よっ、ひさしぶり
なんか閲覧数おかしいと思ったら投稿できてなかった・・・
ちゃんと明日も更新します
「あっちぃ……」
「言わないでくれ、余計に暑く感じる……」
「そなたらはまで良い。余の鎧が、鎧がぁ……」
やばいな、ロンメルトの鎧が熱くなりすぎて、あいつの周りだけ蜃気楼ができてる。
「ああ、悠斗君! オル君がっ--」
「オル君! しっかりするんだ、オルくーーーーん!!?」
現在地、89階。フィールドは火山。
「ああ、くそ。帰りたい。心の底から帰りたい……」
ラストスパートということで一気にボスの前まで行こうと決めて踏み込んだ81階。
扉を開けた途端に吹き込んできた熱風と、遠くで噴火した火山に心が折れそうになったのは、今から10時間も前の話だ。
昼食がてら一度町に戻り、ガーランド袋に入る限りの水を詰め込んだ俺達は再度81階に挑んだ。
それから一度も町には戻っていない。
思った以上に複雑な道にてこずり、外ではとっくに夜が更けて眠りにつく時間だっていうのに、だ。
なんで帰らないのかって? 一度でも町に戻ったら、二度とここに戻ってこれない。戻る勇気が出てこない確信があるからだよ!
暑いんだ。暑すぎるんだよコンチクショウ!
暑いといえば砂漠地帯も暑かったが、比較にもならない。だって足下で溶岩がボコボコいってるんだぞ。砂漠はすぐに水が飲みたくなる暑さだが、火山は常に頭から水を被っていたい暑さだ。こんなもの、人間が踏み入っていい場所じゃない。
町に戻って、涼しい夜風にあたり、おいしいご飯とキンキンに冷えた水を飲んで、ぐっすり眠って……ダメだ、絶対にもう一度火山に行こうとは思えない。
リリアが待っていると理解した上で、少なくともすぐには戻れない自信があった。
「コ、コトネの魔法が無ければ死んでいただろう……」
この階層は琴音が大活躍だった。なんたって魔力のある限り水が出し放題だからな。
元が魔力だからか喉を潤すことはできなかったけど、ジョウロから降り注ぐ水は名前の通り、天の恵みだった。
いかんせん範囲が狭いために、場所を取り合って仲間割れが起こりそうになったけどな。
「だが、ようやくである。ふはは、ようやく終わりが見えてきた!」
そうだ、次はボスの階層。やっとこの灼熱の迷宮からおさらばなのだ。別れ道で行き止まりを選んでしまい、何度打ちひしがれたことか。
水の補給のためにも町に戻りたい、そしてそのまま宿まで戻りたいと叫ぶ心を抑えるのに、どれほど苦労したことか。
「ううう帰りたいよう……」
「ああ、肌が痛い……」
女性陣は現在適当な布を頭からかぶって、マスクを装着している。よけい暑いだろうと思うんだが、無いと肌や髪が焼けるから必要なんだそうだ。
実際俺とユリウスとロンメルトは、チリチリパーマみたいになっている。まるで理科の実験で使ったスチールウールみたいなんだが、これ直るのか? ユリウスの尻尾なんて、もうなんの動物のものか分からなくなってるんだが。
「王様が心の支えだよ」
「ふ、はは。敬うがよい」
どんなに暑くても、となりに鉄板焼きにされてる人間がいると思えば頑張れた。一応、直接肌が鎧に触れないように皮布を挟んでるみたいだけど。
「ホントに、よく鎧なんて着たまま来れたよねぇロン君」
「まったくだ。頑なに脱ごうとしなかったからな、恐れ入るよ」
「ふははっ、王たる者、いついかなる時も威厳が大切なのだ!」
いやほんと、素直に尊敬する。
時々ジュッって音と悲鳴が聞こえてきてたからな。威厳とやらの為だけに、よくここまで貫いたよ。
「だがユウトよ、そちら大概にも暑そうではないか」
「鉄板よりは100倍マシだっての」
俺が背負ってるユリウスのことだろ? たしかに背中に毛皮は暑いけど、鉄板とは比べるまでもないだろう。
さっきまで頑張って歩いていたけど、とうとう不貞腐れてしまったので今は俺が運んでいる。子供に無理をさせて心苦しい限りだ。多少暑かろうとおんぶくらい、いくらでもする。
お友達の餓獣達を呼ぼうとしたみたいだけど、着信拒否されたみたいだしさ。拒否権あるんだな。
「キャシャーーー」
溶岩溜まりから魚のような形をした餓獣が飛び出した。魚なのにヨダレってどうなってるんだ。
それにしても馬鹿な魚だ。
ストレスが極限まで高まった集団に喧嘩を売るなんて。しかも涼しげに溶岩の中を泳ぎやがって、ああ憎たらしい。くっそ、ぶっ殺してやる!
「余の道を阻むか、魚ぁーーー!!!」
「ええい、うっとおしい!」
「邪魔ぁー!」
「焼き魚にしてやるよぉぉ!!」
ボッコボコにして溶岩の海に捨てた。
いやもう素材とかどうでもいいから。そんな時間があったら一歩でも進むから。
しかし今ので無駄に体力を使った。
喉が余計に渇いた気がして水を飲もうとしたんだが、はて? 水筒が軽い。
「やばいやばいやばい、水が無くなった……」
ていうかユリウスが飲み干していた。
「私ももうほとんど残っていない」
「余は既に飲み干しておるわ!」
「私もぉー……」
もう本当に餓獣とかどうでもいい。環境が最大の敵だ。この敵が一番強い。この塔で今が一番、死を予感させてくる。
本当にマズイ。頭がくらくらしてきた。
「ふは、ふははは。幻覚まで見えてきおったわ。あれはきっと天国への階段に相違ない」
「ホントだぁーあはは……」
そっかぁ、階段か。階段階段……。
出口じゃないかっ!!!!
「うおおおおおお! 出口ぃーー!!」
「やったぁ! やったよぉぉぉーー!!!」
「ふぅーはははははあははああああああ」
「死ぬかと思った。本当に死ぬかと思ったぁぁ! アインソフゥーー!」
なんの面白みも無い石の階段が神々しく見える!
駆け寄りたいけど、本気で体力が残っていないからゆっくり歩いて、歩いて……ああ、手の届くところに階段様がっ! 頬ずりしてあげよ--アッツ!!!?
頬の熱さに正気に戻った。何やってたんだ、俺は。
「大丈夫か、みんな」
「あ、ああ。少し我を忘れてしまったようだ」
琴音は感動で泣き、ロンメルトは転げまわっていた。転がるほど嬉しいのかと思ったら、階段しか見てなかったせいで溶岩をちょっと踏んだらしく、熱がってただけだった。
「さて、さっさと町に戻りたいところだけど……」
階段を登った先にはボス部屋の扉と、転移ポータル。
迷わずポータルに飛びつきたい衝動を抑えて、扉を睨む。
「ちょっとだけ、ちょっとだけドラゴン見てっていいかな? な?」
「えー!? やだ! 私、先に帰る!」
「すまない、ユウト」
「余も、もう限界だ……リスの子も預かろう」
置いていかれた。
鉄板焼き男の肩に担がれたユリウスが声にならない悲鳴をあげていたけど大丈夫かな?
「ちぇー、まぁしょうがないか」
俺もドラゴンが居なければとっくに帰ってるだろうし。
取っ手を掴む。
もしかしたらめちゃくちゃ熱いんじゃないかと警戒していたけど、そこは謎の親切設計で大丈夫だった。
「よっ、ひさしぶり」
扉の先は、溶岩に囲まれて円形の足場があるだけの地形だった。
そしてその中央には、あの洞窟で見た灼熱のドラゴン……アッドアグニが玉座に座す王者のごとく控えている。
地の底から響くような唸り声。そうだよ、俺はお前の敵だ。
「明日はゆっくり休んで、明後日またここに来るよ」
アッドアグニの奥には階段がある。
あの先にリリアがいるのか。あるいはトラップの転移はアッドアグニだけを運び、あの洞窟に屍を晒しているのか。
いや、信じよう。リリアはあの先にいる。
コイツを倒せば、また会える。
「明後日、お前を倒しに来る」
「ぐるる……」
いつでもかかってくるがいい、と言ってるってことにしとこう。
重低音を残し、扉を閉める。
さ、早く帰って水を飲むぞ!