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硬いやつの弱点など、相場が決まっておるわ

 閃光が視界を支配する。


 とっさにジルを割り込ませたが、完全に防ぐことができなかった。漏れた衝撃にロンメルトとリゼットが吹き飛ばされる。


 ロンメルトは大丈夫だろう。あの全身鎧は伊達じゃない。地面に叩き付けられた程度で致命傷になるようなら、とうの昔に死んでいる。

 だけどリゼットは胸当てと小手くらいしか防具を着けていない。


「リゼット!!」

「くっ……」


 良かった、ひとまず即死は回避できたみたいだ。頭なんか打ちつけていたら、いくら強い人間だって簡単に逝ってしまう。


「すまない、私としたことが油断した……」


 意識はしっかりしているみたいだけど、起き上がろうとしない。ダメージは大きいようだ。


「仕方ない。まさか首を切り落とされて平気だなんて思いもしなかったんだからさ」

「いや、生物を斬った手ごたえでは無かった時点で気づくべきだった……。全てが岩のようで、噴き出したのも血液ではなく、溶岩。おそらくだが、アッドアグニとは溶岩を身に纏う餓獣なのではないだろうか?」


 ということは、俺たちが見ていた巨大なドラゴンの姿は、その中にいる本物のアッドアグニが着ている服のようなものだったのか? 二人が切り落とした首は、さしずめパーカーのフード部分って所か。

 なるほど。溶岩を身に纏い、それを自在に操る力。アガレスロックの下位互換としては、いかにも有り得そうな能力だ。


「だったらジル、食えるんじゃないのか?」

「ピィ!」


 ジルが滑空する。

 アッドアグニは切り落とした頭を再構築したのか、既に元の姿を取り戻している。


 ジルの接近に気付いたアッドアグニが溶岩のブレスで迎撃を図る。だが小柄で軽やかに飛行するジルはスイスイと飛んでくる溶岩をかいくぐり、その喉元に食らいついた。


 

 ずるり……とアッドアグニの全体像が崩れる。

 うまくいった! と思ったのも束の間、崩れかけた溶岩の外殻はあっという間に制御を取り戻し、再び頑強なドラゴンの姿を形取った。


「ちっ、アガレスロックの時と似たような感じか」

「ど、どういうことだ?」

「あの溶岩が異能で生み出されたものなら、ジルに食べさせられるんだけど、元々あった溶岩は異能でもなんでもないからな。それにアガレスロックもそうだったけど、操ってる物に込められた異能を食べても、大本の異能は無くならないみたいなんだよ」


 例えるならラジコンかな? ヘリコプターのヤツみたく、リモコンと機体の両方に電池が必要なタイプ。今ジルが食べたのはヘリの方の電池だ。でもリモコンの電池が残ってるから、そっちからすぐに充電できる。完全に止めたければ、リモコンの方を食べなくてはならない。


「では、あの外殻をはぎ取るのは難しい、か」

「だな。外殻を貫通するか……電気みたいに外殻なんて関係無しに流れ込む攻撃か」

「なるほどな。だがすまない、私はまだ動けそうにない」


 少し離れた場所でロンメルトが起き上がるのは確認できるが、リゼットは未だに身動ぎ一つしない。平気そうに話しているけど、実際は全身が砕けるような激痛に苛まれているに違いない。


「辛いだろうけど、ごめん。俺が今からもうちょっとだけキツイ目に合わせる」

「ふふっ、ひどい男だ。大体の想像はつくさ、やってくれ」


 まあ分かるか。

 じゃあお許しも出たことだし、その魔法の力を食べさせてもらうよ。激痛に追加して不安感にも襲われることになるのは申し訳ないけど、もう時間が無い。


 アッドアグニは完全に状態を持ち直している。

 今はロンメルト、琴音、ユリウスが気を引いてくれているけど、あの3人にはアッドアグニの攻撃を防ぐ手立てが無い。


「ジル」


 戻ってきたジルが、横たわるリゼットの体をなるだけ優しくついばんだ。


 ジルを通して伝わってくる電撃の力。

 ゴーレムを戦った時にリゼットが岩石に電気は流れないと言っていたけど、アッドアグニは溶岩だ。液体の部分があるならきっと流れる。


「みんな離れろ!」


 俺の声に3人が退避するのを確認し、ジルが口を開く。

 リゼットの魔法だけど、EXアーツの能力は引き継いでいないから無差別で飛び交う心配は無い。収束された電撃がアッドアグニの胴体に直撃した。


 バリバリと生物として恐怖に襲われる音と、明滅する激しい光。

 

 アッドアグニはというと、あれ? 全然平気そう……。


「ジル! 一旦止めろ」


 これもダメとなると、一度撤退して作戦を練り直した方がいいかもしれない。


 ジルの攻撃が止み、嫌な音も止まる。なのに何故、まだ光が溢れている?

 それは電気の光ではなく、アッドアグニの体から漏れ出していた。


 またかよ!!


 再びアッドアグニの体が噴火する。

 だけど今回は俺の攻撃のために退避していたから被害は無い。せいぜい爆発して飛んできた岩石が散らばって足場が悪くなったくらいだ。

 

 まてよ? 一回目の前身噴火の時は、こんなの散らばらなかったよな?


 嫌な予感がして、無防備に倒れているリゼットを移動させようと抱え上げた時だった。


「ぐあっ!!?」

「きっぁ--!!」

「ぬおお!?」

「!!?」


 背中にとんでもない衝撃が加わり、乱回転する視界の中で仲間達の悲鳴が聞こえる。


 なんとなくだが、何が起きたのかは想像できた。

 思い出すのは、切り落とされたアッドアグニの頭部。あれはあの後どうなった? 爆発した。アッドアグニは切り離した外殻を爆破できるんだ。


 俺とリゼットの近くにあった破片は、俺の背中を襲ったものだけだったらしく、リゼットは無事だ。といっても最初の傷で動けないことに変わりはないが。

 かくいう俺も、バッチリしてやられてしまっていた。


「いってぇ……」

「すまない、私を庇ったばかりに」

「いや、どっちみち食らってたよ。気づくのが遅すぎた……」


 泣きそうになる痛みをこらえながら、周囲を見回す。

 ユリウスは、どうやらツヴァイリングヴォルフが守ってくれたらしい。代償としてその巨体を横たわらせているが、ユリウスの心配そうな表情からして生きてはいるみたいだ。

 琴音は痛みに耐えかねているのか、一人で悶えている。動くとかえって痛いと思うぞ。

 ロンメルトは流石に2発目は堪えたのか、地面に突っ伏している。


 まずい、壊滅だ。まともに動けそうなのはユリウスだけ。これじゃ逃げることも難しい。


 ズシンズシンと死神の足音が聞こえてきた。


 人類が結集しても勝てないと言われる訳だ。

 絶対に攻撃の当たらない防御を纏った状態で、ほとんど回避不可能の一撃必殺をなんの制限も無く使えるんだからな。


「リゼット、前の槍はまだ持ってるか?」

「持っているが?」

「くれ。あと魔法ももう一度借りるぞ」

「それは構わないが、雷は通用しなかったではないか」

「外殻にはな」


 外が固い敵の攻略法なんて、古今東西決まっているようなものだ。

 どのみち今の状態じゃ、逃げられない。倒すしかない。なら古典的だろうとベタベタだろうと試してみようじゃないか。


 リゼットが痛む体に鞭打ち、ガーランド袋から一本の槍を取り出した。

 それにありったけの魔力をこめて電気を流した。激しい放電。流した電気は次々と空中に漏れ出て霧散していくが問題無い。その電気に用は無いんだからな。


 足音が迫る。


 まずい、準備が終わるよりアッドアグニが近づいてくる方が早い。


「フハハハハハハハハハハハハ!! まだ手があるのであろう!? ならばここは余に任せるが良い!!」


 残念だったなアッドアグニ。

 そのやかましい男を黙らせるには、2発じゃ足りなかったみたいだぞ。


 仮初とはいえ一度は自分の首を切り落とした男の登場に、アッドアグニの足が止まった。


「もう少し……」


 これが正真正銘最後の攻撃になる。うまくいけば倒せる。失敗すれば全員死ぬ。そんな究極の賭けに、少しでも魔力を温存して臨む勇気は俺には無い。

 全て、全て注ぎ込む!


「王様!! これを!」


 限界まで魔力を込め、途切れそうになる意識を繋ぎ止めながら掲げるリゼットの槍。だがどれだけ魔力を込めたところで、全て漏れてしまったから見た目には普通の槍だ。

 自分で使うつもりだったけど、琴音の魔法が切れた普通の身体能力しかない俺よりもロンメルトに任せた方が確実だ。


「フハハハハ、そうか! あいわかった!!」


 英雄譚好きのロンメルトは、すぐにどこを狙えばいいのかを理解したみたいだ。これで違ったら笑えないから確認はしたけどな。


「わかっておるとも! でかい奴、硬い奴の弱点など、目玉か口の中と相場が決まっておるわぁーーーー!!」


 いや、目玉に行かれたら困るから。

 ロンメルトが槍を振りかぶる。狙うは口の中。外殻が邪魔で中を攻撃できないなら、口から直接中に攻撃するのは当然の考えだ。


「せいりゃあああああああああああ」


 槍が飛ぶ。

 迎撃しようとアッドアグニがブレスを吐くが、最初からそれは警戒済みだ。食ってしまえジル。


 障害物が無くなった軌道を切り裂くように飛び、槍はアッドアグニの口の中へと消えた。


「はて? 変化が無いようであるが?」

「そりゃ、偽物の腹の中に槍が刺さったからって、どうにかなるもんでもないだろ」


 大切なのは、その偽物の腹は溶岩でできていて、リゼットの以前の槍は耐熱加工されていないということ。

 そして--


「ぬおおおおお!?」


 アッドアグニの体、その隙間から電撃が迸った。一瞬などではきかず、まるで中で電気の爆発が起こっているかのように隙間という隙間から電撃が吹きだしている。


 リゼットが前回まで使っていた槍の特性は、槍に込めた電気の余剰分を蓄積できるということ。新しい槍にも引き継がれた機能だが、古い方の槍は槍自体が壊れなければ貯めた電気を使えないという欠点があった。

 だから使えなかった。しかしアッドアグニの腹の中は溶岩だ。耐熱加工されていない古い槍は絶対に壊れる。


 そして今、リゼットが貯めた電気と、俺が今込めた電気。その全てがヤツの絶対防御の中で爆発した。

 身を守るための、電気もろくに通さない頑丈な外殻。それが逆に電撃の放出を防いで、中心にいるだろうアッドアグニの本体を逃がさない。



 そしてついにズン、とアッドアグニの体が倒れ、溶岩の外殻がズルズルと崩れ落ちた。

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