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宝箱とかあるんじゃないかなぁ

 リゼットを加え探索は順調を極めた。


「リゼットさん! サポートかけます!!」

「了解した」


 琴音の魔法を受けたリゼットが鎌首を持ち上げて威嚇する大蛇に飛びかかる。重力を無視しているかのような動きは、雷属性と知らなければ重力属性だと思ってしまいそうなほどだ。

 そしてただでさえ圧倒的な技量で振るわれた槍術が、琴音の魔法によって極限まで高められ、いかにも堅そうな大蛇の鱗を呆気なく貫いた。


「ギッ--」


 大蛇の体が一瞬だが痙攣する。リゼットの話では、あの槍に電撃を貯めて使うことで魔力を節約しているらしく、当たれば当然だけど感電する。どれくらいの電力なのか気にはなるけど、触る勇気は無い。


「琴音殿! 狙われているぞ!!」

「わっ!?」


 さすがは蛇。電気で多少動きが鈍っているけど、その生命力はまるで衰えていない。だけど残念ながら、こっちは4人がかりなんだよ。


「防御だジル!」


 アガレスロックの地形操作で隆起りゅうきした地面が琴音を打ちのめそうとしていた大蛇の尾を受け止める。

 表面を多少削ったようだけど、その程度では雄大な大地はビクともしない。こうして能力を借りるたびにアガレスロックの怪物ぶりを思い出すな。


「こっちは大丈夫だから、トドメを頼む」

「任せてくれ」


 大蛇が近づかせまいと毒を撒き散らすが、リゼットはやなぎのようにユラユラと躱していく。同じ人間のはずなのに、どうやってるのか理解できないんだが。

 

雷の道ラアドタリーク


 リゼットの槍が青白く光る。来た、リゼットの魔法だ。

 雷は高い場所や金属に落ちる。彼女の魔法はまさに雷そのもので、EXアーツから発した雷撃は術者から一番近い誘導物に落下する。

 敵味方関係無く。


「ひゃあああ。こ、怖いなぁもう」

「場所的に俺達には当たらないって解ってても怖いよな……」


 落雷を受けるのは一番近くにいて、かつ一番デカいあの蛇に決まってる。決まってるからリゼットは魔法を使った。わかってるよ。わかってるけど、すぐ近くに雷が落ちるっていうんだから怖いに決まってる。


 案の定、落雷を浴びた大蛇は全身から煙をあげてこんがり焼けていた。


「まだじゃぞ?」


 リリアの助言にリゼットが蛇の頭に槍を突き刺す。

 ビクンと体を揺らし、今度こそ死んだようだ。さすがにこの階層になると餓獣もなかなか死なないな。


「かか、今の餓獣はCランクでも上位の奴じゃ。それを安定して倒せるならば、もうBランク相手でも負けることは無いじゃろうな」

「私1人ならば死力を尽くして戦う相手だっただろう。琴音殿の魔法は素晴らしいな」


 え、俺は? と思ったけど、俺は防御しただけだったわ。リゼットが強すぎて出番が無い。

 現在地は53階。ここまで2階層登ってきたけど、リゼットが前衛で琴音がサポート。俺がその中間でちょろちょろしてるのが基本陣形になってしまった。

 おかしい。さっきまで主力だったはずなのに、いつの間にか居ても居なくてもいい子になってる。


「そろそろワシも戦線に入るとするかの。60階からはこの面子でも油断できんからのぅ」

「60階からはBランクの餓獣が出てくるんだったな?」

「うむ、フロア全てがBランクの巣というのは、中々に厄介じゃ。そろそろソヤツらに向けて4人での戦いに慣れていくべきじゃろう」


 Bランクというと、アガレスロックの眠っていた洞窟で戦ったオーガと同じか。俺が本気で魔法を打ち込んでも倒しきれなかったっけ。

 リリアは一度1人で突破している筈だけど、その様子から相当に苦戦したことが見受けられる。


「油断はできんが、油断さえ無ければ問題なく行けるわい」


 まあリリアは1人で80階近くまで登ったらしいから、そこまではある程度は確実に行ける。俺達はあと20階分の穴埋めをすればいいんだ。

 でも順当に行けば80階からはSランクの巣で、90階からはZランクの巣ってことになるんだよな……無理じゃなかろうか。こうなってくるとリリアの夢が正夢であってほしいな。90階以降が居住区なら、相手をするのはSランクまでだ。それなら不可能じゃない、と思う。たぶん。


「でもまだ半分なんでしょ? それも簡単な方の」

「俺達の実力もまだ半分も発揮していない……と信じよう」

「ぎゃう」


 オル君の声に俺とリリアは足を止めた。次いでリゼットも異変に気付いたのか周囲を警戒し始めたが、琴音はそのまま歩を進めている。なにやってんだ、コイツ。


「おい琴音、止まれ!」

「へ?」


 慌てて静止の声をかけたが、間に合わなかった。

 かすかに琴音の足下が光ったかと思うと、俺達の歩いている山道の先……切り立った坂道の上でガコンと何かの動く音が響いた。 

 全力で嫌な予感がする……。というか嫌な予感しかしない。


「えと、私のせい?」

「ばっか、今のオル君の鳴き声は相槌じゃなくて、罠だって言ってたんだよ!」

「そんなのわかんないよぉ!!?」


 でもリリアは気づいたぞ。自力かもしれないけど。


「さて、何が起こるのかのう」


 のんきに坂の上を見上げるリリア。一本道の坂って時点で何となく想像はついてるけどね。


「ひゃああああああああああ、岩が転がってきたぁぁ!!」

「いまさら慌てるほどの罠じゃないだろ」


 勢いよく転がってくる岩は直径10メートルほど。向かって左が壁、右が崖という道にピッタリサイズでありながら、よく崖から落っこちないもんだと感心させられる。ちゃんと計算して作ったんだな。


「しっかし古典的な罠だな」

「この罠を作ったのが事実、昔の人間なんじゃが」

「だからお前が言うな」

「あの……大丈夫なのか?」


 リゼットが不安がるのは仕方ないか。この人はまだ俺達の魔法を完全には把握してないもんな。


「大丈夫大丈夫。俺が地形操作で崖に落としてもいいし、琴音の魔法で操るって手もあるし」

「とりあえず止めておくのじゃ」


 リリアが杖を向けると、大岩がその場で動きを止めた。時間を止めたんだな。でも道が塞がってしまっている。

 ジルを呼び出して地形を操り、大岩を崖に向かって突き落とす。時間の止まっている物体は無敵状態で、どんな強力な魔法でも傷つけられないけど、動かすことはできるのだ。


「さすがはオリジンと第一期魔法士だな、見事なものだ」

「かか、そうは言うてもオリジンとお前さんとの違いは魔力の量だけじゃよ。規模の大きな魔法が使えるから強い餓獣の防御を貫き、数の暴力も押し返せるが、1対1なら大差ないぞい。人を殺すのに大量の魔力なんぞ必要ないからのう」


 本人を前に殺せるうんぬん言うかな、普通。


「実際、小僧とリゼットが戦えば小僧が負けるじゃろ」

「ぐ……」


 気にしないようにしていた事を。


「い、いやいや。ユウト殿の地形操作を、私では攻略できない。職業柄、もし戦うとしたらと考えたが、地面を操られては……」

「お前さんの魔法で牽制して、一気に間合いを詰めれば地形操作なんぞ使えんよ。そして接近戦で小僧はお前さんに手も足も出ん。ほれ、勝てるじゃろ?」


 くっそう、悔しいけどその通りだ。雷は喰らう訳にはいかないから絶対に防ぐ必要がある。そして防ごうとしてる時点で負けが確定するんだ。ずっこい。


「ええか、オリジンと戦う時は魔法の撃ちあいをしてはいかん。一気に近づくことで大規模魔法を封じて、仕留める! これでしまいじゃ!」

「なんで俺の殺し方をそんな熱心にレクチャーしてるんだよ!?」

「いやな、夜這い対策が必要かと」


 それができたら現代日本は童貞まみれになってないんだよ。こないだクラスの男子が二十歳前後の半分が童貞だと言ってたぞ。


「待ってくれリリア殿! ……現代の魔力低下問題を考えると受け入れた方がいいのではないだろうか?」

「む、確かにのぅ。ならば……」

「やめてえええ! 本人の前でそんな相談しないでええ!!」


 ゲラゲラと笑うリリアの姿が目に写る。このババア……男の子の純情をからかいやがって。


「ねーみんなぁ。こっち来てー!」


 遠くから琴音の声がする。いないと思ったら1人で先に坂を登っていたらしい。勝手に行動するのは危ないけど、今は助かった。まだナニか言おうとしているリリアを無視できる。


「ここ、ここ。多分さっきの岩があった所だったのかな。洞窟があるでしょ?」

「ふむ……以前来た時には無かったはずじゃ。あの岩が蓋になって隠れていたのじゃろう」


 そこにあったのはさっきの大岩がスッポリ収まりそうな洞窟の入り口だった。隠し通路か? でも気づかなかったリリアが上の階層に行けているってことは、進行には関係ない道だよな。


「宝箱とかあるんじゃないかなぁ!」


 お前の読んでた小説はどうだったか知らないけど、この迷宮は宝箱とか無いから。もう53階も進んで来たんだから気づいてるだろ。


「危険ではないだろうか? トカゲくんも怯えているようだが」

「オル君が? でも防御モードにはなってないから、嫌な予感止まりなんじゃないか?」


 本当にヤバい時は名前の通りアルマジロみたく丸まる筈だ。とはいえ道が繋がっていないだろう場所に危険を冒して入っていく必要は無い。

 だがしかし、だがしかしだ。隠し通路なんて見つけたら入ってみたくなるのも男の子の性じゃなかろうか!?


「この4人で対処できんことがこの階層で起こるとも思えんし、見るだけ見てみんかの?」

「賛成!」

「私もー! お宝お宝ぁ」


 だから無いって。


「なら私に否は無いさ。行こう」


 リゼットの賛同も得て、俺達は洞窟に足を踏み入れた。唯一オル君だけは反対するように震えていたが、ごめんな、多数決だから。



 洞窟は特に分かれ道もない一本道だった。どうした迷宮、それでいいのか迷宮。さっきの山道も一本道だったぞ迷宮。


「うーん、何にも無いね」

「まだ入口が見えてる位しか進んでないだろ」


 まさかもう飽きたんじゃないだろうな。


「心配せんでも、ここで行き止まりのようじゃよ」


 進むほどに広くなっていた洞窟は最終的に道幅が50メートル近くまで広がり、高さも同じか少し高いくらいになっていた。そしてその最奥は……何もない。

 アガレスロックのいた廃坑道もそんなノリだったな、と思って行き止まりの壁を見たけど、実はモンスターの顔でしたってパターンではないらしく普通の壁だ。試しに剣で削ってみたけど、やっぱり普通に岩だったから間違いない。


「なーんだ、つまなーい」

「ふふ、期待外れではあったな」


 ホントだよ。何もないなら、もう出よう。

 そう思って引き返そうとした時だった。足下が光り、巨大な魔法陣が浮かび上がる。


「こ、これは転移魔法のものじゃ!」

「マジか、どこかに飛ばされるのか!?」


 今まで琴音が散々引っかかってきた奴のデカい版か? 


「いや、これは……何かが転移されてくる・・・・・物じゃ!!」


 リリアの声を合図にするかのように、洞窟が光に包まれる。

 そして俺達の前にソレは姿を現した。


 

「ドラ……ゴン?」

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