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これが研究の成果ですか!

 相変わらず、髪の色の事が無ければオリジンなんじゃないかと思ってしまいそうなくらい、日本人ぽい人だ。きっと黄昏のオリジン、フジワラノタケツナが先祖なんだろう。


「ふむ? 今日もトカゲは一緒のようだが、琴音はどうした? また違う娘を連れているな。ふっふふふ、なかなかやるではないか、悠斗」

「そ、そんなんじゃないですよっ」


 いや、マジで。


「つまらん。ではなんだ?」

「保護した迷子……ってとこかな」


 家まで送り届けるって意味では。問題は、迷い込んだ原因が俺による誘拐もどきだってことだけど。


「なるほどな。ではそちらは? ほう、見事な鎧だ」


 次に興味を引いたのはロンメルトだった。ゲンサイさんが顎に手を当てて、まじまじと鎧を見つめる。やっぱり戦う人は武具に目が行ってしまうんだな。

 そしてロンメルトはというと、ものすごく緊張していた。鎧よりも固いんじゃないかという位カチカチになりながら、いつもの3割マシの大声で叫ぶ。


「よ、よよ、余はロンメルトと申すでありますです!!」


 ロンメルトには悪いけど、爆笑した。智世もお腹を抱えて震えている。

 いやぁ、さすがのロンメルトも憧れの人の前だとそんな風になるんだな。


「ええい、笑うでない! 仕方ないだろう、10年間余はこのお方を目標にしておったのだぞ!?」


 分かってる、分かってるけど今の言葉はちょっと不意打ちだったんだ。噛み噛みだし、変な敬語だし。あ、ダメだ。思い出したらまた笑えてきた。


「10年前……おお、覚えているぞ」

「え?」

「覚えているとも。大人共が無様に逃げ回る中、力不足を理解していながら木剣を手に餓獣に立ち向かわんとしていた勇敢な少年を、どうして忘れられようか」


 俺がロンメルトから聞いていたのは、剣の腕が上がらず落ち込んでいた時期にゲンサイさんが餓獣を倒す姿を見て感銘を受けたという話だったけど、今の言葉から考えるに餓獣の襲撃か何かがあったらしい。

 子供が木剣で餓獣に勝てるわけがない。それでも立ち向かうのは、うんロンメルトらしい行動だ。子供の頃から変わらないんだな。そしてそこにゲンサイさんが現れたのか。


「覚えて……おられたのか」

「自分も剣だけで強くなってみせると意気込んでいた少年だろう? 立ち居振る舞いで解る……強く、なったな」


 ロンメルトが感激のあまり、ボロボロと涙を流した。

 嬉しいだろう。嬉しいはずだ。ずっと憧れていた人に認められたんだから、嬉しくないはずがない。


 今気づいたけど、ロンメルトの話し方って王様っぽく振る舞っているのかと思っていたけど、ゲンサイさんの真似も混じってるのかもしれない。芝居がかった言い方が似ている。


「だが……見た目の筋肉と動きが合っていないな。奇妙な音がする鎧といい、強化属性か何かの籠った道具と見たが?」

「うっ」


 ズルをしていたのがバレた、といった表情でロンメルトが目を逸らした。

 設計図の段階ではもっとメカっぽくなる予定だったのに、よりコンパクトに、より不自然でない形に改良したガガンの腕に、先日設計者のマクリル先生も絶賛していたのに、それを一瞬で見抜くとは。ていうか見た目の筋肉でそんなことが分かるものなのか? 筋肉マニア?


「ふっふふ、道具に頼るなと言われると思ったか? その骨格ではそれ以上の筋肉はつくまい。それでも諦めなかったことを称賛こそすれ、非難することなど有り得ん」


 しかしな、とゲンサイさんが続ける。


「その鎧、まだ手に入れて日が浅かろう。理想とする動きを実際の動きがかみ合っていない。おそらくは非力な状態で納めた技術を強化した肉体で使っているのだろうが、無駄が多い。今の力に最適な動きを身につければ、お前はもっと強くなれる」

「おお、おお! 精進します!! ふっははははは、余の伝説はこれから始まるのだな!!」


 智世と目が合う。スゴイ微妙な表情をしている。きっと俺も似たような顔をしてるんだろう。

 口に出して、この師弟の空気を壊しはしない。しないけどさぁ……なんで骨格とか筋肉見ただけでそこまで分かるの? 筋肉オタク? そもそも鎧で筋肉とかほとんど隠れてるのに、なんで分かるの?

 ちょっとだけ気持ち悪いんだが。


「筋肉教?」

「変な宗教を作るな」


 ロンメルトに聞かれたら本当に設立しかねないぞ。ゲンサイさんを教祖として崇めそう。


「更に強くなれ、少年。いや、ロンメルト。そしてその時こそ全力で剣を交えようではないか」

「はい、師匠!!」


 あ、師匠にされた。でもまんざらでも無さそうだ。


「ここが船の上でなければ、少し稽古をつけてやりたかったのだがな」

「そういえばセレフォルン王国行きの船に乗るってことは、また王国に行くんですか?」

「うむ」


 俺の質問にゲンサイさんが頷いた。


「セレフォルン王国にオリジンが現れたという噂を聞いてな。是非とも見てみたいと思ったのだ。やれやれ、こちらに戻ったばかりだというのにタイミングが悪い」


 沈黙。

 智世が俺を見た。口に出さなくても、何が言いたいのか伝わってきた。お前じゃん、と。

 ロンメルトが俺を見た。口に出さなくても、うずうずしているのが見て取れた。自慢したい、目がそう言っている。


 だから俺も目で伝えた。


『黙ってろ』


「ユーーーーーーーートォーーーーーーーーーーーーー!!!」

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 ゲンサイさんの雰囲気でわかるだろうが! 見てみたい? 嘘つけ、絶対ケンカ売る気だろ! 戦ってみたいって気持ちが溢れんばかりだよ!!

 俺がそうです、って言った瞬間に刀が飛んでくるぞ!! そして勝てる気がしない!!!!


 なんて言えばいいんだろう。逆らってはいけないオーラが凄いんだ。学校で例えるなら、生徒指導の先生とか、体育の先生くらい逆らってはいけない感じがする。


「おお、そうだ。悠斗はあの後セレフォルン王都に行ったのだろう? 見なかったか?」

「え、ははは、いやーそうですね。女の子の方は見たことありますけど、男の方は見たこと無いかなー」

「ほほう、噂通り2人いるのだな。そうか、手合わせするなら男の方なのだが、見たことは無いか。残念だ」


 やや冷たい視線が2つ。いや、ウソは吐いてないよ? この世界って鏡があんまり流通してないからね。見たこと無いなー、男の方は。

 そして今ハッキリ言ったね、手合わせするって。


「だが女の方がいるならば、男の方も近くにいるだろう。せっかく同じ船に乗り合わせたのだ、道中よろしく頼む。愉快な船旅にしようではないか」

「よ、よろしくお願いします」


 胃の痛い船旅になりそうだ。それに船旅だけじゃ済まないだろ、目的地が一緒なんだから。

 このままだと王都に着くと同時にバレる。どうしよう……。ロンメルトと智世がザマーミロって顔をしている。どうしてやろう……。




「そろそろ出港の時間だ」


 その時間が近いことを示す笛の音が響く。

 結局マクリル先生は間に合わなかったのか。見たかったなぁ。


「余も港に降りねば。ではさらばだユート、また会おう」

「ああ、またな王様」

「大丈夫。運命輪環の導きが、必ずや再びボク達を引き合わせるはず。ばいばい」


 ロンメルトが船を降りようと渡し橋に足をかけた時だった。


「ぎゃう!」


 オル君が危険を察知したかのように鳴き声を上げ、防御モードに移行した。


「ぬお!?」

「な、なんだこれ!!」


 船を囲うように水柱が立ち上る。

 そしてそれらは船の上で弧を描き、まるでアーチのように形取った。


 もしかして、これは……。


「やあ、間に合わないかと思ったよ」

「先生!」


 船の船頭、その先の海の上にマクリル先生が立っていた。

 どうやってるんだろう。マクリル先生は確かに水属性の魔法士だけど、その位階は第10期。10段階の魔力量での最下層だって聞いている。俺もマクリル先生のおつかいで海の餓獣を狩りに行くために水を操ったことはあるけど、そこそこ魔力を消費した。第10期の魔力では不可能なハズだ。

 いや、それだけじゃない。この水のアーチも、状況から考えてマクリル先生の仕業だ。


「これが研究の成果ですか!!」


 水を直接操っているのか、それとも自分の魔法を増強しているのか。どっちにしても凄い。事もなげに水を操って、息切れ1つしていない時点で第5期以上の力は確実にある。

 もし全ての人にこの力が得られるなら、マクリル先生の言っていた通り、人間と餓獣の勢力図の書き換えられるに違いない。


「これは……」

「素晴らしい! さすがは父上!!」


 ゲンサイさんも驚きに声を失い、ロンメルトは自分の事のように喜んでみせた。智世も嬉しそうにアーチを見上げている。

 そうだ。これは本当に素晴らしいことだ。なのにどうしてオル君はこんなに怯えているんだろうか。


「それで、どうやっているのであるか父上! 余にもできるのか!」

「ロンメルトにもできるはずだよ。だって元々そのために始まった研究なのだからね」


 おお、とロンメルトが更に目を輝かせる。

 魔力を持たないノーナンバーでも使えるのか! スゴイ、本当にスゴイ!!


「全ては10年前、伸び悩んでいたロンメルトを何とか手助けしてやりたいとアシストアーマと設計したアシストアーマも行き詰っていた時だったよ。小生はある餓獣の死に出会ったんだ」


 昔を懐かしむようにマクリル先生が語る。

 それにしてもまた10年前か。激動の1年だな。


「小生は、小生の目の前で死んだ餓獣の血を飲んでしまった。するとどうだい、体の奥から力が湧いてきたのさ。その感覚はすぐに消えてしまったけれど、小生は確信した」


 ……まさか。


「血だよ。人類はオリジンの血で魔法を使っている。同じように、餓獣の血でも力は得られるのさ!」

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