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貧弱ロンメルトじゃねーか

タイトル変えてみました。

戻すかもしれないし、また変えるかもしれません。意志の弱い男なのです

「おお、おおお」


 ロンメルトが感極まった様子で声を漏らす。ともすれば今にも鎧に抱き付いて飛び跳ねそうな雰囲気だ。


 だがそうなっても無理は無いのかもしれない。

 琴音の魔法で、今まで磨き上げてきた技を使うための身体能力を手に入れたとはいえ、それは自分だけの力じゃない。琴音もずっと隣にはいない。


 だけど、もしこの鎧がロンメルトの父親の設計通りの力を発揮できたなら、ロンメルトはついに自分1人で戦えるようになるのだ。


 俺でいうと、琴音の魔法がドラゴン発見で、アシストアーマがドラゴンと友達になることみたいなものだと思う。狂喜乱舞するな。なんて理性的なんだロンメルト。


「着て見せてくれよ、王様!」


 かくいう俺もテンション上がっていた。

 俺はドラゴンが大好きだけど、近未来的なマシンやロボのかっこよさだって理解できる。ライトセーバーにだって憧れて、箒振り回しながら口でブゥンブゥン言ったこともあるくらいには。


「うむ! しばし待て!!」


 ロンメルトがガチャガチャと今着ている鎧を脱ぐ。体ほっそいなぁ、威厳のために鎧を着ているって言ってた意味がちょっと解った。


「な、なんということだ!?」

「どうしました!? まさか何か不備が……!」

「重くて持てぬ! これでは着れんではないか!! いや待て、手伝いは不要! 1人で装備できねば意味が無いのだ!!」


 それから20分ほど、俺達は鎧を床に置いた状態でなんとか着ようとゴロゴロ転がったり潜り込もうとしたりするロンメルトを見守っていた。

 おい、威厳どうした?


「フ、フゥッハハハハァ、ハァ、はぁ……やっと着れた」


 おつかれ。


「ふむ? ふむふむ? ほほぉ?」


 どうにかアシストアーマを装着したロンメルトが、体を色々動かして動作を確かめる。動くたびに関節部辺りがギュウン、ギュウンと鳴っている。かっこいい……。

 ロンメルトの髪の色に合わせたのか、所々に入った赤い装飾がイカした、超重厚な鎧だ。


「素晴らしい! コトネの魔法を受けておる時には劣るが、なんという力強さか!」

「ああ、良かった。満足いただけたでしょうか?」

「うむ! 大義であった。今はこれだけしか持ち合わせが無いが、褒美である」


 ポンっと何気なく渡してるけど、あれガーランド袋だろ。全財産じゃないのか?

 ガガンも中身を確認するのは失礼だと思ったのか黙って受け取ったけど、それの中身は家を買ってもオツリがくるレベルだと思うぞ。


 あれ? でもパワードスーツ買うこと考えたら妥当なのかな? 時代的に、技術的に考えるとむしろ足りないくらいなのかもしれない。まあそれは俺が考えることじゃないか。


「それにしてもよく作れたな、こんな複雑そうなもの」


 絶対無理だと思ってたよ。いくら迷宮だからって、そんなに都合よく最適な素材も無いだろうしさ。


「主な素材は以前密林階層で大量に取ってきてもらったカエルですね。ロンメルト様の伸縮剣でも使いましたが、あれの舌はよく伸びるんで人工の筋肉として使えたんです」


 なるほど、ゴムみたいなものを組み合わせてるのか。でもそれで作れたら地球の技術者なにやってんだってなるだろ。


「でもロンメルト様のお父さんが諦めたように、素材があっても難しいですね。ただそこは僕の魔法の出番ですよ。何千とある細かいパーツ一つ一つに魔法の補助をかけて組み合わせ、ようやく完成したんです」

「簡単に言っているが、とんでもないことではないのか?」


 リゼットの言う通りだ。そんな何千ものパーツ全てに、こう動けばいい、ああ動けばいい、なんて魔法をかけたんだろうけど、一発でうまくいくとは思えない。

 きっと何度もやり直したんだろう。一カ所変えることで、別の場所で問題が発生するなんてこともあったに違いない。


「ただ、そのせいで耐熱加工はできてません。気を付けてくださいね」

「うむ、理解した」

「やっぱりお前は凄いヤツだよ」

「いやあ、はは」


 作業に入って2週間かそこらだぞ? 武器も作りながら、よくも仕上げてみせたものだ。


「ちゃんと休めよ?」

「はい。もう新しい素材も無いですし、満足です。あとで盾だけ作って休ませてもらいます」


 しまったそうか、俺達がハイペースで攻略を進めて次々と新しい素材を持ってきたものだから、ガガンもハイテンションを維持してしまってたのか。

 だけどそれがあったからこそのハイペース攻略だったわけだし、感謝してもしきれない。


 しかしアッドアグニの素材は手に入ってもしばらく黙ってた方が良さそうだな。

 この中で一番過酷な毎日を送ってたのは、間違いなくガガンだ。休ませないと。


「一段落したら聖剣も作らないとな」

「もちろん手伝ってくださいね?」

「ああ、馬車馬のように働くぞ!」


 それくらいしないと、ガガンの苦労には釣り合わないだろう。たとえ本人が楽しくてやっていたとしてもさ。


「おう! 貧弱ロンメルトじゃねーか! 相変わらず鎧だけは立派なもんだなぁ、おい」

「げ……」


 大事な話し合いの最中に割り込んでくる汚い声は誰だ、と思って振り返ったら見覚えのある汚い顔があった。そういえばこの町にいたんだっけ。


「お前らか……」

「おうよ! どんでん返し三兄弟よ! 元気だったか、兄弟!」


 お前らと兄弟になった覚えは無いし、俺が入ってるなら四兄弟だし、ドン、デン、ガッシ、ユートでどんでん返しでもなんでもなくなる。

 頭の弱さも相変わらずか。


 っていうか馴れ馴れしい。アガレスロックの件は忘れちゃいないんだぞ?


「お前ら王様と知り合いだったのか?」

「がははは、王様だって? おめぇあんなホラ信じてんのか!?」


 血筋うんぬんはわからないけど、心の在り方は王様っぽいと思うけどね。


「この者達は余がこの町に来た際にパーティを組んだ者達である」

「おうよ。でけえ口叩きやがるから、どんなに強ぇのかと思ったら一階のウサギに負けやがってよ! 一日でクビにしてやったのよぉ! がははは!」


 ロンメルトがクビになったってパーティはこいつらだったのかよ。


「貴様ら! 仲間の前で侮辱するとは、覚悟はできているのだろうな!」


 リゼットがブチ切れて槍を掴んだ。

 かくいう俺もいつでも殴る準備ができている。ホント、パーティの会議中にパーティメンバーを馬鹿にするなんて何考えてんだか。


 だが汚い大男ことドンは、我が意を得たりとばかりに捲し立てた。


「おう、それよ! なんでそんなザコを仲間にしてやがる。水臭えじゃねーか兄弟、そんなザコを雇わねーといけねぇくらい困ってんなら、どうして俺達に声をかけねぇ? 貧弱ロンメルトを外して俺様達を入れりゃあ、ちょうど6人じゃねーか」


 よし決まりだ、と席につこうとする三兄弟。

 立ち上がるユリウス。


「なんでやんすか、このガキ」

「おい獣のガキ。邪魔だぞ、どきやがれ」


 だがユリウスはどかない。むしろご立腹の様子だ。パーティの頭数に入ってなかったのが気に入らなかったらしい。そもそも小さくて存在にすら気づかれてなかったけど。


「ちっ、おいデン。摘み出しな」

「え……かわいそうなんだど」

「さっさとしねぇか!」


 ちなみに何故俺達が黙ってるのかというと、ユリウスが餓獣を呼び出す準備をしていたのを止めるのに忙しかったからだ。

 だめだぞ、ユリウス。こんなところでツヴァイリングヴォルフなんか出したら町から追放されかねないんだよ。


 懸命な説得で、どうにかユリウスをなだめる。というか琴音が木の実を与えたら大人しくなった。


「さて、悪いんだけどさ。俺達は明日、火岩のアッドアグニ討伐に向かうんだよ。お前らがいたって足手纏いにしかならないし、そもそもまた登り直す気は無い」


 わざわざ足手纏いのために低層から登り直すとか有り得ない。それ以前に仲間に入れたくない。

 それに見ろよリゼットの表情。俺達の知り合いじゃなかったら既に槍を振りかぶってるとこだよ。罪に問われないならぶっ殺してやるのに、みたいな顔だよ。


「か、火岩の……それは無理なんだど」

「ヤバいでやんすよ、さすがに」

「馬鹿野郎、火岩と戦う前に抜けりゃいいんだよ。50階以降にいくだけで、どれだけ儲かると思ってやがる」


 もしもし? 聞こえてるんだけど? 浅い考えがだだもれですよー?


「ええい、まどろっこしいわ! 余よりも役に立つと申すなら、かかってくるが良い!!」

「おいおい、いいのか? ほらお前の王様像的にさ」


 王様が民衆をボコるのってどうかと思うよ?


「ふっ、この者達はガルディアス帝国の国民では無い!!!」


 それでいいのか。そんな区別するタイプじゃないだろうに……ああなるほど、ロンメルトもムカついてるんだな。


「ぶはっははははぁ! お、お前勝てる気かよ! 強え奴に寄生して甘い汁すすってる卑怯者の分際でよお!!」


 それはお前の企みだろ。

 けどこれで分かった。自分達より弱いと思ってる奴が有名になったから嫉妬してやって来たんだな。

 俺と琴音が顔見知りなのをいいことに自分達もあやかろうとやってきたんだろう。


「王様。あの馬鹿の勘違いとあっさい考えを粉砕してやってくれ」

「うむ。コトネ、魔法は不要である。このアシストアーマのテストといこうではないか。フハハハ」


 ロンメルトが剣を掲げる。重心移動型はまだ慣れていないから、前の伸縮型だ。だというのに軽々と持ち上げていた。


「さあ来るが良い。余自ら、分相応という言葉の意味を思い知らせてやろうではないか」

「気の毒になるぜ、馬鹿野郎すぎてよぉ!!」


 大剣と大剣がぶつかりあう。身体強化魔法と身体補助鎧が、たがいの性能を競い合うかのように性能の限りを剣に込めた。


「なんだとぉ!?」


 軍配は呆気なくロンメルトに上がった。

 所詮は薄まった微量の魔力による強化だ。オリジンである琴音の魔法に迫ると評されたアシストアーマに敵うべくもない。


「その妙な音のしやがる鎧か!? 道具に頼りやがって、やっぱテメエは卑怯者だぜ!」


 バカを言う。ロンメルトのために父親が設計して、ロンメルト自身が作れる人間を探して、素材も集めて駆けまわったんだ。努力して手に入れたんだから、それもロンメルトの力に違いない。

 それにそれは所詮道具だ。纏い、動き、剣を振るのはロンメルトだ。


「くそぉ! なんで当たらねぇ!?」


 ドンの剣が宙を切る。ロンメルトやリゼットの動きを見慣れている身からすると、無駄が多くて雑な動きだ。一生続けたってロンメルトを捉えられそうにない。


「ドンアニキ! 助太刀するでやんすよ!」

「するんだど!」


確かガッシのボールに触れると目の前が真っ暗になって、デンの手袋で触られると重力で動きに制限をくらうんだったかな。


「でえええ!? ボール斬られたでやんすよ!?」


 目が見えなくなるのはヤバいけど、そんなボールに当たるほどロンメルトはのろまじゃない。フォームも無茶苦茶で、ドッジボールしてる小学生でも避けられそうだ。

 そして暗闇ボールが当たらないと、デブのデンがロンメルトにタッチするほど近づくなんて不可能だ。


 その後何度かガッシが暗闇ボールを投げるが、全て避けるか切り落とされ、その片手間にドンの剣も開け流されていく。

 もう勝負はついたようなものなのに、なかなか諦めないな。


「ロン君、まだぁー?」


 飽きてきたのか、琴音からヤジが飛んだ。


「では終わらせるとしよう」

「なめんじゃねぇ!! 貧弱ロンメルト!!」


 ドンの剣がクルリと軽く弾かれ、天井に突き刺さった。スゴイな、どうやったんだろ。今度教えてもらおう。


「疾く、立ち去るがよい」

「……ぐっ、キタネエ。ああキタネエぞ! オリジンに鍛えられたんだろうが、んなもん勝てるわけねぇだろ!!」

「俺達は何もしてなかっただろ、王様の努力の成果だよ。魔法有りの多対一で負けて言い訳なんかできると思うのか?」

「うるせぇ!! ああチクショウ、どいつもこいつも! テメエがあの亀を倒せるってわかってりゃ、あの時俺様だって逃げやしなかったんだ! アガレスロックをぶちのめして、栄光を手に入れられた筈だったんだぞ!!」


 完全にやっかみじゃないか。知るかとしか言いようがない。

 頼むから黙っててくれ。助けたことを後悔するようなことを言うな。


「気絶した坊主を王都まで連れてってやったろ!? なあ!?」

「そもそもオジサン達がアガレスロックを起こしたんじゃないの?」

「小娘は黙ってろ!! んだったらテメエに俺のガキ孕ませ--」

「お前が黙れ」


 限界だった。


 周りがざわついている。

 当たり前だな。ただでさえ噂になっていたのに、こんな人がいる中でオリジンオリジン喚いていたんだから。


「ジル」


 どんでん返し三兄弟の体をすり抜けるようにジルが舞った。

 直後に膝を折って座り込む三人。やっぱ力がぬけるんだな。


「な、なんだ!? からだが……」

「お前らの魔法はジルが食った。もう使えないぞ」


 この力はこいつらの前で何度か使ってるから理解できるだろう。実際青ざめている。


「今日は俺のおごりだ! 好きなだけ飲んでくれ!! その代わり今日ここで聞いたことは黙っててくれ!」


 おおー! 太っ腹だぜー! と歓声が上がった。

 二階で良かったよ。Cランク以上じゃないと来れないから人が少ないし、密告して小銭を稼ぐ小物も少ない。この三馬鹿みたいな例外もいるけど、酒をおごっておいたし大丈夫だろ。


「困るんだよな。アガレスロックの時は鼓舞するために仕方なく話したけどさ、基本的にオリジンだってのは広めたくないんだよ。お前らみたいなのが寄って来るしさ」


 必死で隠す気は無いんだよ。髪の色とかで判るひとには判るし。

 けど積極的に広められても困る。血を求める人であれ、力を求める人であれ、オリジンと聞いてやってくる人と接して、少なくとも得することなんて無いんだからな。


「わ、わかった。わかったから……」

「黙ってる?」

「ああ!」

「それと次に琴音にふざけたこと言ってみろ……奪うのは魔法だけじゃ済まさないぞ?」

「……ごく。も、もちろんだ」

「しばらく様子を見て、噂が広まってないようなら返してやるよ」

「や、約束だぞ!?」


 あー約束約束。たぶん明日には返すよ。っていうか使う。

 約束したら三馬鹿は転げるように帰って行った。噂が広まらないように揉み消してくれると助かるな。


「ユートも、怒るのだな」

「あは、怒るよ。オル君を盗まれた時とかすごかったんだから」


 怒らない人間なんているの?


「それはそうと、どうでしたか? 使った感じは」

「コトネの魔法と異なり、ややぎこちないが仕方あるまい」


 まあ自分の体と補助機械とじゃあな。


「あ、あとコトネさんの魔法はかけないでください。人工筋肉が成長すると、ロンメルト様の肉体が耐えられなくなる可能性があります」

「む、そうか。だが10分という制約が無い分、やはり助かる」

「だな。途中でかけ直せるとは限らないし」


 これで装備は万全……ではないのかもしれないけど、思い付く限りの準備はできた。


「あとは、作戦だな」

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