表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/223

迷宮の最上階に辿り着く夢じゃった

「それじゃあ僕は職人街に行ってきますね。挨拶まわりと、鍛冶場の貸主さんが商品の卸先を紹介してくれるそうなので」

「そうか。俺達も迷宮に行ってくるから、お互いがんばろうな」

「はい! 皆さんお気をつけて」


 町の中央、塔のある広場でガガンと別れ、そのまま迷宮に向かうことになった。時刻は中天。昼食を済ませたグループと、腹ごしらえに戻ってきたグループとが入り混じり、なかなかの混雑ぶりだ。俺達はさっき4人でリリアのオススメという店で済ませている。


「む、迷宮で昨夜の夢の内容を思い出したのじゃ」

「あー、あるよねぇ。起きた時は覚えてないのに、ふと何かのキッカケで思い出すの」


 そうか? 俺はあんまりそういうのは無いかな。むしろ起きた瞬間はハッキリ覚えていた筈なのに、ベッドから降りる時にはもう思い出せない事が多い。なんで夢の内容って、どんなにインパクトがあっても忘れてしまうんだろうな。


「どんな夢だったの?」

「うむ、迷宮の最上階に辿り着く夢じゃった。そして……ボスかのう? おおきな影に襲われて、大慌てで99階に逃げ帰ったのじゃよ」

「リリアちゃんの夢なら、予知夢とかじゃないかなぁ?」


 どうなんだろう。確かにピンポイントすぎる夢だけど、夢は記憶の整理だっていうし、昨日は1日中迷宮にいたんだから、そういう夢を見てもおかしくはない。ただリリアが見たっていうと、ありえそうではあるよな。


「じゃが夢の中ではワシ1人じゃったからのう。1人で最上階に行けるようならお前さん達を呼んでおらんよ」


 じゃあやっぱりただの夢か。直前で俺達が死んだとかでなければ……だ、大丈夫だよな?


「その後はどうなったの?」

「おお、そうじゃそうじゃ。そこからが意外な展開での。91階以降は塔を管理しとった婆様の生活する場所になっておってな、ワシは優雅に紅茶など飲みながら平和に暮らすのじゃよ」

「なんだ、ただの夢か」

「そう言ったじゃろうが」


 9階全部マイルームとか、どこの金持ちのマンションだ。文字通り、夢のような環境ってか。まあどんなに優雅でも事実上の監禁状態じゃ台無しだけどな。


「…………ちなみに90階のボスはドラゴンじゃったわい。おかげで帰ることもできず……よよよ」

「よし目標は90階だな!」

「え? 最上階じゃないの?」


 リリアの手紙には72階にもドラゴンがいるって話だったっけ。いやあ、夢が広がるなあ!!


「一気に72階まで行こう! さあ行こう、すぐ行こう!!」

「今日は軽くと言っとるじゃろうが。50階より上の敵は隔絶した強さじゃ、そう易々とは進めんぞ」


 そんなっ、そこにドラゴンがいるっていうのに……。でも実際に行ったことのあるリリアが言うんだから、その通りなんだろうな。他の討伐者を軒並み通せんぼしているのも50階以降らしいし。


「餓獣は逃げんよ。慌てず、確実に進めばええんじゃ」

「……了解」

「うむ、ええ子じゃ」


 仕方ないよな。日本にいた時とは違って、俺はもう1人じゃないんだし。無茶な真似は仲間も危険にさらすんだ。くぅ、早く会いたいなぁドラゴン。


「今日は55階辺りを目標にしようかの。では転移するぞい」


3人で青緑色のオベリスクに触れて51階を思い浮かべる。エレベーターの乗った時のような感覚の後、目を開けばそこは岩と申し訳程度の草だけの荒れた山道だった。間違いなく、昨日最後に見た風景だ。

 51階からは山道フィールド。ひたすら安定しない足場が続くらしい。


「50階までの砂漠フィールドに比べれば天国だけどな」

「暑かったよねぇ。オル君もへばってたけど、アフリカの生き物じゃなかったの?」

「別にアフリカ大陸が全部砂漠なわけじゃないだろ。オル君の実家は南アフリカ共和国だから、大陸でも一番下の方で、気温も東京の方が暑いくらいって聞いたぞ?」

「そっか。大変だったよね、オル君」

「ぎゃう」


 良かった、昨日よりはずっと元気になってるみたいだ。リリアのいう所の、魔力に馴染んできたっていうことなのかな。


「さあ、登山の始まりじゃ!」


 えらく気合の入ったリリアの掛け声で、山道の先を見上げる。


「きっつそうだな」

「うん……神社の階段で鍛えられてるといいなぁ」


 リリアが登れたんだから、無理ってことはないんだろうけど、気合の入り方からして相当苦労したんだろうな。そして俺達も今からその苦労を味わうってことか。




 ゴツゴツとした足下を慎重に進んでいく。安定しているように見えてグラついている岩なんかもあるから、油断すると足首を痛めることになるし、最悪この坂道を転げ落ちることになる。ということで陣形は先頭にリリア。その後ろに琴音とオル君。最後尾が俺だ。琴音が転がってきたらキャッチするのが仕事である。

 ここまででキャッチした回数は3回。オル君が可哀想だから気をつけろよな。


「む、餓獣じゃ」


 先を歩いていたリリアが琴音に道を開ける。

 トラップに関してはもう諦めたけど、戦闘はしっかりと学習してもらわなくては困る、というリリアの言から、この階層での戦闘は琴音に一任されていた。


「よぉーしぃ!」


 やる気をみなぎらせながら先頭に躍り出た琴音に、餓獣が飛びかかる。

 荒々しく振り乱れる灰色の体毛。鋭く、おおきな牙。4本の足で大地を蹴り付け疾走するその餓獣はオッコトヌ……イノシシだった。体長は3メートルはある。その大きさだけで地球産のものとは比較にならないほどの脅威だ。っていうかデカすぎて道が塞がってる。


恵みの雨レーベンフリューゲル!!」


 だけど琴音の魔法相手に、体格はあんまり関係ない。琴音の意志に従って足元の岩が動き、イノシシの前に配置される。

 一瞬遅れてゴウンッと重々しい音が響き、岩に頭突きをかましたイノシシは頭蓋骨が砕けたのか頭を血まみれにして倒れた。


「イノシシさん、ごめんね。どう? リリアちゃん。余裕あったでしょ?」

「いんや、ギリギリじゃったな」

「え? どうして--」


 イノシシの突進を受け止めた岩から、ピキッと小気味よい音が鳴ったかと思うと、ガラガラと砕けて地面に転がった。


「もう少しイノシシの勢いが強ければ突破されてたな」

「そういうことじゃ。もう1つ岩を配置して、二段構えにしておれば確実じゃったろうに」

「ご、ごめんなさい……」


 そもそもあんな直進しかできないヤツ相手に、馬鹿正直に岩防壁の後ろで待ち構えていてやる必要も無かったろう。壁が生まれて琴音の姿がイノシシから隠れた時点で、さっさと逃げてしまえば突破されたところで何てことないんだから。


「周囲の物質を成長させた上で自在に操る、などという万能な魔法に目覚めておきながら、支配下においた物質を相手にぶつけるだけ、というのがいかにも勿体無いのじゃ」

「確かに。昨日の人参戦士はともかく、もっと色々できそうなのにな」

「うう、考えてみる……」


 偉そうに言っても応用できてないのは俺も同じだけどな。魔法を食って、吐き出す。それだけだ。本当にそれだけなのか? その疑問の答えはいくら考えてもわからないままだ。


「もっと追い込まれれば嫌でも考えることになるじゃろう。ワシもサポートしてやるから安心せい」

「……うん! よろしくね、リリアちゃん!」


 ガ……キン、キン。


「何か聞こえないか?」

「む?」


 金属がぶつかるような音。かすかだが、確かに聞こえた。


「誰か戦ってるのかな?」

「ううむ、有り得ないとまでは言わぬが、現代の討伐者で50階を越えられる者など、そうそういるものではない筈じゃが」

「見に行ってみよう」


 進むにつれて音が大きくなっていく。今なら確信を持って言える、誰かが戦っていると。

 餓獣は人類の天敵だ。餓獣は人間や動物を襲う。そして餓獣は餓獣を襲わない。たとえライオン型の餓獣の目の前をウサギ型の餓獣はのんきに歩いても、あまつさえ目の前で昼寝を始めようとも、餓獣は餓獣を襲わないのだ。

 そして塔の中に野生動物はいない。


「いた! 人がいたぞ!!」

「し、信じられん……しかも1人じゃと!? 単独でここまで来たというのか!!」


 普通なら仲間が全滅して1人になったと考えるんだろうけど、リリアがそう考えなかった理由は俺にも解った。


 強い。


 軽鎧を着けた、美しいブロンドヘアの女性が、チェックのロングスカートをひらめかせながら舞う様に槍を振るう。その穂先がきらめく度に、彼女を囲んでいる歩行型の鳥の餓獣が倒れていった。

 俺も剣術を学んだからこそ分かる。とんでもない腕前だ。少なくとも魔法に頼らない限り、俺では逆立ちしても勝てる気がしない。魔法有りでも怪しいくらいだ。


「ま、まさかあの娘……」


 だが鳥餓獣はどこからともなく現れて次から次へと襲い掛かっている。多勢に無勢。槍使いの女性がジリジリと山道の端、崖に追い詰められていった。


「助けるぞ!」

「うん!」


 琴音のジョウロから出た水を全身に浴びながら走り出す。ウソのように軽くなった身体は、がけっぷちの彼女までの距離を無いもののように駆け抜ける。


「君は……?」

「助っ人だ! 出し惜しみ無しでいくぞ、ジル!!」


 吐き出すのは昨日食べさせたレッサーデモンの黒い球。何個食べていたのかは数えていなかったが関係ない。1つ残らず全部吐き出せ。


「ピイイーー!!」


 本当にどんだけ食ってんだと言いたくなるほど大量の球が飛び出した。その辺の石くらいなら木端微塵に粉砕する威力があった黒球が、俺の魔力で強化されて雨のように乱れ飛ぶ。


「……ぐろ」


 当たれば粉砕。貫通して後ろも爆砕。

 あっという間に餓獣は全滅して辺りは血の海だ。地球でやれば迷わず人でなしの狂人に認定されそうな光景になってしまった……。


「な、なんだ今の魔法は……。魔法、なのか? いや、礼が先だったな。危ない所を助かった、感謝する」

「お、おお。なんか堅苦しい感じだな」

「仕方なかろう。騎士は礼儀を重んじるからのう」


 騎士? 確かに騎士っぽく見えなくもないけど、確信できるほどでもないんじゃないか。なのに言い切るってことは、リリアはこの人の事を何か知ってるのか? 有名人?


「もしや、セレフォルンの魔女か」

「うむ」

「おお……これは、お会いできて光栄です。お噂はかねがね」

「それはワシもじゃよ。オルシエラの内情は不明瞭な部分が多いが、お前さんの話だけは放っておいても聞こえてくるわい」


 お偉いさんか? それとも英雄的な存在か?



「さすがに迷宮にまでドラゴンは連れて来ておらんか? 竜騎士リーゼトロメイア・ルッケンベルン殿」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ