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ホントにコイツは最高だよ

 気が付いたら巨大な亀さんと睨めっこ中だった。

 ……どういうこと?


 何故か頭をカックンカックンさせてるんだけど、眠いのかな。でもよく見ると甲羅がえらいこっちゃになってるし、イマイチ状況が掴めない。王都の方から悲鳴にも似た叫び声がするけど、残念ながら何を言ってるのかは聞き取れないな。


「もしかして、私達がやったのかな? 気を失ったトコから移動してるみたいだし」

「本当だ、ちょっと王都が遠くなってる」


 夢遊病でなければ、意識の無い間も俺達が動いてたってことだよな。あの馬鹿みたいな大きさの壁も無くなってるし、明らかに琴音の仕業っぽい樹木がアガレスロックを捕まえてるし、動くどころか戦っていて……しかも優勢だったみたいだ。


「変な感じだ……」


 戦ってたとして、結局どんな風に戦ったのかさっぱり覚えてないなんて。少なくとも亀を圧倒するくらい強かったみたいなのに、自分がどこまで成長できるのかを知る貴重なチャンスだったのに……っ。

 って悔しがってる場合じゃないな。亀はまだ生きてるんだ。


「ガガーン!! 来てるかーーー!? 剣くれ、けーん!!!」


 さすがに遠すぎるか。向こうは向こうで騒がしいみたいだし、俺達がいくら声を上げても届きそうにない。身振り手振りでなんとか……剣、俺に、欲しい。俺に、剣。ほっ、ふぬっ、とりゃあ。

 すると火の玉みたいなものが上空に飛んだ。


「花火かな? あれ? 爆発しないねぇ」


 花火っていうより照明弾……あっ、あれケイツからの合図か。ならもう少しすればミスリル剣が届く筈だ。

 普通に考えてこんな危険地帯に剣なんて持ってこれる訳がないけど、それは最初から分かってたことだから、ちゃんと用意がある。アガレスロックにまるで通用しなかった攻城兵器バリスタだけど、遠くに物を届けるのに役立つのだ。

 そう提案した時の、ケイツの悔しそうな顔が忘れられないね。秘密兵器が運搬機あつかいじゃ無理もないか。


 キランッと反射光。そういえばあのバリスタの精度ってどれくらいなんだろう。亀の頭にはうまく当てていたけど、なにせ的が大きいからなぁ。まさかうっかり俺達に当たったりしないよな?


「----っ!?」


 右の頬が熱くなり、液体の流れる感触がした。……あのケツアゴ、あとで殴ってやる。


「ブシュッ!?」


 ギャリィィィンと甲高い音と、ビックリして吹き出したような空気の音が後ろから聞こえた。恐る恐る振り返って見ると、鼻先に青白い剣を刺したアガレスロックが剣を抜こうと暴れていた。

 ブンブンと必死で頭を振り回すアガレスロック。痛いのか? 痛いんだな? 効いてるんだよな? さすがガガン、ばっちり仕上げてくれたみたいだ。だけどケツアゴ、地面狙うわけにはいかなかったのか? せっかく目を回していた相手をわざわざ起こさなくてもいいじゃないか。やっぱり殴るのはやめて蹴ろう。

 

 やがて遠心力で剣が抜けて、飛んだ。

 今度は反対側、左の頬が熱くなった。血と冷や汗が流れ出る。なんで誰も攻撃してきていない時に2回も死にかけなきゃいけないんだよ……。蹴るのはやめだ、斬ろう。今のはケツアゴより亀が悪かった気もするけど、そもそも刺したのアイツだし、八つ当たりも兼ねて一石二鳥だ。


 背後の地面に突き刺さったミスリル剣を掴み取る。剣を握るようになって10日やそこらで剣の違いなんてわからないけど、この剣がすごいことは分かる。

 さすがに時間が無かったせいで、デザインも何も無くて、持ち手も芯が剥き身のままになっているけど、この輝きはそんなことが気にならないくらい視線を引きつけられる。


「琴音、魔法を」

「うん」


 琴音のジョウロの水を受け、ミスリル剣の輝きが増した。


「きれい……」


 バリスタの勢いでも根本までは刺さらなかった。だけど琴音の魔法で成長し、さらなる切れ味を手に入れたならきっと……。


「ブシュウゥゥ」


 そうか、お前から見てもこの剣は怖いか。

 アガレスロックががむしゃらに暴れ出した。地形操作の能力も無茶苦茶に使って、無駄に地面を荒らしている。慌てて琴音は水を撒いて足場を確保してくれたけど、なぜか同時にアガレスロックがおとなしくなった。

 キョトンとした顔で形を変えた地面を見て固まっているんだけど、何かおかしな所なんてあったかな?


「ブッシュウウウウウウウウウウーーーーー!!」


 うわ! 思い出したみたいに地面から岩の棘を出して木の拘束を壊してしまった!

 解放されたアガレスロックが四肢で地面を踏みしめる。だけどさっきまでとは違う、互いの間に距離は無く、甲羅は壊れ、そして俺の手にはガガンの魂のこもった最高の剣がある。


「行くぞ琴音! これが最後だ!!」

「援護は任せて!」


 琴音が俺の左右に1本ずつ、樹木を育てて操る。アガレスロックに向かって伸びる2本の木々の間は俺が駆け抜けるための道だ。さっきと同じように、琴音の木はあっという間に殺到する岩石で押しつぶされてしまったけど、つまり樹木をつぶす為に、俺の方には攻撃が来なかったということだ。

 もちろん、すぐにこっちにも地面が押し寄せてくるが、遅い。


「やっぱりあの壁を消したのはお前だったんだな、ジル」


 木々の道の地面が盛り上がり、階段ができあがった。あれだけの体積を食べたのなら、いくらでも地面を操れる。階段の先は当然、アガレスロックの頭上だ。

 額めがけて飛び降りる。鈍重な亀は、それに気づいていても逃げられないから迎撃しようとするだろう。案の定、地面からとがった岩が伸びてきた。


 俺の使っている地形操作能力はアガレスロックからもらった物だ。だから支配力もまったく同じ。俺の地面は操られないけど、俺もヤツの地面は操れない。



「ホントにコイツは最高だよ、ガガン」


 アガレスロックの甲殻を斬るための剣が、たかが岩の槍を斬れないわけがないよな。

 岩石を斬っても刃こぼれ1つなく変わらない輝きを放つミスリル剣を構える。落下の勢いを乗せて、真っ直ぐ、垂直に、アガレスロックの眉間に狙いを定めて--


 突き刺した。



 目を見開くアガレスロック。その目が恨みがましくこっちを見てきた。


(セ……メ)


 目があった。と思った途端、頭の中に声が聞こえてきた。これはまさか、アガレスロックの仕業なのか?


(……イメ、コロスナラバ、ナゼ、ウミダシ……タ…………)

「生み出した? お前のパパになった覚えは無いよ」


 剣を引き抜くと、その傷から大量の血が吹き出す。

 そしてズズン、と。その巨体を支える力が消え失せ、とうとうアガレスロックの体が地に伏した。


 地上で活動する中では間違いなく最強の餓獣だったろう。俺達も、琴音の魔法が、ガガンの剣が無ければ倒せなかった。だけど、肝心な部分こそ覚えていないけど、俺達は倒したんだ。さっきまで俺を見ていた瞳にはもう光は無く、呼吸も無い。


「勝った……」


 後ろを見る。爆撃でもされたのかって荒れようだ。前を見る。甲羅以外なにも見えない。……あらためて見てもとんでもない化け物だ。

 だけど、勝ったんだ。


「悠斗くーん! だいじょうぶー!?」


 琴音が呼んでるけど、どうやって降りようか。いかんせん大きすぎて、たかだか頭からですら飛び降りるには勇気がいる。20メートルはありそうだからなぁ。ビル的に6、7階……なるほど死ねる。


「おーい、木の枝ここまで伸ばしてくれないか?」

「いいよー、ちょっと待ってね」


 10秒もしない内にメキメキと伸びた木が頭まで届いた。20メートルの木っていうのも、たいがい変だよな。木登りならぬ木下りでスルスル下りて、無事着地。


「やっつけたんだよね?」

「ああ、間違いなく。途中記憶がなかったのが気になるけどな」

「でもおばあちゃんになってなくてよかったよぉー」


 そういえば歳とってないな。ってことは一応人間には無害なのか。……意識が吹っ飛んだことを除けばだけど。


「今度めいっぱい魔力を抑えて実験してみようね」

「収穫の多い戦いだったな。俺も色々わかることがあったしな」


 特に大きいのは、地形操作能力を食べてもアガレスロックが能力を失わなかったことだな。

 今まで餓獣から能力を奪ったらすぐに倒してしまっていたから分からなかったけど、餓獣は能力を食べられても、完全に失ったりはしないのかもしれない。そういえばあれは体質みたいなものらしいし。

 またそのうち試してみよう。


「そういえば、最後に亀の声みたいなのが聞こえたんだよ」

「……亀はしゃべらないよ?」

「わかってるよ!? わかった上で聞こえたんだって!」


 ただその内容は意味不明だったけど。


「最初の方は聞き取れなかったけど、殺すのなら何で生み出したんだ……って」

「あの亀は悠斗くんが生んでたの!?」

「そんな訳ないだろ」

「だよね」


 わかってるなら言うな。

 んー、どう考えても意味がわからない言葉だよな。目覚めさせておいて殺すんかーい、っていう意味なのかな? というか人間の区別なんてつかなさそうだし、単純に人違いか。


「……つまりアイツは人間が生み出したのか?」


 それってやばくないか? 量産ができたら世界征服なんて余裕でできそうだぞ。アガレスロックが群れをなして進んでくるなんて、想像もしたくない。

 念のためケイツには話しておいたほうがよさそうだな。


「わからない問題は後にしてもいいんじゃない?」

「テストかよ。でもまあそうだな……戻ろうか」


 王都の方を見れば、アガレスロックの撃沈を確信したのか爆音じみた歓声が上がっている。あそこに行けば、それはもうオリジンオリジンと持てはやされるんだろう。でも、結局どうやって追い詰めたのか覚えてないし、もう1回やれと言われてもできるかどうかわからない。この勝利は今の実力ではなく、前借りした未来の実力だ。

 残念だけど、もうしばらくはオリジンと呼ばれる度に、微妙に情けない気分を味わうことになりそうだ。


 だけど下手に背伸びすると大変なことになるのは今回のことでよく分かった。成長した途端に気絶したのも、きっと現在との差が大きすぎたからじゃないかな?

 ま、いずれはアガレスロックを圧倒できるくらい強くなれると確証されたんだし、一歩ずつ進んでいけばいいや。


「うん、帰ろう。私おなかすいちゃた」

「屋台以外で頼むよ?」

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