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だからまず、俺はオリジンになろう

「俺が何の為に気絶するまで魔力を振り絞ったと思ってんだよ!? てか何だと思ってたんだよ!!」


 信じられない。っていうか信じたくない。あれだけ頑張った結果、効率よく真っ直ぐにアガレスロックを王都に連れてきてしまったなんて。


「ああん? んなもん、亀野郎をぶっ殺すためだろうがよ。ま、オメエはよくやったぜ、気ぃ落とすなや」

「バッカ、お前バッカ……言ったじゃん! 引きつけるって、王都に向かわせないようにって!!」


 そこまで言ってもまだ首を傾げる馬鹿3人。

 なんてこった、こいつらの馬鹿さ加減を考慮して、幼稚園児に説明するくらいの気持ちで懇切丁寧にかつ噛み砕いて説明しなくちゃいけなかったのか。あの状況でそんなことできるかよ。できる気もしないくらい馬鹿だしコイツら。


「なんで王都に向かわせちゃいけないんでやんすか?」


 ガッシの言葉で疑問が氷解した。この3人は、自分達以外のことをまるで考えてないんだ。

 強大な怪物に遭遇して、どうやって生き延びるのか。倒すか、逃げるか。こいつらは、俺が倒そうとして失敗したから逃げることにした。追いかけてきたら、さらに逃げる。逃げた先、その通り道に他の人がいたらどうなるのか、という所まで頭が回ってない。


「お前ら一生Dランクにいろ」


 もう呆れてしまって、それくらいしか言葉が出てこなかった。悪い人間ではないと思うんだけど、行き当たりばったりというか、その場しのぎというか、視野が狭いというか……。そんなんじゃギルドの信用も無いわけだよ、顔だけが原因とか、そんなのコイツらの被害妄想だったんじゃないのか? ……完全には否定しきれないけど。

 俺の言葉にドンが何かわめき散らしているが、構っている場合じゃないから無視してカケドリの足を止める。


 まだ王都まで多少距離はある。今からでもアガレスロックを誘導できないか、試してみる価値はあるはずだ。


「お前ら先に王都へ戻って……」

「おおーい、ここは危険だ! 早く避難しなさい!!」


 引き返そうとした所に声をかけられて振り返ると、セレフォルン王国の兵士、一個中隊がこっちに向かってきていた。約150人、その全員が角の生えた薄茶色い馬のようなロバのような動物に乗っている。大きさはポニーより少し大きいくらいで、手綱が無くバイクのように角を掴んでいるのは、こんな状況でなければ乗らせてもらいたいくらい面白そうだ。


「あれが見えるか? Xランクの餓獣が向かってきているのだ。王都で守りを固めているから、君らも早く城壁の中へ行くんだ。……やれやれ、身の程知らずな討伐者の救援に向かうはずが、そのまま死地に赴くことになるとはな」


 そうか、この中隊は俺達の救援に編成されたのか。そこにアガレスロック出現の報告が入ったものだから、そのまま討伐隊に早変わりってことか。違うか、討伐隊なんていいものじゃない。なにせ相手は最悪の餓獣Xランクだ。150人でどうにかなるとは思えない。つまりアガレスロックがどういう相手なのか確かめるための様子見……先遣隊という名の捨て駒だ。


「待ってくれ、あいつが狙ってるのは俺だ。さっき攻撃したからな……だから俺が王都から引き離す」


 そうすれば犠牲が出ることもない。そう思っての発言だったが、中隊長はまじまじと俺の顔を見た後、肩をすくめて首を横に振った。


「どっかで見た顔でと思ったら、噂のオリジン様じゃないですかい。そうかい……オリジンでも勝てない相手かい。すまんなお前ら、やっぱり命は諦めてくれ」


 中隊長が後ろを振り返りながら告げ、隊列を組んだ兵達は覚悟と諦めと悲壮感を漂わせながら頷いた。


「待てって! 俺が1人で行けば済む話だろ!?」

「残念ですがね、オリジン・ユート。あの亀に人間の区別がつくとは思えんのですよ」


 ぐっ、と息をのんだ。それは……そうかもしれない。あいつの前までたどり着いて、それが俺か俺じゃないかなんて亀に判るわけがない。そしてもう一度気を引くだけの魔力も無い。


「もうヤツはこっちを見ました。区別がついていないなら、ここにいる全員が……そして王都にいる人間も全員ターゲットにされるでしょうな。そもそも国内でアレを野放しにはできない。倒す以外、ないんですよ」


 王都に向かうことは回避できても、別の村や町が危険になる。「国」はそれを許容できないってことか。でもだからって、死ぬと分かってる人間を見送れる訳がない。


「オリジン・ユート。現代の人間では、全軍で当たっても倒せる餓獣はSランクが限界と言われとります。あれを倒せるのはアンタ達だけなんですよ。本来この世界とは無関係なアンタ方ですが、囮になろうって気概があるのなら……今は逃げて、ヤツを倒す手を考えてもらいたい」


 そんなこと言われたって、俺の全力は通用しなかったし、琴音の魔法も相手がデカすぎて効果があるとは思えない。

 1200年前のオリジン達はこんな連中をも退けて人間の領域を広げたんだろうから、俺達もやり方次第で可能なのかもしれない。--でも早すぎる。まだ自分の魔法を理解しきれてもいない状態で、何ができて何ができないのかも分からない状態で、そんな期待をされても……困る。


「そのための時間を、稼いでくる……あとは頼みましたぜ」


 中隊が再び進軍を始める。

 俺はそれを、止めることができなかった。


「おい、オメエ。オリジンってあの……? まじかよ」

「なにがオリジンだ……」


 魔導師オリジンってのは餓獣から人々を救った救世主だ。同じ出身だから何だ、同じ能力だからどうした。

 俺も、琴音も……救われて庇われて逃がされて、自分達よりずっと魔力の少ない人達に守られている俺達にオリジンなんて名前は不釣合いだ。テロスには手も足も出ず、フラッシュヴァルチャーでさえ琴音のフォローが無ければ逃げるしかなかった俺には、そんな風に呼ばれる資格なんて、まるで無いじゃないか。


 琴音が戦争に行くと言い出した時の気持ちが分かった気がする。


 あの中隊の兵士達はきっと死ぬ。150人もの人が、誰かを守るために死ぬんだ。時間を稼げば、情報を集めれば、オリジンが……俺達がなんとかしてくれると信じて死んでいくんだ。

 応えはどうあれ、その想いをどうして無視なんてできるだろう。


「俺はオリジンなんかじゃないよ」

「ひはは、だよなぁ!? ありゃ大昔の伝説だ」


 そんなつもりはなかったんだけど、調子に乗っていたんだな。

 オリジンの再来だなんて持てはやされて、魔法に関しては世界最強クラスの素養があると太鼓判を押され、どんな困難も物語の主人公のように乗り越えられる気でいた。


 だけど実際はどうだ。俺は今、俺よりも強い相手と遭遇して、なすすべ無く死地に向かう人達を呆然と見送っている。


 何が琴音と戦争に行ってセレフォルンを助ける、だ。何がテロスをふん捕まえる、だ。何が……ドラゴンに会う、だ。


 今の俺は、それらの目標の何一つとして達成なんてできない。


 ビーム1発でガス欠じゃ、戦争なんて行っても大した役にも立たないに違いない。琴音が足止めして、俺が魔法を奪う? 相手だって馬鹿じゃないんだ、すぐに対策されて終わりだろう。


 テロスは強い。どれくらい差があるのかも分からないくらい、強い。あの触れたものを消し去る防壁の攻略法なんて、その影すらも掴めていない。


 ドラゴン……。Dランクの餓獣に手こずって、今も餓獣から逃げる事しかできない俺がドラゴンだって? 


 全部、全部ただの妄想だ。成し遂げる力なんて、まるで持っちゃいない。


 あと数十分で命を散らす彼らの期待に応える力もまた、俺には無いんだ。



 別に俺は「できる」なんて言ってない。期待したのは向こうの勝手だ。そしてそれに応えるかどうかは、俺の勝手だ。

 だけど俺は応えないんじゃない。そもそも応えるだけの力が無いんだ。彼らが願いすがったオリジンに、俺はなれない。


 別に俺がオリジンを名乗った訳じゃない。だけどこれからも皆が俺達をオリジンと呼ぶんだろう。きっとその度に俺は、そう呼ばれることに恥ずかしさと惨めさを感じるに違いない。




 だからまず、俺は魔導師オリジンになろう。



 力が足りないなら手に入れてみせる。工夫が足りないなら策略を練ろう。あらゆる手を尽くしてこの餓獣を撃退し、死地に向かった彼らに報い、オリジンと呼ばれるに相応しい男になろう。

 夢や目標を語るのはそれからだ。

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