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君はドラゴンが好きなのか

「りゅ、竜騎士!? じゃあ! じゃあドラゴンを連れてるのか!? どこどこどこ!!」

「ええい、落ち着かんか馬鹿者」

「す、すまない。アインソフは……ああ、私の友の名だ。彼はさすがに国境を越えられなくてな。オルシエラの自宅で待っていてもらっているのだ」


 なんだよぉ。いないのかよぉ。

 いやでもスゴイ。スゴイことを聞いてしまった。そうか、ドラゴンと友達になるのは不可能じゃないんだな。餓獣=敵なもんだから無理だと諦めかけていたけど、希望が生まれた。だって実践してみせた人が目の前にいるんだから!


「うう、羨ましいっ! サバ子、オルシエラに行くのと72階まで行くの、どっちが速いかな!?」

「国境なんぞ簡単に越えられる訳なかろう」


 アインソフを見に行くのはダメか。でもいつか見に行きたい。絶対に見に行きたいぞ。


「君はドラゴンが好きなのか?」

「好きさ! 愛してるさ!!」

「そ、そうか……」


 あ、しまった。引かれたかな? 気持ち悪い奴と思われたら、ドラゴン見せてもらえないかもしれない。


「そうか……ありがとう」

「ありがとう?」

「ああ。アインソフは家族だ。家族を褒められて嬉しくないはずが無いだろう?」


 家族……。


「いいなー、ああくそぉ羨ましい。なあ、どうすればドラゴンと仲良くなれるんだ?」


 ドラゴンのいる家庭だなんて、正に俺の夢そのものじゃないか。羨ましすぎて爆発しそうだ。朝起きて庭に出たらドラゴン……たまらん!


「うーむ、参考になるかは分からないが……。私の実家はごく普通の牧場を経営しているのだが、何をどう間違えたのか、カケドリの卵を孵化させたはずがドラゴンが産まれてしまってね」


 なんだそれ。紛れこんだにしても、何が起これば紛れこめるんだ?


「最初は処分しようとしていた父だったが、子供とはいえドラゴンだ。お金になると考え買い手を探したが、誰も買おうとしなかったらしくてな」

「そうじゃろうな。子供の鱗など柔らかくて使い物にならんし、牙など生えてもおるまい」

「その通り。それらが使い物になるまで育つ頃には、手も足も出ない怪物だ」


 いやそもそもドラゴンを売り買いしようっていうのが間違いだから。ドラゴンは愛でるものだから。でももしも万が一売りに出ていたら俺が買おう。借金してでも買うから、どっかの牧場がんばれ。


「そしてようやく父が諦めた時には、当時子供だった私とアインソフは仲良しになっていたという訳だ」

「孵化して最初に見たものを親だと思うっていうアレかなぁ?」


 刷り込みってやつか。


「いや、ドラゴンにそういった性質は無いのじゃ。よほどこの者と波長が合った、としか言いようが無いのう」

「ああ。私の話を聞いてドラゴンの卵を入手した貴族が何人かいたが、全員生まれたドラゴンに殺されたと聞いている。その度に貴族の親族が私のせいだと詰め寄ってくるのだから、たまったものではないよ」


 まあ濡れ衣だよな。

 でもそうかぁ。刷り込みじゃないなら、確実な方法なんてものは無いってことなのか。


「やっぱり餓獣と仲良くなんてできないのが普通なんだな……」

「うん? ドラゴンは餓獣とは限らないが?」

「え!?」

「ドラゴンの姿をした餓獣もいるが、本来のドラゴンは餓獣が出現する前より存在する原生種……普通の動物だ」


 そう言われれば、10年前に見たあのドラゴンは餓獣特有のヨダレを垂らしていなかったような。そうか、ウサギとウサギ型の餓獣が別にいるように、ドラゴンも餓獣とそうでないものがいるのか。なら、そっちとなら仲良くなれるのかもしれない。


「一応ゆうておくが、普通のドラゴンも凶暴じゃぞ? おまけに餓獣としてのドラゴンよりも遥かに強いのじゃ」


 ぐ、期待させておいて落とすとは。だがしかし、少なくとも餓獣じゃないというだけで可能性は跳ね上がった。あいつら人間と見るや、問答無用で飛びかかってくるからな。それに朝起きたら庭にドラゴン計画も、その庭がヨダレまみれだと辛いものがあるし。

 でもつまり餓獣しかいないこの塔のドラゴンは無理ってことか。それでも登るけどね。友達にはなれなくても、普通に会いたいし。


「とにかくだ。気の合うドラゴンを見つければいいんだな?」

「気が合うかどうか確かめる時間も必要ではないだろうか? 私の場合は子竜であったから問題無かったが」

「力づくで抑えつけてでも仲良くなるさ!」

「……それは仲良くなったといえるのだろうか」


 仕方ないだろ!? そういう生き物だっていうんだから! 俺は絶対ドラゴンと友達になるんだっ。


「ふふっ、君は変わってるな。餓獣でなくとも、ドラゴンといえば恐怖の象徴のようなものだというのに」

「だからカッコいいんじゃないか! 剣や槍をカッコいいと思うのと同じだと思うんだけどな」

「まるで戦ったことのない子供のようなことを言う」


 そう、なのかもしれない。

 実際に剣で切り合いをして命を奪われそうになったことが無いから、剣をかっこいいと感じて戦いに憧れを抱く幼い子供のように、実際にドラゴンの本当の恐ろしさに触れたことがないからこその憧れなのか。

 10年前のは襲われたというか、あわくって逃げ出しただけだったからな。あの時一緒にいた女の子達の誰か1人でも死んでしまっていたら、なるほどドラゴンがカッコいいなんて思える筈が無い。


 でも誰も死ななかった。だから俺にとってドラゴンは、ただただカッコいい存在なんだ。


「こやつらにこの世界の常識は当てはまらんよ。育った環境が違うのじゃからのう」

「と言うと?」

「こやつらは別の世界から来た……といえば解るのではないかの? オルシエラ出身のお主ならば」


 リーゼトロメイアさんが目を見開いた。信じられない、という様子で俺達の顔を見つめ、次に色の違う左側の髪を見る。


「まさか……」

「そのまさか、じゃ」

「し、知らぬこととはいえ無礼な発言の数々。どうかお許しを」

「ええ!? どうしたの、急に」


 今まで勇ましい姿で佇んでいた騎士様が、いきなりへりくだった。凛とした雰囲気が霧散して、切腹を強要された侍みたいになっている。


「かか、オルシエラでオリジンと言えば神と同義じゃからのう」


 な、なるほど。街中で知り合った人と雑談していたら、実は天皇陛下でした、みたいな感じか。いや、じつは天照大御神でした、くらいか?

 俺は別に信心深くないけど、それでも想像してゾッとした。テンパる自信がある。


「わかっててワザと最初に教えてやらなかったな、サバ子」

「かっかかか。騎士様のうろたえる姿が見てみたくてのう!」


 確かに片膝をついてプルプル震えている凛々しい美人の姿は、胸にこみ上げてくるものが……いやいや落ち着け俺。


「大丈夫だって、全然失礼なんて無かったし。むしろウチのエセ幼女の方が失礼だし」

「ま、またエセと言いおった!」


 お前に文句を言う資格があると思うなっ。


「いえ、その御髪と先ほどのお力で察することが出来なかった私の過ちでございます」

「そんな大昔の人の同類が、こんな所にいると考えられるほうが不自然だと思うんだけどな」

「うん、そうだよ。リリアちゃんの例は置いといて、普通ありえないもんね」


 そういえばこのババア、当時の人だったな。よくよく考えるとオリジンより凄くないか?

 俺達の世界でいうと平安時代だから、有名どころで言うと安倍清明かな。私、安倍清明の娘です。って? 化け物じゃねーか。安倍清明より怖いわ。


「さっきまでの感じでいいって。いや、さっきよりもっと砕けてくれて良いくらいだし」

「……感謝いたします。オリジン様の懐の広さに感服するばかりでございます」

「だからそういうのはいいってば。俺達故郷じゃ平民だから。一般人!」


 何がヤバいって、敬語使われても丁寧語なのか謙譲語なのか尊敬語なのかもわからないってことだよ。そんな奴に敬語なんて勿体無い勿体無い。


「言うたじゃろ、この世界の常識で考える必要は無いのじゃ。こやつらが要らんと言うなら要らんのじゃよ」

「お前はもうちょっと自重しろ」

「わ、わか……った。オリジン様が望むならば、そうさせてもらおう」


 そのオリジン様ってのも勘弁してもらおうかな。


「俺は悠斗だよ。こっちは琴音」

「よろしくねぇ」


 苗字はいらないだろ。こっちでは名前呼びが当たり前だからな。なにせこの世界では苗字は10種類しかないし。


「ああ。ユウト殿、コトネ殿だな」

「呼び捨てでいいぞ?」

「いや、それはさすがに……」


 リーゼトロメイアさんとしては目一杯譲歩してる感じなのかな。まあ初対面だし、それが普通か。殿は普通じゃないけど。


「私のことはリゼットと。皆、そう呼んでいる」

「うむ、ではリゼットよ。提案なのじゃが、この先に進むつもりなら、ワシらと共に進まんかの?」

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