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君達のカラダが欲しい

 交代で寝て、日の出を待とう。

 そう決めて琴音を先に寝させ、時間は分からないが深夜くらいに交代して俺も眠った。



 そして何か騒がしいなと目を覚ました時、琴音はおっさんになっていた。


「っ誰だお前!!?」


 一気に目が覚め、同時に距離を取ろうとしたが、思うように動けず地面に倒れる。

 当たり前だ、良く見れば手足をロープで縛られていた。寝ている間にやられたのか。


「ごめんなさいっ、悠斗君!! ごめんなさい!」


 慌てていて気づかなかったが、琴音は俺のすぐ隣にいた。

 何故か涙で顔をくしゃくしゃにして謝り続ける彼女も、やはりロープで縛られている。

 ご丁寧にオル君までロープでグルグル巻きにして転がされているではないか。やけに念入りに口までふさがれて。


 何が起こった。


 場所も最後の記憶にある木の窪みではなく、全く憶えのない洞窟のような所で、それこそ全く見覚えのない一四人の男達に囲まれている。そいつらは一様に地面に転がる俺へと馬鹿にしたような笑みを向けてた。日本人ではない。じゃあ何人かと言われると困るのだが、髪の色も目の色もまるで統一性が無い。一番多いのは煤けた金髪だが、なにやら獣っぽい顔つきの奴までいるから訳が分からない。

 ただ、男達の薄汚い恰好と、何か月も風呂に入ってないんじゃと思わせる悪臭に、飢えた野良犬のような目つき。そして昨日の琴音との会話から、ようやく奴らの正体に見当がついた。


「盗賊かっ……」

「ごめんなさいっ。悠斗君が寝た後、この人達を見つけて……私、助けてもらおうと思って」


 そしたら相手が盗賊だった訳か。だが、どこかも分からない場所で獣に狙われる恐怖に耐えている時に、現地人と会って助けを求めず冷静に観察しろと言うのは酷ってものだろう。ましてや、お互い出来ることを頑張って必ず生き残ろうと誓い、高揚している時だったんだから。


「いいんだ琴音。逆の立場なら、俺も最終的に声をかけてた筈だから」


 むしろ、あのまま森を彷徨って無事に抜け出せた保証なんて無いのだ。言葉が通じる分、状況は良くなったと考えられなくもない。もちろん今後の俺達がどう扱われるかによるが、なんだか文明レベルの低そうな恰好をしている事から、かなり不安になる。

 なにせ、さっきから非常に気になっていたのだが、こいつら剣を持っているのだ。剣。ソード。ブレイド。槍やナイフを持っている奴もいるが、物騒さは大差無い。


 これはいよいよ琴音の異世界説の信憑性が増してきた。人権ってあるのかな……?

 

「俺達は金目の物なんて持ってないし、身代金を払う家族もいないぞ」


 だから逃がしてください、なんて言っても無駄なんだろうな。

 盗賊のアジトの場所知ってる奴なんて逃がさないだろうし、奪うものはなくても……下種な話、琴音は男達にとって十分価値があるだろう。

 その割に男達のニヤニヤが俺にも平等に向けられているのは何故だ。なんだか寒気がする。


 俺と琴音が、もしかしたら同じ理由で不安に震えていると、盗賊団にしては小奇麗なマントだかローブだかを着た男が、木箱に座ったまま品定めをするようにジロジロと見てきた。


「我々は盗賊ではない。ある商会の者だ」


 しょうかい……商店街……商売関係の人か? それが何で俺達を縛りあげてるんだ。


「その服はなかなかいい生地を使っているようだけれど、残念ながらボロボロで商品価値はない……が、ちゃんと持っているだろう? 巨万の富を生んでくれる商品を」


 何か持ってたっけ? てかよく考えたら日本語しゃべってるよ。日本っぽさ微塵も無いのに。

 なんて思っていると、ローブ男が立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。



「僕が求めているのは、君達の肉体カラダの方だよ」



 手足が縛られているなら這ってでも、全力でローブ男から距離を取る。隣では琴音も同じように這いずり回っているが、今の俺には琴音をかばう余裕もない。

 だって「達」って言った! あいつ、君「達」って言ったんだぞ!! 「求めている」とか言いやがったんだぞぉ!!?


「待てっ勘違いするな! そういう意味ではない!!」


 今更そんなこと言われても信じられないわっ!! いや最初から盗賊相手に信じるも何もなかったけど。だがお前はこれ以上近づくな!!! お尻がぞわぞわする!!!


「くっ、なんて屈辱的な誤解を……異世界人とは自分たちの価値すら分かっていないのか」


 むむ、できればもっと離れたいところだが、気になること言い出した。

 今はっきりと「異世界人」って言ったよな。これはもう、ほぼ確定でいいんじゃないか? ここは異世界。ウジャウジャドラゴンパラダイス。

 内心ちょっと喜んでいると、いかにも下っ端な男が呆れたような顔でローブ男に問いかけた。


「旦那。本当にこんなガキ共が、あの魔導師オリジンなんですかい?」


 オリジン?

 周囲が突然ざわめきだした。意味が分からない俺達にはきょとんとすることしか出来ないが、とりあえず貞操の危機は去ったと思っていいんですか?


「それは間違い無い。確かに情報を買った時は半信半疑だったが、あの髪に染み出るほどの魔力色が何よりの証拠だ。異世界から来たばかりで何も知らないからこそ、簡単に捕まえられたがな」


 言ってる言葉の意味はさっぱり分からないけど、つまりそのオリジンだかなんだかと間違って捕まってしまった、ってことでいいのかな? 髪の毛が変な色になったせいで、こいつらが狙ってる相手と特徴がかぶったとか。


 違うな。


 こいつの話は、オリジンって呼ばれる覚えが無いコト以外は俺達に当てはまっている。

 そう、俺達は異世界にきたばかりで、この世界の事を何も知らない。髪の色が変わった原因らしい魔力色とやらが何なのかも分からない。なら、分かっていないだけで、俺達はそのオリジンという奴なんだろう。

 そしてそのオリジンとは、こいつらが目の色を変える程の存在らしい。 


「あの……、オリジンってなんですか?」


 ねえ琴音さん。わからなかったら先生に聞く。大事なことだけど盗賊に聞くのはおかしくないか? そもそも無知なおかげで捕まえられたって言ってるんだし、教えてくれないんじゃないかなぁ。


「それを教えて何か我々に得があるのか……と言ってやってもいいのだが、お前たちを運ぶための馬車が用意できるまでの暇つぶしに話してやろう。もちろん、お前たちが逃げ出すのに役立つ話は教えてやらんがな」


 馬車ね。やっぱり文明や科学技術はそんなに高くなさそうだな。とりあえずドラゴンから連想しやすい中世ヨーロッパをイメージしておこう。

 しかし早くなんとかしないと、お迎えが来るまであまり時間は無さそうだ。何時間もかかるなら俺達と話しをしたって大した暇つぶしにはならないだろうし、十四人も一か所に集まって待機もしないだろう。30分以内には増援がくると考えておいた方が良さそうだ。


 と言っても現状打破するアイデアがある訳でもなし、ひとまずお話を聞かせてもらおう。なんかコイツ人の知らないこと教えて「どやぁ」するタイプみたいだし、ぽろっとヒントが出るのを期待しながら。


「さて、何を説明するにも最も重要なのは魔導師オリジンとは何か、だ。およそ1200年前、世界に突然、魔物が現れたという。人類は魔物に対抗する手段を持たず、絶滅しかけていた。そこに現れ、超常の力で魔物を薙ぎ払い、人間という種族を救った者…………それこそが魔導師オリジン。わずか10人で魔物の過半数を駆逐し、人類に安住の地を作った救世主達」


 その魔物っていうのが、昨日森で襲ってきた虎のような奴のことなら、そのオリジンってのはとんでもないな。俺も文明フラッシュ(※懐中電灯)が無ければ近づくこともできなかったし、それに……10年前のドラゴンを思い出す。あれを、倒す? 背景に戦車と戦闘機がよく似合うあれを生身で? しかも人類を絶滅させるほどの数をたった10人で? 

 それは確かに救世主と呼びたくもなる。


 あれ、そういえばこいつら俺たちの事もオリジンって呼んでたけど、そんな大活躍もちろんしてないぞ?


「そして魔導師オリジンとは全員、異世界から来た者だという。わかるか? オリジンが異世界から来たのではない。異世界から来たからオリジンなのだ……お前たちがそうであるようにな」




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