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この出会い、聖霊にも感謝せねばな

「ノーナンバー達よ待っているが良い! 余がこの身で、この剣で、数多の魔法士を退けてきた塔を制し、我らの牙が餓獣共に突き立てられることを……魔力無くとも決して劣らぬことを証明してみせようぞ!! フゥハハハハハハ!!!」


 ロンメルトが剣を掲げ宣言すると、人々の声援が爆発した。

 こいつ意外と人気あるんだな。


 塔の広場は人だかりができていた。


 ロンメルトが言いまわっているおかげで、俺達の進行状況は周知のものとなっている。

 そして今日、およそ1000年ぶりになる90階以上への到達……延いては前人未踏の迷宮塔完全攻略をかけた最後の挑戦が行われることを聞きつけて、一目見てみようと集まったらしい。


「実はせいぜい60階とかじゃねーのか? 50階越えりゃあ誰も証明できねぇんだから言ったもん勝ちだろうに」

「まったくだ」

「馬鹿、昔の記録があるんだから誤魔化せるわけないだろ」


 来てはみたものの半信半疑、な人が多いみたいだな。まあいいさ、別にそんなことを証明するために登るんじゃない。


「ほら王様、もう行くぞ」

「む、そうか? では者共、行ってまいるぞ!」


 御武運を、ロンメルト様ー! って、声援全部ひとり占めだ。

 塔を制覇して魔力が無い事から、迫害に近い扱いを受けているノーナンバー達の希望になる。最初に語っていたロンメルトの悲願が現実のものになろうとしているってわけだな。


 けど、ただ塔を登っているだけでこれだけの支持を得るとは思わない。

 ずっと訴え続けてきたんだろう。自分が証明してみせる、塔を制覇してみせる、だから現状に諦めるなと。


「フハハハハ! 30年は覚悟しておったものが、まさか30日程度で叶おうとは、夢にも思わなかったぞ!! ……皆の者、よくぞ余と出会ってくれた。この出会い、聖霊にも感謝せねばな」

「お互い様だ。私もまた、目的あってのことなのだから」


 リゼットは家族であり親友でもある竜、アインソフの病気を治すために竜玉を探してるんだったな。

 火岩のアッドアグニ。あれほどの竜なら、ほぼ間違いなく保有しているはずだ。


 ユリウスは……まあ何だ、とりあえずお祖父さんの「塔を登れ」は達成しておきたいみたいだ。登っても意味はないんだけど、何となくすっきりしないんだろう。

 危ないから置いて行きたいのが正直な気持ちではあるんだけど、それを言うとデカいワンコをけしかけてくるしさ。あれAランク上位だから、俺1人の時に襲われたら本気でヤバい。


 そして俺と琴音は、俺達を逃がすために塔に取り残された、時流の魔女リリア・ラーズバードを迎えに行くために。

 あと一応元々の目的としては、大昔に最上階で神隠しがあったらしいという情報から、地球に帰る方法が見つかるかもしれないってことで、それを探すために。


 なんだかんだ、王都にいた時間より長い時間をこの町で過ごしてるな。


「これで最後かぁ。ちょっと淋しいね」

「そうだな。でも万が一帰る方法が見つからなかったら、この町で暮らしてもいいかもしれないな」

「あ、そうだね! リゼットさんのオルシエラにも、ロン君のガルディアスにもここからなら簡単に会いに行けるしね!」


 そう。この探索が最後。

 どんな結果に終われど、俺達はバラバラになる。

 リゼットはすぐにでも竜の治療に戻るはずだし、ロンメルトも実績を手に祖国に帰るだろう。ガガンが聖剣を作るには迷宮都市が合っている。リリアだって無事に戻ればセレフォルンに帰るはずだ。


 そして何より--



 もし帰る方法が見つかったなら、俺は無理矢理にでも琴音を帰すつもりでいる。



 琴音は言った。

 自分の為に死んでしまった兵士達に報いるために、彼らの守りたかったものを代わりに守るために……戦争に行く、と。


 けど、もうアガレスロックから王都を守ったじゃないか。

 もう、本来なら全ての兵士が玉砕しても倒せない怪物を倒してみせたじゃないか。


 それを言ったところで琴音は納得なんてしないだろう。

 でも、じゃあ戦争に行って無事に解決できたとして、それで人々は安全になったと言えるのか。いいや、言えない。

 なぜならこの世界の人々は、常に餓獣の脅威にさらされているんだから。


 そもそも戦争だって、いつ起こるのか、本当に起こるのかも分からない。

 それをずっと待って、戦争を経験して、元の世界に戻ってから以前の暮らしができるほど甘くもないだろう?

 真面目な話をすると、来年には進路を決めて、再来年には死ぬほど受験勉強していないといけないんだからさ。2か月近く行方不明な現時点でも、相当まずい。



 俺はいいんだよ。

 正直、あのトカゲしかいない世界より(オル君は別)、こっちの方が性に合ってるし。その決断を親に謝ることができれば未練は無い。


「?」


 考え事をしていた俺の顔を琴音が覗きこんだ。


「なんでもないよ。行こう」

「うん!」

「ぎゃう!」


 この2人と1匹で始まってここまで続いた冒険は、今日で終わりだ。

 そうだな琴音。お前の言う通り、少しさみしいや。





 ボス部屋の扉を前にすると、緊張感が満ちてきた。

 今朝ガガンから受け取った盾も、対アッドアグニ用の武器も溶岩の熱に耐えられることは下の階層で確認できた。あとは実力が奴に届いているかどうか。


「ふはは……さすがに体が固くなっておるわ」

「仕方ない。敵は火岩のアッドアグニ……現代の人間では全人類が結集しても勝てないとまで言われるZランクなのだから」

「大丈夫、無敵じゃないことはアガレスロックで証明されてるんだからな」

「ちょっと可哀想だけど、やっつけるしかないんだもんね」


 それじゃあ作戦開始だ。


「ユリウス、ツヴァイリングヴォルフを」

「(コクン)」


 ユリウスのEXアーツである本が輝き、Aランク餓獣ツヴァイリングヴォルフのデトラとシトラが地に足をつける。はい、じゃれない。今から決戦なんだから。


「それじゃあ琴音の魔法を浴びると同時に扉を開けるぞ。あとは昨日の作戦通りに」

「うむ」

「ああ」

「うん」

「(コクリ)」

「「ワン」」


 ジルを呼び出し、扉に手をかけた。

 見た目のわりに軽い扉を勢いよく開け放つ。



「ジル! 放水!!」

「ピィーー!」


 一昨日来た時と同じく部屋の中央に居座るアッドアグニを確認すると同時に攻撃。ジルの口から明らかに不釣合いな量の水が放出された。

 放水といえば消防車のそれだが、量も勢いも比較にならない。激流の滝を横向きにしたかのような水流が、まだこっちに気づいてもいないアッドアグニに直撃した。


 我ながら惚れ惚れする不意打ちだ。


 溶岩に水をぶつけたものだから、部屋の中が高温の蒸気が満たされる。しまった、これは考えてなかった。

 だがこっちには生きるクーラーがついている。


「ユリウス! 冷気を頼む!!」


 俺からユリウスに、ユリウスから冷気のシトラに指示が飛ぶ。

 そして吐き出される冷凍ブレス。琴音の魔法は餓獣にも適応されたようで、普段よりずっと大きく冷たい。


 残念ながらサウナ対クーラーの対決は、その響きから想像がつくようにクーラーの敗北だった。

 だが蒸気はかなり収まった。少なくとも生き物が蒸し焼きにならない程度には。


「ごめん、あとは我慢してくれ」

「やれやれ、お主も鎧の暑さを味わってみるべきであるな」

「ぼやいていても始まらない、行くぞロンメルト王子」

「王子はやめよ!」


 蒸気の中、かすかに見えるアッドアグニの影めがけてロンメルトとリゼットが駆ける。

 不意打ちと蒸気でまだ混乱しているのか、アッドアグニに動きは無い。まあ1000年以上誰も来なかったところに奇襲だからな。一昨日は敵対行為は見せなかったし、これ以上なく気を抜いていたはずだ。


 そして俺と琴音は次の作業に移る。

 といっても既に始めていて、この部屋の地面の支配権はジルが掌握した。今は溶岩を埋め立てているところだ。一応地面扱いなのか、温度を下げて固めることもできた。


「余が上からであったな!」

「そして私が下からだ!」


 ロンメルトとリゼットはアッドアグニの下に辿り着いたみたいだ。

 蒸気の中からアッドアグニの巨大な頭部が現れる。首は……十分剣の届く高さだ。


 ロンメルトがアシストアーマの力で重鎧のまま飛び上がり、その首に剣を振り下ろす。

 リゼットの槍がバチバチと帯電し、喉を貫かんと引き絞られる。


「盾で防げ! 爆発するぞ!!」

「「!?」」


 接近しすぎた二人には見えなかったようだが、シトラが冷気を吐き続けたおかげで蒸気が晴れ、全体像が見えた俺には良く分かった。

 どうやらアッドアグニは見えない敵に、全身噴火の範囲攻撃を選んだようだ。


 光と熱が炸裂する。

 辛うじて盾が間に合ったようだが、その衝撃でロンメルトとリゼットが吹き飛ばされる。


 あっぶない……。溶岩を放置していたら落下していたかもしれない所だ。


 しかし改めて見ても、なんて威力だ。耐熱加工されているはずの盾が、今の一撃で完全にひしゃげてしまっている。だけどここでビビっていては倒せない。


「もう一度だ! サポートする!!」

「うむ!」

「了解した!」


 今一度2人が駆ける。

 蒸気は完全に晴れ、姿を現した1000年ぶりの敵をアッドアグニが見定める。


「お前は地面でも見てろ」


 ズガンとアッドアグニごと地面が陥没した。

 三馬鹿の三男ことデンから没収した重力魔法。それに魔力を込められるだけ込めて叩き込む。


 グググ、とアッドアグニが唸りながらもがくが、それを上から力づくで押し込み、封じる。


 以前使った時はBランクのオーガをどうにか抑える程度の威力だったが、俺が操ってるのは重量じゃない、重力だ。対象の比重が大きい分、加わる力も大きくなる。

 恨むならその中途半端にデカい図体を恨め。いっそアガレスロックくらいふざけた大きさならオリジンの魔力でもどうしようも無かったろうに。


「すまない、ユウト。助かった」

「おう! トドメは頼むぞ!」

「フハハハハハ! 余に任せるがよい!」


 身動きの取れないアッドアグニに、ロンメルトとリゼットが再度斬りかかる。


 また爆発されたら大変だが、ヤツにはそのタイミングが分からないから運次第だな。

 なぜかって? それは三馬鹿の次男ガッシから没収した闇魔法で目くらましもしているからだよ。本来の予定では最初のアタックで使うつもりだったけど、蒸気で既に目くらましになっていて残ってから使っておいた。


「「はあああああああ!!」」


 二つの煌きがアッドアグニの首を薙ぐ。


 血のように溶岩が吹き出し、アッドアグニの頭が重々しい音を立てて地面に落ちた。

 次いで、俺が押さえる胴体から力が抜ける。


「やったぁ! ロン君、リゼットさん、すごい!」

「フハハハハハハハーー!! 余の覇道に阻むもの無しぃ!!」

「ふう……思っていたより呆気なかったな。いや、ユウトが動きを封じてくれていたおかげか」

「押さえるだけじゃ勝てないよ。コイツを倒せたのは皆のおかげだ」


 ともあれ、これで全ての障害は排除できた。


 と、重力魔法を解除した時、アッドアグニの切り落とされた頭部が光った。

 その光はまるで……そう、全身噴火の時のような--



「伏せろぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

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