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そもそも出口が無いってパターンだったりして

「こ、こんなの相手してられるかっ。逃げるぞ!」

「だがどうやって!? 道を塞がれているのだぞ!?」


 通路はゴーレムに埋め尽くされて、割り込む隙間も存在しない。あそこに飛び込めるのはバーゲンのオバサンくらいのものだ。

 だが通路全てがみっちりと埋め尽くされているわけじゃない。


「琴音の魔法で全員の身体能力を強化して、あいつらの頭の上を渡る!」


 ゴーレム達は大きいが、天井に頭が着くほどじゃないからな。

 みんなが「げっ」って顔になった。気持ちはわかるけど、他に通れそうな隙間なんて無いんだから仕方ないだろ。


「みんな集まって!!」


 琴音がジョウロの水を撒く。毎回だけど、これ濡れないようにできないんだろうか。


「ワンコに乗って、そこからゴーレムの上に飛び移ろう? ユリウス、頼んでみてくれ」


 しょうがないなぁ、といった様子でツヴァイリングヴォルフが伏せの体勢になってくれたので、急いでその背中に登っていった。もうゴーレムはすぐそこまで迫っている。

 しかしいくらデカいとはいえ、5人も乗れば手狭だな。ワンコもちょっとプルプルしている。この鎧男が一番の原因だろう。


「よし、突撃」

「くぅん……」


 ものすごく不服そうにデトラが鳴いた。


「(ぺしぺし、ぴしっ)」

「アオオオーーン!」


 ユリウスが撫でるように鼻先を叩き、ゴーレムの群れを指差すと雄叫びを上げて突撃するツヴァイリングヴォルフ。ああそうかい、ご主人様にしか従わないんだな。


「ひゃああ!?」


 ツヴァイリングヴォルフがゴーレムに体当たりをかました衝撃に琴音が縮こまった。ええい、世話の焼ける。


「ほら、飛び移るぞ!!」


 ロンメルトとリゼットは既に飛び移り、ゴーレムの上を器用に渡って行っている。

 仕方ないので琴音を小脇に抱え、ユリウスと一緒に飛び移った。同時にユリウスがツヴァイリングヴォルフを本に戻す。おつかれさん。


「おっとと」


 グラグラ揺れるゴーレムの上は不安定だけど、動きも悪ければ頭も悪いゴーレム達は特に何をしてくるでもなく俺達を見送った。

 というか、ぎゅうぎゅうに詰まりすぎて捕まえようにも腕を動かせないだけか。


「おおい、こっちである! 余についてまいれ!!」

「急げ! ユウト、ユリウス!!」


 先に降りると追いかけられるからか、ロンメルトとリゼットが速度を落として待っていた。その先にゴーレムがいない通路が見えている。


「おまたせ! よし、降りたらゴーレムは無視して出口を探すぞ!」

「それが良かろう!!」


 揺れない足場って素晴らしい。

 地面に降りた途端、ゴーレム達が向きを反転して追って来る。が、邪魔さえなければ追いつかれる心配は無い。


「こっからは自分で走れよ?」

「うん、ありがと」


 琴音を降ろして走り出す。

 ゴーレムの上でもそうだったけど、意外にユリウスが一番速い。さすがリス、尻尾が丸まってるヒマも無いすばしっこさだ。


「でっぐっち、でっぐっち」

「歌うな! 一番体力ないんだから!!」

「いざとなったらワンちゃん出してもらって乗るもん」


 無駄に「いざ」を早めるなって話だよ!

 なにせこの迷路、階段なんかもあって今までの階層とは段違いに複雑だ。出口がそう簡単に見つかるとは思えない。

 おまけに走り抜けた通路からも、次々と新しいゴーレムが生まれていて、足を止めた途端に囲まれてしまいそうだから休むこともできない。


「あ、でもね! 私、通ったところに種を撒いてきてるんだよ? 目印は迷宮の基本だよねぇ」


 ほめてほめてーと自慢げに語る琴音に、俺はなるほどと納得していた。


「さっきからちょくちょく生えてる不自然な植物はそれか」

「あれぇぇぇえぇえぇぇぇぇ!!!?」


 ってことは同じ道を走ってるってことになるな。

 案の定、通路の先の方で俺達を追っていたゴーレム達の姿が見えた。一周回って追いついてしまったみたいだ。


「つまりさっきは真っ直ぐ進んだってことだな。じゃあそこ曲がってみよう」


 直進の通路に俺達を追うゴーレムがいるってことは、そういうことだろ。


「うむ、草が消えたのである」

「ほ、ほら、役に立ってる!!」

「ああうん、立ってる立ってる。えらいえらい」

「なんか投げやりだよぉ!」


 そんな悠長なことやってる場合じゃないし。


「待てユウト! あれを!!」


 リゼットの指差す先には、見覚えのある白骨。


「まじか!?」


 全然違う方向に走っていたはずなのに、どうなってるんだ!?

 このまま進んでも、結局さっきの道に出ることは分かりきっているし……どうすればいいんだ。出口が見つかる気がしない。


「そもそも出口が無いってパターンだったりして」

「不吉な事を言わないでくれコトネ!? きっとどこかにあるはずだ!」


 さすがに無いってことはないと思いたいけど、階段も登ってるのに元の位置に戻るのは理解できない。まっとうな迷路じゃない可能性を考えるべきか。


「道が変化していたり、隠されていたりするのかもしれないな」

「なるほど、抜け道であるな!? ここかぁ! それともここかああ!!」


 ロンメルトが大剣で迷路の壁を殴りだした。そんな都合よく見つかれば苦労はない。


「うわああん、ゴーレムが追いついてきたよぉー!!」

「くっ、また上を抜けるか!?」


 ……なんかさっきよりゴーレムでかくなってない?

 具体的に言うと、天井すれすれに頭があって通り抜けられそうにないくらい。


「ぬ、抜け道ー! 抜け道ぃーーー!!!」


 錯乱した琴音が必死に壁を叩き始めた。リゼットはさすがに冷静……と思いきや、こっそり槍で壁を小突いていた。探すのかよ。


「ふはははは! だんだん楽しくなってきおったわー!」


 変なテンションになったロンメルトが更に壁を殴る。土木工事が似合う王子様ってどうよ?


「ん?」


 今、ロンメルトが壁を殴った瞬間、ほんの一瞬だけどゴーレムの動きが鈍ったように見えたけど……気のせいか?


「みんな、どこでもいいから思いっ切り壁を攻撃してみてくれ」


 どうせ打つ手が無いなら試してみよう。

 せーのでロンメルトが大剣を振り下ろし、リゼットが電撃を放ち、ユリウスが再び呼び出したワンコに炎と冷気を吐かせる。琴音も復活の人参戦士に壁を殴らせた。殴った腕が折れてるぞ?


「あれ? ゴーレムが止まったよ?」

「おおお! って、すぐに動きだしたではないかー!! ええい、何度でも殴ってくれるっ!!」


 ロンメルトがガツガツと壁を殴る度にゴーレムの動きが少し止まる。その様はまるで、痛みで硬直しているようにも見える。


 なにかが浮かびそうな感覚に、今までの情報を整理する。


 ボスの広間ではなく迷宮だったこと。

 明らかに今までとは違う作りの道。

 壁から無限に生まれるゴーレム。

 変化しているとしか思えない、出口の無い迷路。

 思考する脳なんて無いのに、俺達の策を封じるように変わったゴーレムの大きさ。

 壁を攻撃すると止まるゴーレムの動き。


 そして使いきった感覚が無かったのに、使えなかった地形操作。


「ジル!!」

「ピイ!!」


 ここまで揃えば、答えは見えたも同然だ。


「この迷宮を食え!!」


 これがただの石の壁なら、なんの変化も無いだろう。

 だけど、俺の想像通りなら--


「ゴーレムが崩れたぞ!!」

「やっぱりな。よし、ジル!!」


 ジルが一鳴きすると、ぼこぼことゴーレムが生み出され、オレ・・の意志に従って動き出した。それが意味することは一つだ。


「これは迷宮じゃない! 迷宮の形をした餓獣だ!!」


 そして能力はゴーレム作成。その力をジルに食われた今、こいつは何の力も無い壊されるのを待つだけの無機物だ。


 殴りまくれ、俺のゴーレム! 死ぬまで壊してやるのだ!!








「まさかこんな餓獣がいるとは……」

「うむ、余も聞いたことすらなかったわ」


 迷宮が砂のように崩れて消えた後、俺達はこれまでも見てきたボスの広間に立っていた。

 なにも特別なことなんて無かったのだ。ちゃんと広間があって、ボスがいた。ただ、そのボスの腹の中に閉じ込められていたということが普通じゃなかったけどな。


「お、地形操作できた」


 やっぱり使い切ってなかったな。生物の体内であって、地面じゃないから使えなかったってわけだ。


「ともあれ、これで80階もクリアだな」


 俺の目の前には81階へと繋がる階段がある。

 あと10階だ。なんだかんだ言って、ボスより強い餓獣は次のボスまで出てこない。リリアの待つ91階まで、俺達の道を塞ぐものはただ1つ。


「あとは、アッドアグニだけだ」



 ゆっくりと階段を登る。

 待ってろよリリア、お前には絶対に言わなければならない事があるんだからな!

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