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天の迷宮

 ガガンと別れた俺達は、まず討伐者ギルドに向かっていた。

 なんでもこの町の象徴であり迷宮である巨大な塔は、ギルドが管理しているらしい。というのも、ここシンアルはどの国にも所属しない独立した地域であるため、各国の軍属は基本的に入ることを禁止されていて、では迷宮に入るためにやってきた規律の無い武装集団を誰がまとめるのか、ということで中立のギルドが三国協定の下に選ばれたそうだ。


「ちなみに上った階層でランクも上がるのじゃ」

「まじか。最上階まで行ったら最高ランクになれるのか?」


 確か最高でXランクだっけ? 今Eランクだから一気に7階級昇進か。3、4回殉職しないと無理なレベルじゃないか、ふへへ。


「どうかのぅ? 現代の坊や達では頑張っても50階までしか登れておらんでな、異例すぎてS辺りで止まりそうな気がするのじゃ」

「期待しすぎない方がいいかー。その50階で何ランクになるんだ?」

「Bじゃな。ちなみにバストサイズは--」

「でもAランクまでは今の時代でもいるんだろ?」


 なにか余計なことを言おうとしていたけど、無視だ無視。っていうか10才くらい子供のバストサイズなんて聞いてどうすればいいんだよ。聞かなくても分かりきってるし。


「むう……。Aランクなんぞ世界に数人しかおらぬし、Bもほとんどが軍に吸収されとる。Bランク数人にCランクで穴埋めした程度のパーティでは40階辺りが限界ということじゃ」


 そうか、普通はパーティで行くんだよな。

 Gランクが10階までで、10階に到達すればF。20階でE、30階でDと考えていけば、50階に到達できそうなパーティはCランク相当ってことか。なら全員Bランクのパーティを作れれば60階まで行けるのかもしれない。

 

 そう考えるとソロで70階以上登ってるサバ子は本当に強いんだな。1パーティを……まあ5人としたなら、Aランク5人組より強いってことになるんだからな。人類最高峰5人と互角以上か、さすがオリジンの娘。第1期魔法士の魔力は伊達じゃないな。


「リリアちゃんは今どこまで登ってるの?」

「ふふ、あの手紙を書いてからまた少し登ってのぅ、今は78階じゃ」


 お、おお。Sランクパーティに到達する勢いじゃないか。こいつ、ほっといても最上階まで行くんじゃないのか?


「ちらほらとSランクの餓獣が出始めてのう、さすがに一人では厳しくなってきとるのじゃよ。アガレスロックを倒した実力に期待しとるぞ、オリジン様?」

「あー……」


 あんまり実力で倒したとは言えないんだけどなあ。

 でも今の考えの通りだとしたら100階ではXランクが出てくることになるんだよな。いや流石にあんなサイズの化け物が塔の頂上にいるわけないか。崩れるっての。


「あれはちょっと裏技を使ったっていうかな……」

「む? 気になる話じゃが、先に雑事を済ませんか? ほれ、ここがシンアルのギルドじゃよ」


 王都のギルドとデザインは変わらないけど、明らかに建物が大きいな。まあギルドが支配する町だし、いわばギルドの国の王城みたいなもんだ。本当に王城な訳じゃないから普通に街中に建ってるデカい建物だけど。


 ギルドに入ると、ざわつくざわつく。第1期魔法士、時流の魔女リリア・ラーズバードの名前はここでも轟きまくっているらしい。軍属が侵入禁止なのに、このセレフォルンの生き神みたいなのが出禁になってない意味がわからない。

 ついでに言わせてもらうと、セレフォルン王都のギルドで見た覚えのあるダラけきった受付嬢の姿がある意味も全然わからない。


「なぜいる?」

「聞くも涙、語るも涙の事情があるのよ」

「あくびの涙じゃないといいけどな」

「……アンタらが来なければ全て解決してたのよ。空気呼んで消えてくんない?」


 もったいぶってるけど、絶対たいした話じゃないよな。っていうかヒドイ言いぐさだな、おい。行くって言ったじゃん、迷宮都市行くってさ。後出しでそれはあんまりだ。


「ハンカチは持ってるよ。なにがあったの?」

「期待するなよ琴音。絶対しょーもないぞ」

「またお主らの知り合いかの?」

「…………あの戦いの後、アンタらの強さにドン引きしてる男どもを見た私は気付いたのよ。アンタらの専属ってことにすれば、他の筋肉ダルマの相手をしなくて済む、と。しかもアンタらは王都を出て行くし」


 そしたら迷宮都市に派遣された、と。


「お前バカじゃないか?」

「直球ね。ギルドの連中も直球だったわ。隠す気もなく喜んで送り出しやがったの、あいつら。……一瞬真面目に働いた方がいい気がしたくらいよ」

「間違ってないよ、働け」


 むしろそこまでされて、なおもそのダラケっぷりか。


「で、何しに来たの? さすがにもう仕方ないから、アンタらの相手だけはすることにしたの。心底イヤだけどね」

「こやつらに迷宮に入る許可を頼むのじゃ」

「はいはーい、やっとくからもう行っていいわよ」


 しっしっ、と追い払うように手を振るユリー。

 こいつ、サバ子の顔知らないのか? 知ってる人間の態度じゃないぞ、俺と琴音の態度は別として。だってお前らの国を作った救世主の娘だぞ。魔力が失われていく時代の中での第1期魔法士だぞ。1200歳のおばあちゃんだぞ。

 

「なあ、リリア・ラーズバードって知ってるか?」

「え? 当たり前じゃない、何言ってんの? てゆーかアンタの雑談にまで付き合う義理ないんですけどー?」

「いや、ならいいんだ」


 顔知らないな、コイツ。面白そうだから黙っていよう。


「じゃ、もう迷宮に入っていいのか?」

「いいわよ、精々死なないように気を付けることね」

「お、おいおい娘さんや、迷宮の説明はせぬのか?」

「え? めんどくさい? またマニュアルでいいわよね」


 リリアが口をあんぐり開けていた。まあ説明無しで突っ込んだら死ぬような場所に、まさに説明無しで放り出そうとしてるんだから無理もないか。俺達は2回目だから予想してたけどな。


「いや、コイツは経験者だから必要ない」

「あそ」

「ええのか? これでええのかのぅ!?」

「いーんだよ。コイツはこういう奴だからさ」


 むしろ最低限の仕事はするって言ってる分、前よりずっとマシだ。


「ううむ、お主らがよいと言うならよいのじゃが……」

「迷宮に向かいながら説明よろしくな」

「ううむ……」


 釈然としない様子のサバ子を強引に連れ出す。1200年も生きてる魔女を驚かせるなんて、なかなかやるな、あの受付嬢。


「おかしな知り合いがおるのじゃのう」

「否定はしないよ。それじゃあ迷宮の説明頼むよ」

「ワシに頼むなら、あの受付嬢に頼んでもよかったのではなかろうて」

「時間の無駄、時間の無駄」

「ごめんね、お願いリリアちゃん」


 そういや結局琴音は普通にリリアって呼んでるんだな。まあ仲良くなったのなら良かった。おれはサバ子と呼び続けるけどな。なんか個人的に言いやすいんだ。


「簡単に言えば、空間属性のオリジンが根城にしておった塔じゃ。つまり空間魔法の仕掛けが、良くも悪くも盛りだくさんじゃ」

「良くも悪くも?」

「うむ、まず迷宮内の餓獣は、一定数を下回ることで自動発動する転移魔法で、世界のどこかから送られてくるのじゃ。高い階層であるほどに強力な餓獣が転送されるようじゃの」


 ってことは、世界中の餓獣を駆逐し尽くさない限り、迷宮から餓獣はいなくならない訳か。逆に迷宮でことごとく駆逐し尽くせば世界中から餓獣が消えるってことか。どっちにしろ無理だね。


「トラップでも大活躍じゃ。床が消える、違う場所に飛ばされる、攻撃が全然違う方向に飛んでいくなど、飽きさせん仕様じゃ」


 アトラクションかよ。


「便利な点もあるぞぃ。一度行った階層には一気に転移で移動できるのじゃ」

「それはありがたいねぇ」

「うん、ありがたい。いちいち何十階も上り下りしてらんないよな」


 そのワープがなかったら迷宮内で野宿でもしないと最上階まで行けそうにないしな。ううん、命の危険がなければ楽しそうなんだけどなあ。琴音も話を聞くほどにワクワクしてるみたいだし。


「でも、そっか。空間魔法」

「そういうことじゃ。世界を移動するなら、空間魔法の全てが眠っておるであろう迷宮を調べるべきじゃろう。それに昔は何人か最上階に到達した人間がおったらしいのじゃが、全員がそれっきり姿を消してしまったという記録があるのじゃ」


 一番それっぽいのは確かだな。

 ただ最上階で人が消える理由が転移魔法だったとして、地球行きかどうか確かめる方法が無さそうなのが気になるけど、それは到達してからだな。


「ワシは78階まで行けるが、お主らは行ったことがないから連れてゆけぬ。面倒じゃが付き合ってやるから1階からゆくしかないのう」

「うん、がんばるよぉ!」


 自分の実力も曖昧だし、そっちの方が好都合だな。


「着いたぞぃ。これがシンアルの象徴、天の迷宮じゃ」

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