ムズムズすると言いますか
「ま、待て待て! ガルディアス皇帝には娘しかいないはずだろう!?」
んんん? 面白剣士だと思ったら立派剣士で王子様、と思ったらやっぱ違う? 訳が分からなくなってきたぞ?
「であろうな。対外的にはそうなっておる。なぜなら余は、魔力が無いと知れた時点で王家を追放されておるからな」
そういうことか。そういえばセレフォルン王国でも聞いたことがあったっけ、王様っていうのは国内でもっとも濃くオリジンの血を残している人間にこそ相応しいとか何とか。
でも、血を濃く残すために王家は魔力の多い人間と婚姻を結んできているという話だったのに、なんでまた血乏世代が産まれてしまったのか。浮気ですか王様? いや、王様が魔力持ってるんだから多少は受け継ぐだろうし、単純に運が悪かっただけかな。なんにせよ気軽に踏み入らないほうが良さそうだ。
「以来、余は王の側近であるマクリル・アレクサンドルの世話になっておる。だが王族を追放されたとて、王族の血が失せた訳ではないっ。我が身に脈々と流れるガルディアス王家1200年の血に誓って、余には臣民を守る義務があるのだ!!」
実は大物なんじゃないかとは思っていたけど、想像の斜め上を行く大物だった。
「余が血乏世代として生まれたのは、これからの時代に備えよとの祖霊の思し召しに相違ない! ふはははは!!」
自分で弱いって言い切ってるのに、なんて迷いが無いんだろう。10何年鍛錬して弱ければ、諦めもつきそうなものなのに。
あ。俺、人のこと言えないや。
10年間、ドラゴンなんていないと言われ続けても探すことをやめなかったんだからな。まあ俺の場合は実際に見たことがあったから頑張れたんだけど、ロンメルトは確証もなく頑張り続けてこれたんだから、ずっとスゴイ。
「じゃあ、ロン君から戦争しないでってお願いもできないのかなぁ?」
「む? セレフォルンの手の者だったか」
「手の者じゃないけど、お世話になったんだよぉ」
「そうであったか。すまんが、余には発言権など皆無なのだ。」
「ううん、ごめんね無理言っちゃって」
あわよくば、とは思うよな。曲がりなりにも王族なんだし、本人も王族たらんと努力してるもんだから尚更。
「父、ウルスラグナは闘争心の塊のような男なのだ。重臣全員が反対してもやめはしないであろう」
まじか。いい人だとは別に思ってなかったけど、想像以上におっかない人っぽいな。戦争万歳とか、ミサイル飛ばしてくる隣国を想像させられる。何が怖いって、その国がこの世界で一番大きくて強いってことだ。鐵のオリジン裏切らないかな。
あと可能性があるとすれば--
「娘に王位を譲ったりしそうか?」
「老人になっても譲らんな。男女一人ずつ産ませた時点で子を作るつもりも無くなったようであるから、おそらく余の妹が子を授かり成長するまでは在位し続けるつもりであろう」
さっさと引退すればいいのに、生涯現役とか言い張るタイプか。
残念だけど、これ以上この話を続けても、ロンメルトが申し訳なさそうな顔になるばかりで得られるものは無さそうだ。
それにこれだけ話し込んでても追加の希望者が来ない事だし、今日は打ち止めだな。
「よしっ、もう誰も来ないだろうし職人街に行こう!」
「職人街とな? 明日の準備でもするのかね?」
「いや、王様に会わせたい人がいるんだ」
俺が共感できたってことは、ガガンとも気が合うに違いない。どんな戦い方をするのかは知らないけど、剣を使うなら縁があって損することも無いだろう。
「王、だと? ふ、ふはは、よせよせ余は……フハハハハハハハ」
嬉しかったのか。
冗談で言ったんだけど、ずっと王族たらんと努力してきたんだもんな。俺で言うなら……ドラゴンマスター? やだ、恥ずかしい。
でも喜んでるみたいだし、ロンメルトの生き方は正直尊敬するし、このまま王様って呼んでやろう。
「おお!! デカい口を叩いてやがるって新入りを身に来たら、小僧共じゃねえか!」
「久しぶりなんだな」
「こっちに来てたでやんすか?」
なんか見覚えのある3人組がき」た。
「「「我ら、ドン、デン、ガッシ……どんでん返し三兄弟なり!!」」」
無視した。
リゼットとロンメルトが「いいの?」って感じで俺を見たけど、いいの。あれに関わると楽園でさえ地獄に早変わりしそうだし。
「あれ? 同志ユート? それに知らない人が増えてますね」
午前中に教わったガガンの鍛冶場を訪れると、ガガンはせっせと掃除をしていた。掃除、というか借りた機材に頬ずりしている感じだ。嬉しくて仕方ないって雰囲気がにじみ出ている。
「ああ。リゼットとロンメルト、あの後パーティメンバーなったんだ。これから世話になるかもしれないし、顔合わせしとこうかと思ってさ」
ちなみにガガンのことは、道すがら説明済みだ。
「そうだ、ガガン! 俺とうとうドラゴンに会えたんだよっ!!」
「ほ、ホントですか! おめでとうございます!! それに生きて帰ってこれるなんて流石ですね。あれ? でも、そういえばリリア様がいないようですけど……?」
「あいつはドラゴンから逃げる時に置いてきちゃってさぁ」
「ええええええええええ!?」
「あ、いや。たぶん生きてるぞ。ちゃんと迎えにいくし」
「一体なにが……」
まあその話はあとでゆっくりするとして。
「で、だ。とりあえず53階までの素材を持ってきた。かなりハイペースで登ることになるから、よろしく頼むよ」
ドサッと革袋を机に下ろす。空間属性の魔法士によっての作られるという見た目以上に中が広いという魔法の革袋だ。ガーランド袋と言われていて、予想通り黄昏のオリジンことフジワラさんのネーミングだった。
しかし重かったな。沢山入るのにかさ張らないってだけで、重さはそのままだからさ。空間魔法で作られているんだから、重量はまた別の話なんだろう。ネーミングよりそっちを手伝えなかったんだろうか、重力魔法のオリジンは。
「わかりました、全力を尽くします」
ガガンが力強く頷いてくれた。リゼットとロンメルトも上を目指すなら50階以降の素材での武器は必要になってくるだろうけど、二人にとってガガンは初対面の新米鍛冶師にすぎないから、とりあえずは俺の剣だ。
でも前衛が二人もいるなら必要ないかもしれないな。ま、それはロンメルトの実力を見てからか。
「ふっははは。腕前次第では余も依頼するやもしれぬ。その時はよろしく」
「私もだ。一応行きつけの鍛冶屋があるのだが……上層の素材を扱ったことはないだろうから、技術で勝る方に頼むことになる。不義理ではあるが、こちらも命がけだからな」
ぶっちゃけ俺もガガンの腕前とか知らないんだけどなっ。だって他の鍛冶師知らないし。
だけどロマンを追い求める人間は妥協が無いから、あんまり疑っていない。きっとリゼットやロンメルトも唸らせる武器を作ってくれるに違いない。
「ううう、素材を見てたら試したくなっちゃいました。すみません、僕ちょっと家主さんに頼んでさっそく鍛冶場を使わせてもらおうと思います」
「え? 別に急かしはしないぞ?」
「いえ、見たことのない素材を前にして大人しくしてられないと言いますか……ムズムズすると言いますか」
「そ、そうか」
なにかの禁断症状じゃないだろうな。
インスピレーションを受けたアーティスト的な衝動に駆られたらしいガガンが鍛冶場を飛び出していく。家主さんの所に向かったんだろう。素材持ってくるの早すぎたかもしれない。
「仕方あるまい。余とて、新たな剣を受け取って試し斬りせずにはおれんだろう」
そういう心境なの?
新しいオモチャをもらった子供か。うん、出て行く直前のガガンは確かにそんな顔だった。若干、薬のきれた危ない人のオーラもあったように思えるけど、気のせいだろう。
「ここにいたら邪魔になっちゃうね」
「だな。今日はもう解散でいいだろ。じゃあ明日……そうだな、とりあえず王様の腕試しもあるし、5階辺りまで行ってみるか」
1階だとさすがに敵が弱すぎるだろうしな。言ってて1階でも無理な予感がしてきたけど。
「朝の8時くらいに塔の前に集まろう。それでいいよな?」
「了解した」
「うむ、余に異論は無い」
待ってろよリリア。すぐ迎えに行くから、ちゃんと生きててくれ。