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妹みたいな感覚かな

 新パーティでの攻略開始から、早くも10日が過ぎた。

 最近、町を歩いていると周りから視線を感じることが多い。自意識過剰とかではなく、実際俺達のパーティは迷宮都市シンアルの話題の中心にいた。


 それは5日前のことだ。リリアと共に到達した53階を越え、俺達は60階に足を踏み入れたのだ。

 そして市場に出した素材と、同時に大声で自慢するロンメルトによってそれは周知の事となった。となると当然「こいつら何者なんだ」となるわけだ。


 ロンメルトが王族だという事実は完璧に隠蔽されているのか、はたまた最初から彼の妄想だったのか、謎の凄腕戦士として名を馳せた。

 もともと有名だったリゼットは竜無しでも強いのかと更に武勇を広めている。

 そして俺と琴音はというと、尊敬の視線半分、うさんくさそうな視線がもう半分といった感じだった。


「おい、あいつだろ。セレフォルン王都を襲った、あのアガレスロックを倒したヤツってのは」

「ハッタリに決まってんだろ。アガレスロックつったら伝説の餓獣じゃねえか。そんなもん人間に倒せるわけねーだろ」

「だよなぁ。もっとマシなウソは思い付かなかったのかねぇ」

「待てよ、俺のダチが王都に行ってたけど、マジだって言ってたぜ?」

「ばーか、本当にアガレスロックが出たなら、なんでそのダチは生きてんだっつーの」

「だから……倒したんだろ?」

「だから無理だっての」


 とまあ……そんな感じだ。

 何人か、あの時セレフォルン王都にいた討伐者がシンアルに来て噂を流したみたいだけど、人数が少なすぎて与太話の域を出ていない。それにオリジンだという話は戒厳令が敷かれていたんだけど、シンアルに来た連中は意外にも律儀に黙っているらしく、噂にはなっていなかった。なっても誰も信じないだろうけどね。


 そんなわけで俺と琴音に対する見解は、ハッタリ野郎と英雄とで二分されている。今の所ハッタリ派が優勢だ。


「ガッガーン、できてるかぁ?」


 そんな噂話を耳の端っこで聞きながらやって来たのはガガンの鍛冶場、その名も「浪漫工房」。このあいだ看板が完成して、今は店の前に掲げられている。


「あれ? 1人なんて珍しいですね?」

「今日はお休み。みんな好き勝手ぶらついてるよ。ってかオル君いるから1人じゃないし」

「ぎゃう」

「おっと、すみません」


 琴音は出かけずに宿屋の家庭菜園に水をやってたけどな。なにが楽しいのか俺にはさっぱり解らないけど、おかげで俺達の食事が少し豪勢になった。


「ずっと休みなく迷宮に行ってましたからね」

「ああ、昨日とうとう69階に到達したからな。ボスの前に一回しっかり体を休めようってことになったんだ」

「もうですか!? さすがですね」


 なんだかんだ50階までは1人でも行ける実力があるメンバーだからな。ロンメルト以外。そんな4人が組んだんだ、そう難しい話じゃない。チームワークの方も、随分まとまってきている。


「でもここからはAランクの餓獣がウジャウジャ出てくるから、一筋縄じゃいかないだろうな」

「そうですね。大ケガすることもあるかもしれませんし」


 そうなんだよ。死ぬのは勿論のこと、ケガでも相当怖いんだ。なんたって回復魔法なんて便利なものは無いからな。リリアがいればケガの時間を早めて治癒促進なんてこともできたんだろうけど、それは無いものねだりってものだ。

 焦って下手こくことは避けたいけど、リリアの食糧事情がどうなってるのか分からない以上、ある程度は急がないといけない。大怪我して何週間、何か月と休むことになるのは相当にマズイ。


「本当に気を付けてくださいよ?」

「おー。で、例の物は?」

「できてますよ」


 よしよし。


「みぎゃ?」


 受け取ったものをオル君に装着。す、素晴らしい。


「最高だ。あ、いくらになる? これ武器じゃないし払うよ」

「いいですよ。むしろ素材をいただいてる分、僕が払わなきゃいけないんですよ?」

「でもぶっちゃけ金には困ってないしなぁ」


 俺達のパーティで得た素材は、まずガガンの所に持っていって使えるものを見つくろい、使わなかった分を市場に出して山分けしている。それでも1人頭の1日の収入は2万リオル。日本円にして10万円だ。毎日頑張れば月収300万とか、働くのが馬鹿馬鹿しくなってくるね。いや、これが仕事なんだけどさ。

 普通ならそこから装備の分マイナスされるんだろうけど、ガガンがどんどん新しい武器防具を作ってくれるからそれも無い。


 でもってガガンの方も潤沢な上層素材で、変な機能こそ付いているけど高性能な武器を作ってガッポリ稼いでいるようだ。家主さんもウハウハだな。


「少なくとも今回のお代はいりませんよ。簡単に作れましたし」

「そうか? いくら払っても惜しくない出来だけどな」

「でもそれ意味あるんですか?」


 そう言ってガガンがオル君を指差した。差されたオル君はというと背中が気になって仕方ないようだ。


「かっこいいじゃん?」

「作ってる時点で意味ないのは分かってましたけどね」

「ほらオル君、鏡を見てみなよ。ついにドラゴンになったんだよ」

「みぎゃっ!?」

「そんな効果はありませんよっ」


 鏡を見て驚いた勢いで、オル君の背中の羽が揺れる。

 カチューシャの要領で装着されたドラゴンウイングが最高にかっこいいよオル君!


「嫌がってません?」

「そんなことないよなぁ?」

「みぎゃ……」


 今やトカゲだっておしゃれする時代なんだよ。ちょっと俺の趣味に偏った感は否めないけど。


「あ、そうだ。新しい武器を作ったんで、皆さんに渡しておいてください」

「変な機能は?」

「ちょっとだけです」


 ちょっと付いてるのか。

 渡されたのは長剣、大剣、槍を各1本ずつだ。ううん、収納はできても重いんだよな。今日はみんなバラバラに行動してるし……まあ散歩がてら探してみるか。

 それぞれの説明を受けながらガーランド袋に放り込む。大剣重いなぁ。


「同志ユートの剣は、対アッドアグニ用の試作品です。それはまだ、ただの頑丈なだけの剣ですけど完成品はすごい……予定です。それでも切れ味は前のよりすごいですよ?」

「そっか。期待しとく」

「はい」


 少し刃を見てみると、黒っぽい重量感のある輝きが見えた。アッドアグニは溶岩そのものみたいなものだから、普通の金属じゃ斬る前に溶けると予想して熱に強い剣を頼んでいるのだ。もちろん槍と大剣も。





 さて預かり物……特に大剣をさっさと渡してしまいたいんだけど、ロンメルトはどこにいるだろうか。

 最有力候補としてはギルドの訓練所かな。毎日訓練してきたって話だから休みの今日も訓練している可能性が高い。他は素材マーケットか職人街で鎧を見てるかってとこか。

 とりあえず近いところから回ってみよう。


「うーん、悩ましい」


 と思っていたらリゼットの方を先に見つけてしまった。職人街の一角に建つファンシーな店の前で何やら苦悩の表情を浮かべている。


「何を悩んでるんだ?」

「いやな、今夜抱いて寝るヌイグルミを買いに来たのだが……こちらのクマは抱き心地が良さそうだが、この猫の愛らしさも捨てがたいのだ」

「そりゃ、クマじゃないか? でっかいし、すんごいフワフワしてるし」

「そう、だな! うん、クマにし……ひやああああ!!?」


 なんかすごいビックリされた。


「な、なぜここに!!」

「え? ガガンの所に寄った帰りだし、変じゃないだろ?」

「わ、私がヌイグルミを買うのは変だとでも言うのか!?」


 そんなこと言ってないし。


「19歳にもなってヌイグルミを抱いて寝るのは変だと思っているのだろう!!?」

「別に年齢は関係ないだろ。っていうか身近に木の実を抱いて寝るやつがいるから、むしろ正常だと思うぞ」

「……それはコトネか?」

「巨大なピーナッツみたいな木の実がお気に入りなんだとさ」

「比較対象がソレというのが少し引っかかるが……そうか、すまない取り乱した」


 申し訳なさそうにペコリと頭を下げて、クマをカウンターに持って行った。あ、買うのか。


「ふっ、だが似合わないだろう? いい大人の、それも騎士がク……クマのヌイグルミだなんて」

「いや全然? この世界の常識は知らないけど、別に普通じゃないかな? それに今日は騎士っぽい恰好でもないし」


 さすがに休日にまで装備を着けることはなく、今日のリゼットはシンプルなワンピースにアクセで大きいベルトを巻いた服装で、ごく普通の町娘のようだ。小わきに抱えたクマさんが微笑ましい。

 装備と一緒に騎士モードも解除されているのか、いつもの凛としたオーラのような物も感じない。


「そ、そうか? そうか、ならいいんだ。その……似合うだろうか?」

「あー……うん、似合ってる。すごくその……いいと思う?」


 すごくかわいい、とまで言えれば満点なんだろうけど、ちょっとまだ経験値が足りないというか。その技を覚えるまで、まだあとレベル40くらい必要な気がする。


「ふふ、慣れない事を言わせてしまったな。だがその様子では、コトネの事もあまり褒めてやっていないんじゃないか?」

「へ? ああ、まあそうかな?」

「……下世話な話だが、君達は同年代の異性にしては恋の気配を感じさせないな。共に世界を渡り困難を共有するなんて、物語ならば結ばれてハッピーエンドを迎えそうな関係だというのに」


 言われてみればそうかもしれない。基本的に一緒にいるし。

 うーん、顔はかわいいよな。でも最初はドキッとすることも多かったけど、最近は全くそういったことは無い。なんでだろ。


「変な行動が多いから、かな?」

「ユウト殿はあまりそういったことは気にしないタイプだと思っていたが?」

「そうだな。うん、気にはしないかな。ツッコミはするけど。なんて言ったらいいんだろ……妹みたいな感覚かな?」


 言って、しっくりきた。そう、妹みたいな感じだ。妹とかいないけど、従妹いとこの女の子の面倒を見ることは何度かあった。思い返してみると、それとよく似た感覚だ。


「うん、やっぱ妹だな。異性どうこう以前に、身内って感覚が強い気がする。故郷が同じだし、昔に会ったことがあるからかな」

「なるほど。そういえば兄妹のようだな、君らは」


 ふう、納得のいく答えが出て良かった。なんでそんな話になったんだっけ?


「ならばユウト。私とデートをしよう」

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