表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/223

そんな馬鹿な

「待ってた? 俺を?」

「うん。ほら、教室でドラゴンとかって言ってたから、ここに来るかなって」


 なるほど。琴音ちゃんは俺があの日の事をほとんど覚えてないとは知らないから、ドラゴンを求めるなら、ドラゴンと出会った場所……つまりこの神社に来ると考えた訳か。

 ところでそれは、運命的かつ、ロマンチックな10年ぶりの俺との再会を思い描いて、ドキドキソワソワしながら待っててくれたと思っちゃってよろしいんでしょうか!?

 

「お父さんに境内の掃除しておくように言われた時に思い付いたの」


 うん、そんな感じだろうと思ってたよ?


「何でお前テンション上がったり下がったりしてんだ?」

「話せば田中は共感してくれるんだろうけど、話したくない」

「中田だっつってんだろ!! あ。まさか今日ずっと心の中で田中って呼んでたんじゃないだろうな!?」


 心の声にまで文句を言われるとは……思ってたけど。


「エスパー田中……?」

「これ以上新しい要素を加えるんじゃねぇ! ってやっぱり考えてやがったのか!」


 いい名前だと思うんだけどな。まあ、あんまり長くても言いにくいし、やっぱり田中は田中だよな。あれ、今いいこと言った風味じゃなかった?

 そんで琴美ちゃんは何故に笑ってるんだい?


「あははっ。中田くんの方が10年来の友達みたいだね」


 鋭いね。昨日からの親友なんだよ。隣で不満そうな顔をしてるのは、もちろん照れ隠しだろ?


「だぁもう、話をもどせ。柊が伊海を待ってた。そういう話だろ」


 そうだった。俺と琴音ちゃんに共通することと言えば、ドラゴンのことに違いない。わくわく。


「うん。えと、ね。覚えてるかな、あの日私達ともう2人、同い年の子と、魔法使いみたいな恰好した14,5才くらいの女の子がいたこと」


 そっちだったか。


「もしかしたら悠斗君はあの人のこと知ってるのかなって。命の恩人だし、やっぱりちゃんとお礼したいの」

「ごめん、俺も知らない。俺の方こそ、あの人達は琴音ちゃんのお姉さんだとか友達なんだと思ってたから」


 だからこの神社さえ見つければ、他も一気に解決すると疑ってなかったんだよな。俺も助けてくれたお礼とか、治ってた傷のこととか、会って色々話したかった。


白髪の子にいたっては、俺と同じくたまたま来ていただけなのか、琴音も全く知らないらしい。


 でも、この神社と琴音で、記憶の中の情報は出尽くしてすっからかんだ。手がかりが無いんじゃ探しようがない。偶然会えたりしないかな?


「でもよ、お前らは狙った訳でもなく再会できたんだろ。あるんじゃねーの? 運命だとか、そんな感じのもんが」

「そうそう。縁があるなら、自然とまた会えるって」


 実際それを期待するしかないわけだし。しかし田中の口から運命なんて言葉が出てくるとは、似合ってない。自覚あるのか恥ずかしそうにしてるし。言わないよ? さすがに空気読んでさ。


「うん。私と悠斗君も会えたんだもんね」


 正面から柔らかい笑顔でそんな事言われると、なんだか恥ずかしいというか、照れるな。


「それと、私のことは呼び捨てでいいよ? この歳でちゃん付けはちょっと恥ずかしいし。でも今から苗字で呼ばれるのも、距離とられたみたいで嫌だし」


 女の子を呼び捨てとか、胸が熱くなるね。大丈夫か、オル君。胸ポケットが暑かったら、肩か頭に移動するんだよ?

 

勘違いされる時があるんけど、俺はドラゴンが大好きだが、二次元にしか恋ができない人達とは違う。将来は人間の奥さんと人間の子供を持つ予定なんだから。ペットはドラゴン。これは譲れない。その頃までには手懐けてみせる。


 つまり何が言いたいかと言うと、ちょっとテンション上がりました。


「あともう一つ、悠斗君を待ってた理由があってね」


 うんうん。今なら何でも聞いちゃうよ。


「悠斗君がまたドラゴンに会わないように、止めようと思って」

「……んだと?」


 残念ながら、琴音は敵だったようだ。俺とドラゴンの間をさえぎるモノは何物だろうと許さん。


「っ。だって危ないから。死にかけたんだよ? もちろん私もあれ以来一度も林の奥には行ってない」

「危ないなんて、額をかち割られた俺が一番よくわかってる。その上で声を大にして叫ぶんだ。俺はドラゴンに会いたいっっ!!!」


 そして背中に乗って飛びたい。写真撮りたい。尻尾につかまってブンブンされたい。それが俺の夢であり浪漫ロマン


「ってか、何でドラゴンがいるの前提で話進んでんの? マジで言ってんの?」


 最初からマジだと言ってただろ! 1から10から100から1000まで、これっぽっちも信じてなかったな、この野郎。


「もういい、俺は行…………うわっ!!?」


 雑木林の木の影から誰か覗いてる!?

 変な真っ黒のマントを頭からかぶって、クスクス笑いながらこっち見てる!! 身長と声からして小学生くらいの男の子。近所の子供かな。


 いやー本気でびびった。幽霊じゃないよ、な? 二人にも見えてるみたいだし。ていうかやっぱり怖いからクスクス笑うのやめてくんないかな。


「クスクス……」

「あっ! 待って!?」


 男の子が雑木林の奥へ、消えるように走り去ったかと思うと、琴音まで男の子を追って走り出した。慌てて俺と田中も後を追う。

 琴音は運動だそれほど得意ではないらしく、すぐに追いついたが、男の子の方は影も形も見えない。


「どうしたんだ? さっきの知ってる子?」

「ううん知らない。でもダメなの。あっちはあの……あの鳥居はあるから!」


 鳥居。そうだ黒い鳥居。文字通り夢にまで見たその先に…………10年前、ドラゴンはいた。

 俄然やる気が湧いてきた!!


 ぐんっと加速。そしてとうとう捉えた男の子の前には真っ黒な鳥居が悠然と立っていた。劣化や風化を感じさせず、磨き立ての黒曜石のように漆黒。

 

「だめっ!!」


 琴音の呼びかけも空しく、男の子は鳥居をくぐる。鳥居の反対側から出てくることはなく、男の子は忽然と消えてしまった。


「待って! 悠斗くんまで……止まって!?」


 勢い良く鳥居をくぐる俺。追って琴音も通り抜けたようだが、田中が鳥居をくぐったかと思った瞬間、田中はかき消すように姿を消した。


「消えた!? あいつワープでもしたのか!? やっぱりエスパーだったのか!」

「…………違うよ悠斗君、あっち見て」


 琴音が指差した先には、記憶の中と寸分の狂いもない風景が広がっていた。

 何もない白亜の空間に浮かび上がるように伸びる石畳の回廊。そこはまさしく俺たちがドラゴンと出会った場所だった。


「たぶん。違う場所に飛ばされたのは私達の方じゃないかな」


 ワープなんて冗談で言ったんだけど、この風景を見てしまうと信憑性があるな。

 あの雑木林の中にこんな場所がある訳ないし、事実として田中は消えた。あいつから見れば、俺たちは鳥居をくぐた瞬間に消えたってことか。パニくってそうだ。


 なんて言ってる場合じゃない。こんな変な場所……さっきの子供は気になるけど、一度出直した方が良さそうだ。少なくとも琴音を連れたまま無策で進むべきじゃない。


 だが振り返った先に鳥居は無かった。

 鳥居があったはずの場所で石畳が途切れていて、その先はひたすらに真っ白。


「進むしかないってことか」


 ここで待っていて、助けが来るとも思えない。くそ、ドラゴンがいるかもしれないっていうのに、こんな状況じゃ全然嬉しくない。むしろ……今だけは、出てこないでくれ。






「そんな馬鹿なっ!!」


 回廊を進み続けること20分。石畳が途切れ、ヨーロッパ辺りの神殿ぽいデザインの門(鳥居じゃないのかよ)にたどり着いた。何事もなく。


「出られたら困る。困るけどもっ。それでも今、ドラゴン出てくる感じだったじゃん! ハラハラしながらも、ちょっとだけワクワクしてたんだよぉ!?」

「ま、まあまあ。帰りに会えるかもしれないから、ね?」


 帰り、か。進めば進むほど遠ざかってしまうんだけど、今はこの門の先に進むしかないんだろう。

しかしだ、門を見ていると伝わってくる気がする。この先は「違う」と。何が、かは分からないけど、もし引き返す道があったなら、絶対に進もうなんて思わない。

 だけど選択肢の無い俺達は、せめてはぐれない様に、お互いを確かめる様に固く手を握り合いながら門をくぐる。


 


 視界が混濁し、激しい頭痛が襲う。

 そして俺は一つだけ誓いを胸に刻んで、気絶した。

  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ