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くっ、うるさいのが帰ってきた

 日が沈む。

 街門に到着して1時間。ヒマだ。なんのトラブルも無ければ、もうそろそろ着いてもいいと思うんだけどなぁ。

 そりゃ、こんな交通機関の整っていない異世界で予定通りにいくのは難しいだろうけど、ロンメルトは一度言ったことを曲げることが嫌いな、有言実行な性格だ。夜に行動する危険さを知っている以上、今日の日暮れまでには来ると思ったんだけど。


 もし完全に日が落ちたら、予定が狂って間に合わなかったと判断して家に帰ろう。



 その時、うす暗くなっていた空を光が貫いた。

 発生源は門の先、町の外にある小高い丘の上だ。変な餓獣でも襲ってきたか? いや、違う。


 変な男がやってきたんだ。


「ふっははははははは!! 余の帰還である! 出迎えるがいい皆の者!!!」


 多分ガガンの作ったアイテムなんだろうけど、自分で自分にスポットライトを当てながらカケドリに騎乗して現れたアホの姿に見覚えがある。他人のフリをしたくなるくらい見覚えがある。

 本人は颯爽と丘を駆け下りているつもりなんだろうけど、鎧やら大剣やらの重みでカケドリの足はフラついていた。かわいそうに……。


「止まれ……って貴様ロンメルトか!? くっ、うるさいのが帰ってきた」

「おお門番、久しいな。余の帰還を喜んでおるようだな、うむうむ!」


 違うぞロンメルト。その門番が震えているのは感動とは無縁の理由からだ。


「せっかく静かな町になってきてたのに……」

「奴がいなくなってから観光客だって増えてきていたんだぞっ」

「父親はよく爆発するし、息子はうるさいし……なんて親子だ」


 マクリル先生……。多分実験の失敗かなにかで爆発してたんだろうけど、一家で騒音問題の元凶になってたのか。


「括目せよ! これが人類最高峰、Xランクのギルドカードである!!!」


 民衆がどよめいた。

 貰えたのか、Xランク。いいなぁ、俺も貰えるはずだったのになぁ。


「じょ、冗談だろう?」

「ふはははは! 冗談などであろうはずがない! これは余が仲間と共にかの迷宮塔を制覇した証である! 汝らが不可能だと笑いおった父の発明品であるアシストアーマが完成しておるのも証拠の1つとなろう!?」


 まあその鎧、材料だけで結構な強敵と戦う必要があったからな。


 さて、そろそろ声をかけようか。

 放っておいたら今にも講演会が始まりそうな雰囲気だからな。


「王様!」

「!?」


 俺以外呼ばない呼び方にロンメルトが勢いよく振り返る。そして目が合った瞬間、全身で歓喜を表現した。


「ユゥゥゥーートォーーーーーー!! なんだ、なぜここにおるのだ! 心配をかけおって馬鹿者がーー!!」

「うわ馬鹿!! その鎧着たまま突っ込んでくるなっ!!」


 フル稼働したアシストアーマによって、人間の限界を超えた速度で突っ込んできた金属の塊を避ける。

 危なかった……。俺の代わりにタックルを受け止めた、過去の町長だかの銅像が粉砕されている。


「次やったら、その鎧食うぞ」

「そ、それは困る」


 よし、冷静になったな。


「まったく驚いた。あの珍妙な黒マントがお主を『ティ・キューン』とやらに飛ばしたと申すではないか。そのような地名は聞いたことが無い。これは外大陸まで探しにゆかねばと思っておったというのに……ふはははは、よもや余の故郷にいようとはな!!」


 やっぱりテロスはちゃんと説明していたんだな、こいつがイマイチ理解できてなかっただけで。多分琴音も説明はしたんだろうけど、その結果がこの男の現状という訳だ。

 一応、俺も説明してみるか?


「いいか王様、俺が飛ばされたのはティ・キューンなんて愉快な名前の場所じゃなくて、地球っていう俺の故郷だぞ?」

「それはコトネも申していたな。ふははは、あの黒マントめ偉そうにしておきながら飛ばす先を間違えたか!」


 ああ、聞き間違えた地名と正しい地名を、別の土地だとインプットされているのか。もうロンメルトの中ではオリジンの故郷が地球で、外大陸の地名がティ・キューンになってるんだな。

 訂正しようか? いや、それは琴音もやったはずだ。うん、無駄な努力はやめておこう。


「しかし、はて? お主が戻って来るならばセレフォルン王都だとコトネが迎えにいったはずだが?」

「あ、やっぱり王都に行ったのか」


 ならまずは合流するためにセレフォルン王国に向かおう。

 良かった。ロンメルトが琴音の行き先を知らなかったら、ここで2週間待った意味の半分が無くなるところだったからな。


 とりあえずは手紙を送っておこう。王都にいるならお城に届ければ間違いない。いや、お城だと逆に届かないのか? ガルディアスから届いた手紙とか怪しいしな。一旦ギルド経由で届けてもらおうか。


「ええい! 細かい話はここまでにして、今は再会を喜ぼうではないか!! ふははは、ついてくるがいい! 実はこの町は余の育った町でな、我が父マクリルが住んでおるのだ紹介させよ!!」

「いや、知ってるぞ。っていうか俺達マクリル先生の家……お前の家にもなるのか、そこに泊めてもらってるからな」

「なんと! 世界はかくも広いというのに、世間とは狭いものであるな!!」


 そりゃ世界の広さに比べれば狭いだろ。世界の中の狭い一部で生活してるんだから。


「お前、手紙に俺のこと書いたろ? それで先生が俺のこと知ってて面倒見てくれてたんだよ。そういう意味では王様にも感謝しとかないとな」

「ふはははは、そうであったか! おお! そうだ!! 皆の者、聞け! 何を隠そうこの者こそ余と共に塔を制した伝説のオリ……」

「隠せっ!!!」


言いふらしていいとは言ってないから!


 なんだったんだ? と首を傾げる人々の囲いを脱出。ロンメルトの乗っていたカケドリも、重荷から解放されて軽い足取りで後ろを付いてきた。その顔はどこか安心した風に見えなくも無い。


「このカケドリは借りものじゃないのか?」

「王たるもの、易々と借りを作るわけにはいかん!」


 お前結構パーティ内で借り作ってなかったか? とにかく、買ったのか。まあ迷宮攻略で金はあったからな。俺の財布にもたんまり入ってる。


「名前はフルフシエルである!!」

「お前、子供に過剰な期待を込めた名前つけるタイプだな」


 娘に「美」って付く名前をつけると、将来どんなプレッシャーを与えるか考えるべきだと思う。

 ましてや、何を思って空を飛べない鳥に空の餓獣王の名前をつけてしまったのか。どうあがいてもこのカケドリはお前の期待には応えられないぞ?


「クケ?」


 本人(鳥)はわかってないみたいだけどさ。


「まあいいや。早く帰ろう、紹介したい人もいるしな」

「ほお? 結婚でもするのか?」

「お前は俺の何なんだ」


 真面目に聞いてくるんだから性質が悪い。


「俺の故郷の人間……つまりオリジンだ。色々あってな、連れて来るしかなかったんだ」

「なんと、世界で4人目のオリジンであるか! ここまでくればあと6人くらい来るのではないか?」


 別にオリジンは10人で一組ってことも無いだろ。無いよな?

 でも俺も琴音も智世も、あの日ドラゴンを見たという部分では共通点があるわけだし、そういう意味ではもう増えないんじゃないかな? いや、まだもう1人中学生くらいの年齢の子がいたけど。

 まさかあの子が鐵のオリジン……な訳ないか。性別が違うし。


「増えるとしたら、あと1人かな?」

「心当たりでも?」

「いや、当てにしなくていいぞ?」


 一緒にドラゴンを見れたということはオリジンになる素質はあるんだろうけど、だからって必ずしもオリジンになるわけじゃない。智世だって、俺がリゼットを庇って地球に飛ばされなかったらオリジンになることなく死んでいたんだし。

 だからってテロスに感謝なんてしないけどな!


「オリジンというと新しい属性ということであろう? どんな魔法を使うのだ?」

「あー、それがなぁ。ちょっと演出にこだわる奴でさ、ここぞという場面までは内緒なんだとさ」

「ふむ、よくわかっておるではないか! ふっはははははは!!」


 そうだな。お前ら絶対気が合うよ。だって波長が同じだもん。


「俄然会うのが楽しみになってきたわっ!」


 ロンメルトの歩調が速くなった。

 そんなに急がなくたって、もう着くだろうに。


 最後の曲がり角を曲がって砂浜にでる。ほら、マクリル先生の家が見えて……。


「むお!?」

「ええっ?」


 家から黒煙が立ち上っていた。

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