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エピローグ

「ドラゴンはいる! 絶対にいるんだ!!」


 少年は声を大にして言い切るが、その反応は冷ややかだった。


「いるわけねーだろ! バーカ!!」


 太っちょの子供に後ろからランドセルを蹴り飛ばされ、少年は地面に倒れ込んだ。その勢いで膝をすりむき、血が流れる。その血の量がちょっと多かったことに驚いたのか、いじめっ子はあたふたと退散していった。

 1人膝を抑えて、少年は声を押し殺して泣いていた。ケガも痛いが、ドラゴンの存在を否定されたことの悔しさもあった。


 そんな少年の前に差し出された、黄色の可愛らしいハンカチ。


「大丈夫?」


 ハンカチの持ち主は凛とした真面目そうな女の子だった。

 血でハンカチが汚れるのも気にしないで手当てをし、やがて女の子は意を決したように口を開く。その内容に、落ち込んでいた少年の顔に明るさが戻った。


「私も信じてるよ……ドラゴン」



 2人は意気投合し、よく遊ぶようになった。学校が終わった後に、近所の公園の草むらや怒りんぼうのオジサンの庭でドラゴンを探す冒険にでるのは、もはや習慣になっている。


「だって魔法が無くなる1000年くらい前までは、ゲームみたいなモンスターも普通にいたって授業で言っていたもの。ドラゴンだって、きっといたはずよ!」

「そうだよね! 昔の武将の……リーゼトロメイアって人はドラゴンに乗っていたって書いてたし!」

「あの本、あんまり信用できないって言われてるけどね」


 時のガルディアス帝国皇帝ロンメルト・アレクサンドル=F=ガルディアスは様々な伝記を書いては歴史書として後世に残しているが、物事を大げさに言う癖があったとして信憑性は薄いとされていた。


「でもセレフォルン王国の歴史にも、蒼いドラゴンに乗った英雄の話があるものね?」

「それも信用できないって言われてるけど」


 こちらは当時のセレフォルン女王の日記からの歴史書だ。ただ後に名君として歴史に名を残す女王も幼いころはそうでもなかったらしく、日記の内容は無茶苦茶だったらしい。


 魔法は無くなり、しかしケイツという伝説的将軍が開発したとされる銃火器の登場により、人類は餓獣よ呼ばれる害獣の駆除に成功した。だがその戦いは激しく、多くの歴史的財産が失われてしまっていたのだ。

 それでもわずかに残った書物からドラゴンの存在をほのめかす文章が見つかっており、それを研究する者もわずかながら残っていた。

 2人の将来の夢は、もちろんドラゴンの研究者になって本物のドラゴンを見つけ出すことだ。


 そして2人は今日も仲良く手を繋ぎ、ドラゴンを探すべく小さな丘へと探検にでかけた。






「やれやれ、やっとここまで漕ぎ着けたよ」


 それを上空から眺め、テロスはふぅと息を吐く。

 無数の魂の中から特定の二つの魂を見つけ出して、同じ時代、同じ場所に生まれさせる。その苦労と時間を思い出すと、ため息の1つも吐きたくなる。


「精霊ジルの魂は消滅しても、伊海 悠斗の魂は残っているかもしれないとは思ったけど、確証もなく良く探したものだよ、僕も」


 だが、これくらいの償いは仕方ない、とテロスはそれ以上の文句は言わないことにした。

 人として生まれ変わってからの苦労は、それはもう色々あった。まず死んだらそれっきりという恐怖。怖くてうかつに家から出ることすら難しかった。

 だけど勇気を出して外に飛び出し、人と触れ合い、テロスは悠斗が言いたかったことを理解した。もっとも長い年月が必要ではあったが。敵だったにも関わらず、テロスを気にかけてくれていた悠斗の仲間達には今でも頭が上がらない。


 そしてテロスはおよそ70年ほど生きて、人間としての生を寿命をまっとうして終えた。その時に父の力を受け継ぎ、この世界を見守ることを決めたことに後悔は無い。世界を消そうとも、一度も思ったことは無かった。


「さて、僕の子孫はどうしているかな?」


 久しぶりに自分の末裔の様子でも見に行ってみようと思い付き、テロスはもう一度地上を楽し気に走る2人の子供を見下ろした。


「今度こそ、リーゼトロメイアと幸せになってね……父さん」

これにて完結。

以前「モバゲー」で連載していた物のリメイクでしたが、向こうでは完結させることができなかったので悲願達成の気分です。リメイクで変更して良かった部分。前のままの方が良かった部分など、至らないところも多かったですが、どうにか完走することができました。

それも読者の皆様のおかげです。

今まで本当にありがとうございました。




ちなみに後半からドロドロした暗い展開が多く、息抜きでじわじわ書いていた小説があります。いかにも「なろう」な内容のものが書きたくて、思い付きのまま8話ほど。


タイトルは「とにかく転生」

「とにかく転生させてくれ!」と女神様にお願いした結果、兎の角に転生させられた男の話です。転生したのはあくまで角。本体のウサギは本能のまま自由に行動し、主人公を振り回す。そんなコメディです。


この最終話と同時に公開し、ストックが無くなるまでは毎日更新する予定です。まあそんなに長くはならない予定の、文庫1冊程度の内容ですが。

その後はもう1つのモバゲーからのリメイクを書くつもりです。良ければこのまま作者ページに飛んで、「とにかく転生」も見ていただければと思います。

それではまたいづれ。

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