対策会議をはじめまーす
「それじゃあ火岩のアッドアグニ対策会議をはじめまーす」
「わぁー! ぱちぱち!」
「(ぱちぱち)」
ノッてくれたのは琴音とユリウスだけだった。
場所はギルドの酒場。
武器の事もあるのでガガンも含めて全員参加。大きな丸テーブルに時計回りで俺、ユリウス、リゼット、ロンメルト、ガガン、琴音の順で座っている。
「まず最初に確認しておかないといけない事がある。ユリウス、アッドアグニは説得できると思うか?」
ユリウスは餓獣と意思疎通ができる。操っているのでも洗脳しているのでもない以上、絶対じゃない。だけどもし可能なら、Zランクの怪物との戦闘が避けられる。
だがユリウスはうーんと悩んで首を横に振った。
「ふむふむ、なるほど……」
「リスの子はなんと申しておる?」
「こっちのことを滅茶苦茶見下してるだろうから難しいとさ」
ユリウスの魔法については本人から色々聞いている。
EXアーツは背中の本だ。基本的には友達となった動物を連れ歩けるのがユリウスの魔法で、獣と会話できるのは魔法の副産物に過ぎない。
だから交渉の余地が無ければどうしようもないのだ。
「餓獣はランクが高いヤツほど、知能が高いらしいんだ。普通の動物に例えると、下級が本能のままに行動する蟲で、中級が犬猫くらい。上級の餓獣は人間と遜色ない知能があるらしい」
最上級Xランクのアガレスロックに至っては言葉を話したくらいだからな。意味はわからなかったけど。
「まあつまりだ、俺様サイキョー他の奴らはみーんなムシケラって思ってる人間に、お前の寝室通るよーって言うようなものなんだってさ」
「うわぁ、絶対通らせてくれないね」
「ううん、しかも人間を殺すことなんて何とも思っていないのだろう?」
というわけで、倒すしかないわけだ。
あわよくばユリウスに、背中に乗せてもらえるように頼んでもらいたかったのに残念だ。あ、どのみちアイツの背中溶岩だから無理だ。よし、遠慮なく倒そう。
「俺達が洞窟で遭遇した時に見た限りの情報をまとめてみよう」
「うむ、頼めるか。余は実物を見ておらぬからな」
あとガガンとユリウスも見てないな。
「おっきかったよぉ! 50メートルくらいあったんじゃないかなぁ?」
「そうだな、50メートル四方はありそうな洞窟になんとか収まってた感じだったし、横縦40メートルの、長さは尻尾を含めて100メートル近くあったかもしれない」
「お、大きいですね。さすがにアガレスロックほどではないにしても、大きい」
あれは比較対象にならないだろ。アガレスロックは高さだけで300メートルはあったからな。
「溶岩、ということは地と火に属する餓獣であろう? 地の餓獣は巨大なものが多い」
ロンメルトは餓獣をばったばったと倒すことに憧れてたからか、餓獣に詳しいな。
「羽は無かったから、飛ばれる心配は無いだろう」
「それは重畳であるな。我らがパーティは遠距離攻撃の手段に乏しい」
そうだな。リゼットの魔法くらいか。ツヴァイリングヴォルフのブレスはそんなに遠くには飛ばないし」
「ユウトには後で水路階層で水の属性を確保してもらうべきじゃないだろうか」
「っていうと21階から29階か。分かった、この後行ってくるよ」
「私達もいこっか?」
「いや、休んでてくれ。そのくらいの階層、今なら散歩みたいなもんだしさ」
散歩は言い過ぎかもしれないけど、野良猫の多い路地裏くらいの危険度だから1人でも問題ない。
「奴の攻撃手段は2つしか見れなかった。ブレスと起爆だ」
「起爆とな?」
「ああ、噴火って言ってもいいかもな。全身が溶岩みたいなんだけど、それが爆発するんだ。接近戦になる王様はこれに注意してくれ」
「僕が急ぎ耐熱の盾を用意します。対アッドアグニ用の武器で研究しつくしていますから、すぐにできます」
盾か。溶岩は岩もあるけど、ほとんど液体みたいなものだから熱にさえ耐えられるならいけるか。
「リゼットの分も頼む」
「そうだな。すまないが、よろしく頼む」
「はい、任せてください。明日の出発時にお渡しします」
「できれば腕に装着できるものがいい。槍が扱えなくなるのは困る」
そうか、片手でも扱える槍だけど、岩の肌を持つ相手の防御を貫くには両手持ちでも確実じゃないもんな。必然的に盾が小さくなるだろうけど仕方ないか。そこは頑張ってフォローしよう。
「わかりました。盾は明日として、武器の方をお渡ししますね」
そう言ってガガンが壁に立てかけていた二つの木箱の内、細長い方を開いた。
「まず同志ユート。剣自体は以前渡した試作品をより頑丈にしたものです」
「1つ気になってたんだけど、剣って火で鍛えるんだよな? 溶岩に耐えるなんて無理なんじゃないのか?」
鍛冶には詳しくないけど、イメージとして熱で溶かした鉄を材料に、叩いて熱してを繰り返しているものだと思ってるんだけど、まず熱で溶かす時点で溶岩には耐えられそうにない。
「それは僕の魔法によるものですね」
……え?
「お前、魔法使えたのか?」
「僕はノーナンバーじゃないんですから、もちろん使えますよ」
知らなかった。だって魔法使ってるところなんて見たことなかったし。
「理想探究。これが僕のEXアーツです」
少し誇らしげに掲げるその手には、何の変哲もないトンカチが握られていた。
「鍛冶師よ。ノーナンバーだからと悲観することはない。ふはははは、誇るが良い。見事な手品であった」
「手品じゃありませんよ! 地味ですけど、本物のEXアーツです!」
マジで地味だな。木の持ち手に黒い鉄のハンマー……本当に手品じゃない?
「効果はすごいんですよ!? 全然地味じゃありませんよ!!」
「そーなの?」
「はい! なんとこの槌で鍛えた武具には、僕の理想(がんぼう)が反映されるんです!!」
「おお、それは本気でスゴイ!」
「ただ、魔力が少ないのであんまり反映されません!」
「えー……」
やっぱりちょっと地味だった。いや、どれくらい反映されるかだな。
「例えばそうだな、剣の切れ味でいうとどれくらい違ってくるんだ? この机を斬れる剣に使ったらどうなる?」
「うーん、そうですね。この硬さの木を切れるなら、僕の魔法で……」
机をコンコンと叩いて確かめた後、ガガンは木製の壁に手を触れた。
「この壁くらいは切れるようになりますね」
「微妙だな」
「微妙だねぇ」
「微妙であるな」
「ああ、と。す、すごいんじゃないかな? ほら、建物の外壁は案外頑丈だ!」
フォローしたのはリゼットだけだった。ちなみにユリウスは興味無さそうに琴音に貰った木の実を齧っている。
「……とにかくですね、限界まで高温にした火でようやく加工できる鉱石を、ほんの少しだけでも強化することで、どんな熱にも耐えられるようになるんです」
おお、言われてみればその通りだな。強化の度合いが心配だけど、まあガガンも武具に関しては妥協しない人間だし、大丈夫だろう。
「念の為、階段を下りて89階の溶岩で試してからにしよう」
「それで構いません。僕も実験したわけではないので。それで同志ユートの剣ですけど、実はすごい機能が備わっているんです」
おっと、自分からハードルを上げてきたぞ?
「実はその剣は、疑似EXアーツなんです」
「……なにそれ」
「疑似EXアーツとは我がガルディアス帝国で最近開発された技術である」
知っているのか、ロンメルト!
「フッハハハ。知っているもなにも、開発者は我が義理の父マクリル・アレクサンドルなのだからな。ノーナンバーでも魔法が使えるようにと研究した結果生まれた失敗作である!」
「失敗作なの?」
「うむ! 魔力を抽出し、溜め込む機構「魔力コア」。魔法士がそのコアに魔力を込め、他者がその魔力によって魔法を使えるようにと開発されたのだが、魔法士がコアから離れると貯めた魔力が霧散してしまうのだ」
「現在ではEXアーツが戦闘向きでない人の武器としての利用が主ですね」
普通、魔法はEXアーツに適した形で発動される。
例えばセレフォルンが誇る戦うメイド、アンナさんのEXアーツは箒で、魔法はゴミを集めるつむじ風だ。だがその魔力を魔力コアに込めて剣に組み込むことで、風の刃を放つことができるようになる。
つまり出力する形を変えられるということらしい。
「普通なら少し使い勝手の悪い道具ですけど、同志ユートが使えばその限りではありません」
「そうか! ユートの魔法は吸収と放出……ジルに頼らなくとも剣で敵の異能を切り裂き、吸収できるのだな!?」
「おお! ジルには悪いけど、それは嬉しい!」
だってせっかく別行動できるEXアーツなのに、離れさせたら俺が無防備になるんだもんな。
「はい。ただ、あくまでも疑似EXアーツなので、本来のEXアーツのよう何種類も吸収、保持するは無理だと思います」
それはこの後行く水路で試せばいいだろう。いやぁ、楽しみだな!
そうだよ! 俺が待ってたのはこういう武器なんだよ。変なガス出す剣じゃなくて。
「ありがとうガガン!」
「喜んでもらえて幸いです。では次にリーゼトロメイアさん」
リゼットも目が輝いた。
そりゃ、こんな剣の後なら否応なく期待するってもんだ。
「このあいだ渡した槍の改良版です」
「……それだけか?」
「え? はい、とくに新しい機能とかは」
「そうか……」
あきらかにガッカリしてる。ガッカリしたらガガンに悪いと隠してるつもりで、ばっちりガッカリしてる。
「あ、貯めた電気は任意で放出できるようになりましたよ」
「そ、そうか! ありがたい!」
わざとやってるんじゃないかってくらい翻弄してくるな。
でも俺の剣みたいな新機能は無いにしても、望んでいた機能が備わったことにリゼットも満足そうだ。
「それでロンメルト様ですけど」
ロンメルトだけ様づけか。さすが王様、オーラがあるのかね?
「まず武器の方ですが、耐熱に特化させると以前の伸縮機能は強度の問題で不可能になりました」
「む、残念だ。あれはおもしろかったのだがな」
「あっ、じゃあ伸びる方ちょうだい!」
「ならぬ! いくらコトネの頼みとはいえ、あえは余の玩具である!! たまになら貸してやろうではないか、フハハハ」
武器をオモチャにするなよ。
「その代わりというわけではありませんが、新しい機能を付けてみました。使用に問題があれば外せるので安心してください」
新機能。
その言葉にロンメルトが期待に胸ふくらませ、リゼットが少しションボリする。
「剣先を上に向けると剣の重心が手元に下がり、振ることで遠心力により重心が剣先に移動。勢いが増すはずです」
ハンマーが破壊力抜群なのは、重量はもちろん先端が重いことにより強い遠心力が働くからだ。じゃあ剣も剣先が重ければいいのかというと、そうすると重くて動きが遅くなるし、細かな操作が難しくなって切りにくくなる。剣はパワーではなくテクニックなのだ。
だがロンメルトの武器は大剣だ。どちらかというと鈍器に近く、問題となるのは重さによって振り上げたりするのが遅くなること。そこで持ち上げる時は軽く、振り下ろす時は重く、という仕組みを考えたんだろう。
でも振ってる途中で重心が変わるのは使いにくいだろ。ああ、それを危惧して外せるようにしてるのか。
「むむ。これは少々扱いが難しい。が、使いこなせれが便利そうであるな。フハハハハ今宵は特訓だ!!」
「明日に響かない程度にしてくれよ?」
でも一晩で慣れてみせる、って辺りはさすがロンメルトだ。
「そしてロンメルト様にはもう1つ」
え? なにそれズルい。ロンメルトだけ二つあるのかよ。
ガガンがもう1つの木箱を開く。
鎧?
「頼まれていた身体補助鎧が完成しました」




