表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
222/223

どうだ、俺が創った世界は綺麗だろう

 転移ポータルが輝き、リリア達が最上階にやってきた。なんか、大きくなってないか?


「小僧……その体は」


 いや、おまえこそその体はどうした? と聞きたいところだけど、そんな時間は無い。俺の体は今にも消えてしまいそうだ。なにせ存在を消してしまったんだからな。今こうしてまだ現世に残っているのも、創世鳥の消滅と引き換えにできた世界の空白を利用して、力技で強引に時間を稼いでいるにすぎない。


「それにコトネに、トモヨまで……どうなっておるのじゃ!?」


 その疑問に答えたのは、以外にもテロスだった。本人は別に質問に答えたつもりじゃないだろうけど。


「そんな……。自分を消去して、その空白に創造したっていうの? 僕の力を奪う能力を。姉さん達の肉体を」


 どんどん崩れていく俺に手を伸ばすテロスの姿は、父親に縋りつこうとする子供そのものだ。


「また、僕を置いていくの?」


 それは無意識に出た言葉だったんだろう。ハッとなって、テロスは自分の口を押えた。

 やっとテロスの本心が聞けた気がした。生み出されて間もない内に父親が姉と一緒にどこかに行ってしまった。寂しくて悲しいのは当たり前だ。いくら生み出された瞬間から完成された自我を持っていたとしても、完璧なわけじゃない。どうして自分だけが置いて行かれてしまったのかと、悩み苦しませてしまっていたに違いない。

 だからテロスは精霊の力を集めたのかもしれないな。世界を再生するためと言いつつ、家族が、もう自分を置いてどこにも行ってしまわないように。


 それが真実なら、きっと大丈夫だ。


「テロス。お前の力は俺が没収した。今のお前は普通の、なんの力も無い人間だ。寿命も、普通の人間と同じくらいにしてある」


 手のひらに、力を集める。これが俺の使う最後の魔法だ。


「魔法が無いと生きづらい世界だからな。これをやるよ」


 生まれたのは、小さな青い小鳥。ジルという意識も無い、創世の鳥の力をほんの少しだけ持った小鳥。俺のEXアーツだったものを再現した物だ。

 小鳥はパタパタと羽ばたき、座り込んだままのテロスの肩にとまった。


「人間として生きてみろ。その人生をまっとうした時、俺から……父親からの最後のプレゼントを用意してある」


 小鳥の中には精霊の力を封じ込めておいた。4羽の精霊、全ての力。創世の鳥と同等の力だ。テロスが人として生き、人を愛し、人として死んだ時、それは解放されるようにしておいた。その時、神としてこの世界を見守っていくかどうかはテロスに任せよう。

 本質的に、やさしい子だ。きっと大丈夫だと信じている。


「琴音と智代はもうなんの力も無いから日本で静かに暮らしてくれ。テロスの鳥は、空間属性だけは自由に使えるようにしてあるから、送ってもらうといいよ」


 空間、重力、強化だけは、あのEXアーツでは扱いづらいからな。テロスには二つの世界を行き来して、自由に世界を見てほしい。精霊としての目では見えなかったものを、全部。


「リリア。歳をとれるようになったんだな。美人になったじゃないか」

「ワシは元々美人じゃよ。いまさら気づきおったか」


「ロンメルト。これからの時代、お前はみんなの希望になる。立派な王様になってくれ」

「当然であろう! 余は……余は偉大な父と、偉大な友を持った、偉大な王となる男なのだからな! ふはははは!!」


「アルスティナ。アンナさんがいなくなって大変だろうけど、きっといい女王様になるよ。誰よりも民に優しい女王様に」

「うん、頑張る。ティナ、頑張るよ!」


「ユリウス。お前は最高の友達だったよ。良かったらテロスとも友達になってやってくれ。俺と同じように」

「コクリ」


「ケイツ。あとは任せるよ。この世界から精霊は消える。いずれ魔法も無くなるだろうけど、乗り越えてくれ。それができると信じている」

「あったりめぇだ! オレも信じてるぜ。お前がきっとどこかで、オレ達の作る世界を見てるってよ!」


 話している時間が無いとわかっているからか、みんな快く頷いてくれた。ごめんな、一方的に話して。


「ゲンサイはほどほどにな」

「善処しよう」


 アンタが好き勝手すると、この世界は途端に大ピンチだ。まあそんなことは無いと、今なら言える。本当に丸くなったもんだ。


「アランは……目立つ真似をしなければ、そのままでもいいか」


 テロスの力が失われれば消えてしまうかと思っていたのに、ピンピンしている。もう生き返ってしまっているものは仕方ない。その辺りを弁えないバカでもだろうし。


 おっと、そろそろ限界か。意識も薄れてきた。体はほとんど崩壊して、もう消える寸前だ。ポトリと肩に乗っていたオル君が支えを失って地面に転がった。

 あばよ相棒。今までありがとうな。


「みぎゃ」





 体が消える。意識が天井をすり抜け、天へと浮かび上がっていく。空から見えたこの世界は、どこまでも青く、美しい。

 俺が夢見て、憧れ、創った世界。青々と生い茂る森に、紺碧に輝く海に、蒼く全てを包み込む空。


 ああ、やっぱり綺麗だ。

 この世界を守り、消えるのなら後悔はない。


 この風景を、リゼットもドラゴンの背に乗って見ていたのだろうか。なら、一度くらいは自慢しておけばよかった。

 どうだ、俺が創った世界は綺麗だろう、って。

一時間後に最終話を投稿します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ