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乗せてくれないドラゴンより、乗せてくれるドラゴン

「私も共に……?」

「うむ。一人でこんな所まで登ってきたというならば、何か相応の目的があって上を目指しておるのじゃろう」


 そうだな。俺だったらドラゴンを家に置いて遠くに出かけるなんて、お断りだ。ましてやオリジンでも魔女でもないのに1人でこんな階層まで登ってくるなんて、何か月もかかったに違いない。そして目的がまだ先の階層なら、更に数か月、数年。たどり着けずに終わっても何もおかしくない。ドラゴンと生活できる時間をそんなにも犠牲にするなんて、そうしなければ世界が滅びるくらいの理由がなければ絶対やらないね。


「私は、竜玉が欲しいのだ」

「なにその心躍る響きのアイテム」


 俺も欲しいんだけど。東洋龍が持ってる玉みたいな物? アクセサリとかにできるなら一生肌身離さないよ。


「原種、餓獣種問わず、長く生きた竜種の体内に生成される宝石のようなものじゃ。莫大なエネルギーを内包しておることから、各国の研究者がなんとか使えないものかと頭を悩ませておる代物じゃよ。もっとも、未だ何も発見されておらんから貴重なだけで無用の長物じゃがな」

「さすがに博識であられる。そう、その竜玉を探しているのだ」


 でも聞く限りでは役に立たないみたいだけどな。竜使いには使い道があるのか?


「アインソフが病気なのだ。行政府の禁書庫を調べて、治すには竜玉が必要だと知ってここに来た。どこにいるかも分からないまま世界中を探し回るより、この塔の上層を目指した方が早いと考えたのだ」

「なるほどのぅ。確かにここならば、ドラゴンがおるやもしれん。誰も到達できぬような階層ならば生きた年月も十分に竜玉が生成されているに足るじゃろう」


 リリアからも可能性を保証され、リゼットに喜色が浮かんだ。だがすぐに自嘲するような笑みに変わった。


「だが私はここが限界だったようだ。コトネ殿とユウト殿の助けが無ければ、私は先ほどの戦いで志半ばに死んでいただろう」


 こんな所でつまづいているようでは、古龍討伐など夢のまた夢だ。と下を向くリゼットの唇からは、一筋の赤い血が流れている。そんなにも悔しいなら、友達を助けられないのが辛いなら、素直に俺達を利用すればいいのに……本当にこの世界の人は清廉潔白な人が多い。

 一部例外はいるけどな。3馬鹿兄弟とか、どこぞの商人とか、まっくろくろすけとか。


「やれやれ。ワシがお前さんを誘ったのは、その話を聞く前じゃろうて。同情などではない。共に上を目指す力があるから誘ったのじゃ」

「しかし私は死ぬところだった」


 それはどうだろう。あそこが崖っぷちでなければ、最終的に勝っていたのはリゼットの方だと思っていたんだが。それに攻撃範囲の狭さから数の暴力に押されていたけど、1対1ならもっと上の階層でも通用しそうなくらい余裕を感じた。


「思い上がるでないわ。ワシですら70階以降は1人では難しいとオリジンに助けを求めたのじゃぞ? 本来この迷宮は5、6人で探索するものじゃというのに、1人でどこまで行けるつもりでおった?」


 リリアの言う通り、リゼットに足りないのは力ではなく、仲間だ。

 背中を預ける味方さえいれば、彼女単体の実力ならもっと上を目指せるはずなんだ。


「仕方がなかったのだ。ギルドで募集をしても、甘い汁を吸おうとする愚か者ばかりが寄って来る。生活するだけならば20階も登ればいい。本気で上を目指す者など、いなかった」

「それなら大丈夫だよ? 私達は一番上まで行く予定だし」

「そういうことじゃ。最上階まで行けば、ドラゴンの1匹くらい見つかるじゃろう。それとも町で待っておるか? 手に入ったならば、譲っても構わぬぞ?」


 リゼットは、葛藤しているようだった。

 友達を助けることを他人任せにできる人間とも思えないから、たぶん一緒に行動した場合のことを考えているんだろう。足手まといにならないか、とか。他人を巻き込んでいいのか、とか。


「いいの、だろうか。ドラゴンだぞ、最強の獣だ。貴方たちだけならば回避して進めるものを、私がいれば戦わなければならなくなるのだぞ」


 そのリゼットの言葉に、俺も琴音もリリアも、一瞬キョトンとなった。


「かっかかかかか! まったくいらん心配じゃな!」

「な、何故だ!? 戦う必要のない強敵を避けていくのは当たり前だろう!」

「それはそうじゃが……忘れとりゃせんか? あのドラゴン馬鹿の存在を」


 それは俺のことか?

 だが、ドラゴンを回避だって? 有り得ないだろ。竜玉とか関係なく、ドラゴンがいたら迷わず行くだろう!! 常識で考えればさぁ!


「は、はは。そうか、そうだったな」


 早くも俺という人間を理解してもらえたようで何よりだ。というか折角出会えたドラゴン仲間を手放す訳がないということにも気づいてほしいね。


「オルシエラを出発する時、仲間を求めたよ。同期の騎士や、故郷の顔見知りの討伐者に手伝って欲しいと頼んで回った。私とて、本当に1人でドラゴンを倒せるなんて思っていなかったのだ」


 思い出すのは、10年前のドラゴン。あんなもの、人間がどうにかできるものじゃない。ましてや一人でなんて、竜使いなら尚のこと身をもって知っていたはずだ。


「見ての通り、誰も助けてはくれなかった。それどころか、アインソフが死んだ後の死骸を売るかどうかと言ってくる始末だ。竜騎士などと呼ばれ、国の為に戦ってきても、ドラゴンはやはり害悪としか思われないのだな。アインソフが優しいのではなく、従えた私が優秀なのだとしか思ってもらえない」


 それで一人ぼっちで迷宮都市に来たのか。やむを得ないとはいえ、そんな信用ならない場所にアインソフを残して1人で。

 ……ホントに大丈夫か? 竜玉を手に入れて帰ったら素材にされていた、なんてことになったら発狂ものなんだが。慌ててる様子は無いし、そこまでは弱っていないのかな。


「さきほど言った通り、迷宮都市でも仲間を得られず、私は1人で塔を登った。ここに来るまでに何度も死にかけたし、何度も挫折しそうになったよ。たまに帰郷する度にどんどん弱っていくアインソフの姿に、私は、わたしはもう……諦めかけていたのだ」


 やがてリゼットの声に嗚咽が混ざる。もう、最初に凛々しさは欠片も感じない。そこにいるのは足掻いてもがいて、1人ぼっちでずっと頑張ってきた女の子だった。


「助けてくれるのか? ドラゴンなのに、助けるのを手伝ってくれるのか? 私はまだ、アインソフを諦めなくてもいいのか……?」

「助けるのはお前さんの仕事じゃよ。ワシらは道が同じゆえに共に行くだけじゃ。戦力として期待しとるぞ?」

「俺も元気なドラゴンに会いたいしな。背中に乗って空を飛びたいんだよ」

「ああ、元気になったら、アインソフに頼んでみよう」


 よっし、約束したぞ。絶対会いに行かないとな。


「あ、でもドラゴン助けるためにはドラゴン殺さないといけないのか……ぐむむ」

「でも迷宮にいるのは友達になれないドラゴンなんでしょ?」

「乗せてくれないドラゴンより、乗せてくれるドラゴンだよな。やっぱ」

「……必ず乗せてもらえるように交渉しよう」


 いやそんな不安そうな顔しなくても、乗せてくれなくたってアインソフを裏切ったりしないよ。


「では改めて挨拶させてもらおう。この度パーティに加入するリーゼトロメイア・ルッケンベルンだ。得意な武器は槍。属性は雷だ。私の目的は竜玉を手に入れることだが、最上階まで仲間の為にこの槍を振るうことをここに誓おう。以後、よろしく頼む」

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