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あの『三界の餓獣王』の一角を崩したと申すか

「まず大事なのは足場だな。昨日ちらっと見たけど、100メートルくらいの円形の地面があるだけで、その周りは溶岩になってた。まずこれを俺が普通の地面にする」


 直径100メートルもあれば問題なく戦えるかもしれないけど、万が一にも吹き飛ばされてしまおうものなら大惨事だ。横着せずに地形操作で埋め立ててしまった方が安心だろ。


 それにアガレスロックの例もある。

 あいつは地面を自由に操れた。その1ランク低いだけのアッドアグニが、溶岩を操れないと確信を持って言える人間がいるだろうか。

 奴の上位であるアガレスロックの地形操作で支配しておけば、それを警戒する必要は無くなる。


 そしてなにより、暑い。

 すぐに室温は下がらないだろうけど、すぐそばに溶岩があるかないかでは大違いだ。熱にやられれば頭が働かなくなるし吐き気などの異常も出る。汗も問題だ。少しでも改善しておかないと、長期戦になった場合、それが生死を分かつかもしれない。


 以上の理由を語ったところ、仲間達の同意も得られた。

 みんなも火山階層に散々苦しめられたもんな……。


「しかしその上で短期決戦に臨むべきだろう。私達は体力を削られるが、アッドアグニが熱さに疲労することは無いのだから」

「そうだな、長引けば長引くほど不利になる。それに一番元気な最初の内に有効なダメージを与えられないようなら、長引かせても結果は良くならないだろうし」


 幸いにして俺達は一度アッドアグニを見ている。下手に時間をかけて様子見して疲れてやる必要もない。


「ユリウス。ツヴァイリングヴォルフ以外で戦えそうな餓獣はいるか?」


 フルフルとユリウスが首を横に振る。まあZランク相手に有効な餓獣なんてそういないよな。


「じゃあ冷気を吐けるシトラが頼りか。あんまり近づきすぎないように気をつけろよ」


 いくら強い餓獣を従えていたとしてもユリウスは子供だ。何があっても対処できる距離に置いておいた方が俺達も安心して戦える。


「琴音は基本的に補助に回ってくれ。植物が育つような環境じゃないし、石をぶつけた程度じゃ効かないだろうからな」

「そうだね。……うん、私の魔法じゃ攻撃できそうにないから、そうするね」


 よし、じゃあこう行こう。


 まず扉を開ける前に琴音の成長魔法をかけておく。

 そして扉を開けると同時に俺がこの後取りに行く水系統の魔法で先制する。

 やつが驚いている隙に、さっき三馬鹿から没収した暗闇ボールで目くらましをするから、ロンメルトとリゼットは一気に突っ込んでくれ。ユリウスはそのサポートだ。

 同時に俺と琴音で地面を支配下に置いて、溶岩を片づける。

 狙うのは首だ。あの巨体を短時間で倒すならそこしかない。


「もしそこで仕留めきれなかった場合、これまたさっき没収した重力魔法で足止めするからリトライだ。できればそれで終わらせたいけど、失敗したら一度引いて体勢を立て直すべきだと思う」


 撤退するか、そのまま攻めるかはその時の手ごたえ次第だ。


「問題無い。ヤツの体の熱もかなりのものだったが、ユリウスのフォローがあれば何とかなるだろう」

「余の剣は振り下ろしが最も効果的である。余は首の上を狙う故、竜騎士は下を狙うが良かろう」

「了解した。この槍でヤツの喉、掻き切ってみせる」


 もちろん視界を封じられても闇雲にブレスを吐いたりしてくるだろうが、ガガンが盾を用意してくれるから、ロンメルトとリゼットなら大丈夫だ。デトラとシトラもあの臆病さなら迂闊に近づいたりはしないだろう。


 とりあえず今考えられるのはこれくらいかな。


「ううー勝てるかなぁ?」

「大丈夫ですよ。アガレスロックだって倒したんですから。ね、同志ユート」

「その話なんだが……」


 リゼットがおずおずと挙手していた。


「最近たびたび噂を聞いていたのだが……アガレスロックとは、あのアガレスロックなのだろうか?」


 あれ? そういえば話したことなかったっけ。


「おっきい亀さんの餓獣だよぉ?」

「やはり! 倒したという話だったが、真実なのか!?」

「本当ですよ。同志ユートとコトネさんによって討伐されました。今でも王都の近くにはアガレスロックの死骸とコトネさんの魔法で生まれた巨木が残っていますよ」


 そうなんだよな。

 なにせあの巨大さだ。素材なんか、取っても取っても無くならない。鉱山丸ごと掘り尽くすようなものだからな。

 それに俺達は記憶が無いけど、琴音が生やしてアガレスロックを縛り上げた巨木は、さすが植物というべきか、ズタズタの状態から持ち直して今も青々とした葉を茂らせ、新しい王都の観光スポットとなっているらしい。


「そなたらの力は余も知っておるが、それでも信じがたい。あの『三界の餓獣王』の一角を崩したと申すか」

「え? なにそれ?」

 そんないかにもな肩書きがあの亀にあったなんて聞いてないよ?

 するとガガンが教えてくれた。


「Xランクの餓獣をそう呼ぶんです。Xランクは3匹しかいなくて、それぞれが陸海空を支配しているんですよ。アガレスロックはもちろん陸の支配者です」


 確かに、まさに陸を支配する能力だったもんな。

 てことは他の二匹も空と海を自在に操ったりしちゃう感じか? うん、ぜひ会いたくないな。


「地皇アガレスロック。天帝フルフシエル。海王フォカロルマーレ。それが世界中の生物が会いたくないと願っている生物の名です」

「俺も会いたくなかったよ」

「だが倒したのだろう!? 噂を聞いた時はまさかと思ったが、さすがユートとコトネだ!」


 うーん、あんまり実力で勝ったとは言いがたい状態だったけど、知り合いに尊敬の眼差しを向けられるとこそばゆいながら、誇らしい気分になるな。


 それになにより「さすがオリジンだ」と言われなかったのが嬉しい。


「よっし! アッドアグニもけちょんけちょんだ!」

「おー!!」

「フゥーハハハハハハ! 頼もしい限りである!」

「できるとも、私達ならば!」

「頑張ってください!」

「(ぐっ!)」


 周りもただ酒に盛り上がってることだし、景気づけに乾杯といくか!

 ジュースだけど。


 この中で酒が飲めるのってロンメルトくらいだろ? 待てよ、異世界だから法律もちがうのか。

 まあどっちにしろ明日決戦ってときにアルコールなんて取らない方がいいか。


「おーい! そこの暇そうな受付嬢さーん! なにか飲み物持ってきてー!」

「はあ? 私の仕事じゃないし」

「専属とか適当言って楽してるんだからいいじゃんか」

「ちっ……」


 すごいな、結構な距離があるのに舌打ちが聞こえてきたぞ。

 怠慢受付嬢は心底イヤそうにしていながらも、周囲の同僚の視線に耐えかねたのか飲み物を扱っているカウンターに向かった。

 あいつここでもぼっちなのか。また危ないところに放りこまれるぞ?


 やがてやってきた受付嬢が色とりどりジュース……着色料とかないから果物のジュースを持ってきた。ご苦労。

 ただ、なぜか俺の前に置かれたものだけが異彩を放っているんだが……?


「なにこれ?」

「知らないの? 体にいいのよ」


 青汁かよ。


「専属受付としては健康でいてもらわないとねぇ?」

「こいつ……」

「なによ?」

「やれやれ、仲がいいのか悪いのか」


 悪いに決まってるだろ。変なこと言うなよリゼット。


「明日、行くんだってね?」

「ああ、あのエセ幼女は俺達がちゃんと連れて帰ってくる」

「ま、アタシとしてはどーだって良いんだけどさー」


 おい、あんなでも一応セレフォルンの生き神様だろ。

 けどそれが強がりなのは解ってる。なんだかんだリリアが死んだかもしれないって聞いた時は凍り付いていたわけだし。

 まだ絶対生きてるって決まったわけでもないんだけどさ。


「じゃ、それはアタシからの奢りでいいわ。精々頑張んなさいよね」


 どうしよう、嬉しくない。


「悠斗君、本当に飲むの? スゴイ色してるよ?」

「いやでもさすがに捨てるのはなぁ……」


 けどこれ青汁っていうより、緑色のスライムみたいなんだが。大丈夫だよな? 嫌われてる自覚はあるけど、さすがに毒物渡されるほどじゃないよな?

 ていうか今の会話で奢るのがこの凶悪な液体ってどうなってんの? この世界では普通なの?


「フハハハ。では乾杯とゆこうではないか!」

「ちょっ--まだ覚悟が」

「「「かんぱーい!!」」」


 飲むしかないのか。鼻をつまんで一気にい--

ギャラリーにロンメルトのイラストを追加しました

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