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父上を、返せ!

 状況は非常に良くない。

 ゲンサイさんが刀を一薙ぎする度に5、6匹の餓獣が切り裂かれ、ロンメルトも倒すことより船を守ることを優先して大剣を振り回しているおかげで10匹近い数を一撃で吹き飛ばしている。


 が、またたく間にそれ以上の数が船の甲板に飛び上がってくるのだ。


「まずいな……」


 さっきも思った通り、海王フォカロルマーレは強くは無い。

 血液だけの存在だからか、大規模な攻撃を仕掛けてこないことといい、その能力だけ見れば俺なら確実かつ余裕を持って倒せる。ただし、その時この場に俺以外の生存者はいないだろう。

 たとえばフルフシエルの時のようにジルを巨大化させてフォカロルマーレを丸のみにしてしまえば俺の勝ちだ。水中に逃げようと、海ごと食い尽くせばいい。食い終わった頃には船は転覆して全員餓獣の餌食になってるけどな。


 とまあ、ただ倒すだけなら簡単だ。雑魚と言ってもいい。

 ところがマクリル先生を助けるのが目的である以上、殺してはいけない。だけど拘束しようにも、相手は手の届かない場所にいる。だからといってジルを向かわせては、船を守れなくなる。

 もどかしいな……。


「ユート! 仮の話だが、空間属性でバリアのようなものはできぬのか!?」

「無理だ!!」

「そうか!!」


 自分で言っておいて期待していなかったのか、ロンメルトは直ぐに目の前の敵に集中した。

 空間だの時間だの、便利そうな属性だけどジルが食えないんだよ。空間はいけそうだと思ったけど、食えたのは光と空気だけだった。ちなみに重力も無理。重力って言うけど、実際は引力だからな。下から引っ張る力を食べろって言われても困惑するだけだ。困った様子のジルは可愛かった。


 かと言って、このままじゃジリ貧だ。


「ジル。ちょっと無茶するから船をしっかり守ってくれよ?」


 船を守りながら何度も雷を出し、時に風で船を動かし……さすがのオリジンの魔力も半分近くまで減りつつある。

 ただ消耗して取り返しがつかなくなるくらいなら、その前に多少無理をしてでも攻めるべきだ。ジルを出す魔力さえ残っていれば最悪の事態……俺達が全滅してフォカロルマーレが野放しになることだけは避けられる。


「ロンメルト! 今から力づくで先生を船の上まで引っ張り込む!! 残りの魔力全部使うくらいの気持ちでいくから、あとは頼むぞ!!」

「ふはっ、何かやらかしてくれるのであるな? ……やってくれ」


 まずは甲板の雑魚を一掃しよう。


『世界』が命じるオーダー……風!」


 いつぞやセレフォルンの城でアンナさんがつむじ風で草葉を集めてみせた。やることは同じだ。ただし、風の勢いは規模が違うけどな。

 甲板に2つの竜巻が出現する。船が壊れないようにサイズこそ小さめだが、大きくても人間の子供程度の餓獣達をかき集めるには十分だ。船尾の方から移動させ、全ての餓獣を集めた状態でゲンサイさんとロンメルトの前に到着する。

 ロンメルトは鎧が重しになるから吸い寄せられないのは分かるんだけど、どうしてゲンサイさんもビクともしてないんだろう? 着物はもの凄い勢いで吸い寄せられているのに。


「ふっふっふ、これは楽だ。秘剣・絡み断ち」


 ゲンサイさんの分の餓獣達が一瞬で細切れになった。どうやったのかって? 何も、見えなかったよ。速すぎて。


「トモヨ命名、剛・墳破墜星剣!!」


 鎧のフルアシストを受け、ロンメルトが宙高く舞い上がる。そして竜巻で縦に舞い上がった餓獣達の塊に向かって落下しながら大剣を振り下ろした。

 っていうか酷い。ゲンサイさんは感心したように頷いているけど、これのどこが剣技だ。でも威力だけは半端ない。剣に当たらなかった餓獣も、その衝撃派で散り散りに吹き飛んでいった。同時に技名で黒歴史も追加する二段構えの技だった。


 おっと、そんな悠長なことを考えている場合じゃない。放っておくと、また餓獣達が上がって来る。


『世界』が命じるオーダー、雷!」

「さっきから何だユート! カッコいいではないか!!」

「う、うるさいな! こう言えって智世に頼まれたんだよ!! ほら、今だってまたドアの隙間から見張ってる!!」


 甲板から餓獣がいなくなったのを察知したのか、再び智世がドアを開けて様子を窺っている。満足げにしていたが、雷鳴が轟いた瞬間にまたドアを閉めて引っ込んだ。

 さっきまでとは桁違いの雷が海面を叩き、その中の生命を焼き尽くす。水面を生物のように電気が迸るが、船はジルが守ってくれているから感電する心配は無い。


 しばらくして海が静けさを取り戻した。少しすればまた集まってくるだろうが、一旦は周囲の餓獣を壊滅させられたようだ。クジラみたいのが来てなくて良かった。

 離れて傍観者を気取っていたフォカロルマーレの表情が歪む。いいや、まだだ。お前も言ってたろう? まだまだだ。

 腰の剣、疑似EXアーツを引き抜き、掲げる。


「疑似ルールイート、光! そのままオーダー!!」


 第二のEXアーツとなった剣が日光を吸収する。嵐とか雷とかなっちゃってるけど、実際の天気自体は結構快晴だったりするのだ。この天変地異、全部フォカロルマーレと俺の仕業だから。

 剣から放たれた陽光がフォカロルマーレの目を焼いた。と言ってもただの光、ただの目くらましだ。本命はヤツの後ろからやってくる。


『世界』が命じるオーダー、風!」


 圧縮された風がフォカロルマーレの背中に着弾、破裂した。突風に煽られたフォカロルマーレがきりもみしながら宙を舞う。その落下地点は甲板だ。カモーン。


「オノレ……」


 海面が渦巻き、水の竜巻のような物がせり上がってきた。

 最初に水のアーチを作ってみせたのだから、出来るだろうと思っていた。そしてその水竜巻に着水して、甲板への落下を避けるのも予想通りなんだよ。

 水の無い、安定して戦える場所で待ち構えている俺達のど真ん中に落ちるのは怖いだろうからな(特にゲンサイさん)。


『世界』が命じるオーダー……」


 だけど結局、その足場は海水だ。


「雷!!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!!?」


 水竜巻が弾け飛び、フォカロルマーレが甲板にみっともなく転がる。

 感電し、体を痙攣させながら、それでもフォカロルマーレは立ち上がった。憎悪を宿した瞳をギラつかせ、俺達を睨みつける。


「オノレ……コロシテヤル。コロス。ニンゲン……ワレヲ、コロシタ。コロシテヤルッ」


 そうかコイツ、鐵のオリジンに殺された恨みと怒りで暴れてたのか。ま、それが無くても人間を襲うのが餓獣だ。


「しかし結構しゃべるな。会話ができるなら……」

「コロスコロスコロスコロスコロス…………」

「でもないか」


 なぜ餓獣が人を襲うのか、とか聞いてみたかった気もするが、冷静の「れ」の字も感じない。感じるのは1つ、殺意だけ。他の餓獣と同じだ。


「シネッ!!」


 両腕のヒレみたいな物が刃のように硬質化した。が、それが目的通り使われることは無かった。


「余の父上にこのような物、生えておらんわ!!」


 巨大な鉄塊のような大剣を軽やかに扱い、ロンメルトがフォカロルマーレの硬化ヒレを砕いた。最初に右腕、そして左腕、右足、左足、最後に背中のヒレを引きちぎる。


「このような角もだ!!」


 苦悶の悲鳴をあげるフォカロルマーレの頭部をかすめるように大剣が飛ぶ。そしてその一振りで両方の角が砕け散った。

 フォカロルマーレが頭を押さえ、声にならない声を上げる。


「そんな牙も、鱗もだ!!」


 ロンメルトが怒鳴り、大剣を突きつける。牙と鱗も剥がれると思ったのか、フォカロルマーレは餓獣王の誇りも何も無く「ひぃ」と無様な声を出した。


「父上を、返せ!!!!」


 本当に叩き込むわけにはいかない行き場を失った大剣が、甲板の板を粉砕する。

 フォカロルマーレから殺気が消えた。



「ダメだろう、ロンメルト。船を壊してしまったら大変だ。小生は弁償するほどのお金は持っていないのだからね」

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