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お兄さんのEXアーツの名前は何だっけ?

 テロス・ニヒ。

 俺と琴音をこの世界に来るよう誘導し、商人をけしかけて奴隷にしようとしたり、城を襲撃したりと付け狙ってくる謎の多い人物。

 人間を食ったり、食った人間に変身したりと明らかに人間では有り得ない行動を平然と取る。


 人の形をしているだけの、怪物。


「はぁ、危ない危ない。フルフシエルを解放してやろうと思って来たら、お兄さんが殺されかかってるんだもんなぁ。困るよ、どっちが死んでも困るんだ」

「お前の都合なんて知るか……それを返せっ」


 俺の言葉にテロスはポンポンと手の中のポータルを弄ぶ。

 相変わらず顔なんかは見えないが、なにか考えている様子だ。


 どうする。奪い取るか。奪い取れるのか?


「うーん、本当に困ったなぁ。とりあえずコレを渡すと逃げちゃうんでしょ? それはそれで困るんだけど、そうすると深蒼のお兄さんかフルフシエルのどっちかが死んじゃうんだよね。ううーん」


 どっちが死んでも困るなぁ、渡しちゃおうかなぁ、とか言ってるけど、素直に渡してくれる気がしない。


「もうダメじゃ! 小僧、フルフシエルがそっちに行くぞい!!」


 リリアの魔力が尽きたのか、フルフシエルが時間を取り戻す。

 まずい、まだ体が動かない。


「ストーップ。ストップだよフルフシエル。まだ僕が話してるじゃないか」


 どうやら時間が止まる前のフルフシエルもテロスには気づいていなかったのか、驚愕に目を見開いた。

 そして軌道を上に、俺の頭上を飛び越えて大空へと舞い上がる。


 再び襲ってくる気配は……無い。

 まさかテロスの命令に従ったのか? 本当にコイツは一体なんなんだっ!?


「うん、仕方ないや。フルフシエルにはここで死んでもらおう!」


 テロスが驚くべき結論を出した。


「深蒼のお兄さんには絶対に死んでもらうわけにはいかないもんね。フルフシエルには別の仕事をお願いしたかったんだけど、考えようによってはいい機会だよね。うん、お兄さんの試練として死んでもらうことにするよ」


 理解できない。こいつは何を言ってるんだ?

 何がしたいのか、まるで予想もできない。だから理解もできない。理解させようという気も無いんだろう。


「大丈夫だよ、お兄さん。お兄さんがちゃんと・・・・戦えば、フルフシエルなんかに負ける訳ないんだからさ」

「俺は真剣に戦ってるっ!!」


 仲間が次々と倒れていく中で、真剣でないはずがない。


「あれ? ああ、そっか。まだ全然自分の力を理解できてないんだね。あはは、大丈夫大丈夫。ここは深蒼のお兄さんや常緑のお姉さんにとって重要な場所だから、すぐに思い出すよ」


 思い出す? 重要な場所?

 俺はこんな場所に来たことなんて無い。だから思い出すことなんて無いはずだ。


 なのに、どうしてこんなに心がざわめくんだ。


 ジルと目が合う。

 お前まで、俺に訴えかけるような目をするのか?



 分からない判らない解らない。

 


「しょうがないなぁ。じゃあヒントをあげるよ……お兄さんのEXアーツの名前は何だっけ?」


 ジルの、名前。いや、EXアーツの名前。


 ジルの目を見ていると、まるで昔から知っていたかのように知識がにじみ出てくる。

 そして俺はようやく、この場所に来てからずっとひっかかっていた事がなんだったのか、気づいた。


「もう、大丈夫みたいだね?」


 テロスが指を鳴らすと同時にフルフシエルが吼えた。

 空から光が降って来る。違うな、光を反射しながら氷が降ってきているんだ。さっきより更に大きい、直径10センチを超える氷の礫。当たれば頭蓋骨が陥没するに違いない。


 あれは自然物だから、ジルは食べられない。



 それは勘違いだ。



「食え」


 氷が消える。

 一粒残らず全て消える。


 俺は勘違いをしていた。それゆえに、ジルの力に自分で制限をかけていたんだ。


 それもこれも初めて人間の魔法を食べさせた時のことに起因している。

 魔法を食べた。だけどEXアーツは食べられなかった。だから俺は無意識に、ジルは「力そのもの」を食べるのであって、「物質」は食べられないのだと思い込んだ。


 だけどそれは違ったんだ。


 あの時ジルが食べたのは、魔法でも魔力でもない……属性だ。

 そしてEXアーツは魔力で形作るもの。属性を食べたところで無くならない。


 だから勘違いした。物質は食べられないと。いや、能力そのもので生み出されたもの以外は食べられないのだと。


「はは、バカだよな。溶岩や雷は食べてたじゃないか」


 アッドアグニの溶岩は能力で生み出したものじゃない。なのにジルは食べた。

 フルフシエルが落とした雷は食べた。なのに雹は食べられない? そんなはずはないだろ、やってることは同じだ。雷も自然発生した、元々あるものだ。


「最近名前でばっかり呼んでたから忘れてたな、ジル。俺のEXアーツの名前を」


 空が渦巻く。

 竜巻が落ちてくる。良く見れば雹が混ざって雷も流れている。はは、安直に全部混ぜやがった。


 手をかざす。


「食い尽くせ、理を喰らう鳥ルールイーター


 ジルの体が膨れ上がる。

 小鳥の姿は幻想だ。魔力で形作られたジルの体は、俺の意志で自由に変えられる。そもそもオリジンの潤沢な魔力があれば、EXアーツを介さなくたって魔法は使えるんだ。


 フルフシエルの竜巻は、ペロリとジルによって平らげられた。

 当然だ。この世界に存在するもので、ジルに食えないモノなんて無い。



 ジルが食うのはことわり。原理であり、不変の法則。

 地には地の、風には風の、水には水の構成する法則だある。世界を形作るあらゆる法則を喰らうのだ。



 法則を奪われれば、どんな頑強な物も崩れ去り、どんなに魔力が残っていても魔法を組み立てられない。


「そういえば琴音は最初から自分の属性を理解してたっけな」


 覚醒する時の度合いで、最初に理解できる情報量が違うらしいけど、なるほどこういう感じなのか。

 今ようやく理解できた、自分の力の本質。



「これが俺の属性…………『世界』属性。なんか大仰だなぁ」


 琴音の『愛』属性に匹敵するこっぱずかしさだ。

 鐵のオリジンの『悪』属性といい、こういう痛々しいのしか無いのか?


 おっと、フルフシエルはまだやる気みたいだ。暗雲が蠢いている。

 何が来ても平気な確信はあるけど、先手を打っておこう。


理喰らいルールイート


 雲を喰らう、空を喰らう。

 うん、いい青空だ。


 フルフシエルが急降下する。

 遠距離攻撃が無理なら、直接そのクチバシや爪で攻撃しようってことか。


「だけどお前も『世界』の一部だろ?」


 空を喰らうほどに巨大化したジルが口を開く。

 慌てて急停止して逃げようとするフルフシエルだが、もう遅い。



 バクンッ。



 力が流れ込んでくる。味なんかは無いが、満たされていく気分だ。

 ごちそうさまでした。


「な、なんという……」


 リリアが信じられないものを見るような目を向けてくる。

 まあそうだろう。自分でもドン引きなぐらい反則的な魔法だ。さっきまでズルだと悪態をついていたけど、ごめんなフルフシエル。俺のがズルかったみたいだ。


「やあやあ、おめでとう。さすがだなぁ、それでこそ--や、何でもないよ。さすがは深蒼のお兄さん」

「知ってるか? 訳知り顔で話されるのってムカつくんだぞ」

「それはごめんね。とにかくおめでとう! 1200年来の薄雲のオリジン、リディア・ボルトキエヴィッチの悲願を達成して、見事迷宮塔の完全制覇を成し遂げたんだからね」


 どこまで本気で言ってるんだか。


「フハハハハハハハーー!!! 余は、余はやったぞぉぉぉぉぉ!!!」


 いつの間に起きていたのか、ロンメルトが勝鬨を上げている。意外と元気そうじゃないか。さては琴音、結局ビビって魔力をあんまり込めなかったんだな。


「う、ん……どうなった? フルフシエルがいない? まさか勝った……?」

「「わん」」


 どうやらみんな無事だったみたいだ。ユリウスもツヴァイリングヴォルフの頭をなでなでしている。


「ありゃ、フルフシエルの体の中に僕の欲しい物があったんだけど、たべちゃったね。ほら、吐き出して吐き出して」


 ジルの中を探ると、確かに食った覚えの無いものを感じる。よし、吐き出せジル。


 ペッと飛び出した手のひらサイズのオベリスク。

 転移ポータルか?


「それと帰還用のポータルを交換しようよ。というか渡してくれないなら、僕も渡さないから一生帰れなくなっちゃうよ?」


 ナチュラルに脅してきたな。

 このポータルの行き先は気になるけど、帰還用を諦めるのはもちろん有り得ない。


「ほら」

「うん、確かに。じゃあはい、あげる」


 よし、間違いなくフルフシエルが持っていた転移ポータルだ。


「さ、これで満足でしょ。帰った帰った」

「だからお前の都合なんて知らないっての。俺達はまだ地球に帰る方法を探さないといけないんだからな」


 もっとも期待は薄いけどな。

 行方不明になった人達はフルフシエルの餌食になった、ということで間違いない。でもここが地球に帰る方法で一番可能性の高い、空間属性のオリジンの拠点だったのも事実なんだから。


「そんなのここには無いよ。ウソじゃない、コレは親切で言ってるのさ」

「……そうか」


 本当なのかもしれないけど、それは自分の目で100階を探してから判断すればいいことだ。

 今交換した、フルフシエルの体から出た転移ポータル。それが100階に繋がっているのは、ほぼ間違いない。


「けど、お前は知ってるんだろ?」


 なにより目の前に、確実に地球への帰還方法を知っている奴がいる。

 捕まえて、吐かせる。100階も探す。こちとら人生がかかってるんだ、なんだってするさ。



「……面白いことを言うね?」

ここまで来てやっと主人公が覚醒。

次回、迷宮都市編最終回です。

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