欠乏者……ノーナンバーが生まれ始めて間もない時代。彼らが自分達の未来の姿なのだと認識されておらず、ただ出来そこなった無能者として今よりずっと酷い迫害を受けていた時代。


 小生は当時、父親から譲られた地位を守ろうと必死に足掻く卑小な人間だった。父親が第8期の強力な魔法士だったにも関わらず第10期の魔力しか受け継がれなかったことを嘆き、恨みながら、みじめったらしく地位にしがみ付く小物……それが小生さ。


 そんなある日、小生の領地の小さな村で酷い疫病が流行った。小生は責任者として様子を見に行ったけれど、それは酷い有様だった。すぐに解ったよ、小生にはどうしようもないとね。だって小生は領地経営に役立つ水属性といえど第10期。そのわずかな魔力から生み出される水では村人全員の飲み水にすら物足りない。そもそも病気を治す魔法なんて無いんだ。魔法でどうにもならないなら、諦めるしかない。

 それからも次々と村人が倒れていってね、小生はその村を見限ることにした。



 それから数か月して、領主として廃村になったことを確認しようと村に向かって……目を疑ったよ。


 村人は生きていた。

 確かに村は酷く寂れてしまっていたけど、人々は生き生きと復興作業をしていたのさ。


 慌てて支援物資を用意すると、一人の村娘が礼を言いに来た。身なりこそボロボロだったけれど、とても美しい女性だった。体はやせ細り、手は傷だらけで髪もぼさぼさ。だけど小生は人生で彼女以上に美しい人を見たことが無いよ。


 話を聞いて更に驚いた。なんと滅びを待つだけの村を救ったのは彼女だというじゃないか。小生は見捨てようとしたことを謝罪し、そして聞いたんだ。


「一体どんな属性の、どんな魔法で救ったのだ。第9期……いや第8期の魔法士なのだろう?」


 だが彼女はノーナンバーだった。

 魔法など、使っていなかったのさ。使えなかったのに救ってみせたのだよ。医学的な知識がある訳でもない娘が、ただただ献身的な介護によって76人の命を救ったのさ。


「私には魔力はありませんが、だからといって無力でもありません。この手で体をふいてあげられます。この耳でみんなの訴えを聞いてあげられます。この足で森から薬草を運んでこれます。この声で励まし、この心で支えてあげられます」


 当たり前のことをなのに、小生は愕然とさせられた。

 魔力の量がその人間の価値を決める。そんな世界の在り方に悔しい想いをしてきていたというのに、小生はその在り方を疑問に思ったことさえなかったのだからね。

 魔法なんてものは手段の1つに過ぎないのだと、小生はようやく気付いたのさ。


 それからの生活は輝かしく楽しいものだったよ。コンプレックスから解き放たれ、自由に行動できた。魔力が少ないからと王宮内で馬鹿にされたって、まるで気にならなかった。だって魔力がいくら多くたって、政治には使わない。領地経営にだって特別必要でもない。餓獣の脅威だって、領主1人で戦うわけじゃないのだから苦労はしなかった。

 本当に充実した日々だった。やるべきことが沢山みえてきたおかげで忙しくはあったけれど、暇を作っては村を訪ねて彼女……クローナと他愛も無い話をしたり相談したりね。


 そうして余裕ができたおかげだろう。小生は友人が悩んでいることに気づいたんだ。小生の幼少からの数少ない親友……ガルディアス王ウルスラグナの苦悩に。



 当時、ガルディアス帝国には二つの派閥が存在したんだ。1つは国力を高め、現状で安定した生活を確保しようという国内派。もう1つが他国に侵略して国土を奪おうという国外派。ガルディアス帝国は中心に砂漠を抱える、作物が育ちにくい環境が多いからね。現状のまま、貿易などで財をなすか、手っ取り早く侵略するか。国内派の意見は予測や想像が多くて不安定だけど、だからといって侵略は一歩間違えば国そのものが滅びかねない。

 即位して間もないウルスラグナ王はその二つの派閥に挟まれてしまっていたのさ。


 そしてとうとう、ある日ウルスラグナが小生の下に相談にやってきた。だけど小生にも、どうしていいか分からなかったんだよ。そこで思い付いたのさ。彼女、クローナに聞いてみようと。答えは出せなくても、彼女はきっとウルスラグナを励ましてくれると思ったんだ。


 結果は想像の斜め上に行ったよ。

 あいつめ、何の答えも生み出さないまま、子供を産ませやがった。


 文句の1つも言ってやろうと村に向かったのだけど、あんまりに幸せそうだったものだから何も言えなくなってしまった。あんな穏やかなウルスラグナを見たのは初めてだったからね。

 小生は素直に祝福することにしたよ。


 だけど問題はクローナがノーナンバーだということだ。少しでも多くの魔力を子供に受け継がせることが義務付けられている王族に、魔力の無いクローナを迎えることはできなかったのさ。だから結局クローナは正室として迎えられることはなく、村で愛人のように時々やってくるウルスラグナを待つ形に落ち着いた。まあ本人は幸そうだったから良かったのだろうけどね。

 子供が出来た影響か、ウルスラグナもすっかり丸くなって、命を奪い合う国外派の考えを採用する気配はまったくなくなった。

 そのまま、戦争も無くゆるやかな時間が続くと、誰もがそう思っていたんだ。



 クローナの家に盗賊が入るまではね。



 小生が兵を率いて駆けつけた時、クローナの家の中には血まみれで倒れる夜盗たちの死体と、真っ赤に染まった剣を握りしめて立ち尽くすウルスラグナ。……そして子供を守るように抱えて倒れているクローナの遺体があった。


 その日クローナと、小生の親友だった頃のウルスラグナは死んだ。

 彼は人が変わったように力を求め、国外派と積極的に交流を始めた。いや、国外派を支配して先導してさえいた。クローナはそんな風になることを望んでいない筈だと言って説得した時の彼の形相は今でも忘れられないよ。


「襲った連中はノーナンバーであった。私の愛人であれば金品を持っていると思っての行動だと、同じノーナンバーならば確実に奪えると思ったのだと死に際にほざいておったわ。だがな……もしクローナに魔力があれば無能ごときに殺されはしなかったであろう。力が無いから安易に犯罪へと走るのだ! 力が無いから守れぬのだっ!!」


 二人の間に生まれた子供は、クローナの血が濃かったのか魔力を持っていなかった。それが発覚した瞬間、小生は子供を……ロンメルトを連れて帝都を離れたよ。ウルスラグナがロンメルトにきつく当たることが目に見えていたからね。追ってはこなかったけど、領地は当然剥奪された。それからこの町で暮らしていたというわけさ。


 あの日、小生が見限ったのはウルスラグナだけじゃない。

 同じように苦労しているノーナンバーから強盗を働こうという盗賊はもちろんのこと、近くに住んでいた他の村人が彼女を守ろうとしなかったことも悔しくてたまらなかったんだよ。だって彼女は、あの村を必死で守ってくれた恩人だったというのにっ。

 そんなにも魔力が、力が無いことが罪なのかい? 最愛の人との子をないがしろにするほどに。恩人を見殺しにできるほどに。








「ならば小生が踏み砕いてやろう。その『力』とやらを、魔力に頼らない方法で粉々に打ち砕いてやろう。魔法士おまえたちが必死に守っている物のくだらなさを魂の奥底まで刻み付けてやる!!」


 マクリル先生が吼える。

 目は煌々と血の色に輝き、その全身に力が戻っていくのを感じる。


 またフォカロルマーレに乗っ取られた? いや、違う。これはーー


「混ざっ……た?」

 

もう見た人いるかもだけど、ギャラリーにゲンサイさん追加。

え? ユリウスとかまだ? うーん、めんどい

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