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その願い、叶えてやるよ

「この2人がセットは反則だろ……」

「う、うむ。1人ずつ来ると思っておったのじゃ」




 ずっと1人すつ出て来ていたオリジン達。それが火山階層で2人出て来たことには驚いたけど、ゲンサイなら苦労も無く倒してしまうだろう。なにせ、あの人が負ける姿が想像できない。

 ともあれそっちはゲンサイを信じるとして、この先はどうしようかと悩みながら次の階層へと進んだのだけど、選択を誤ったと頭を抱えたくなった。


 残っているオリジンは強化属性・暁のオリジンことアラン・ラーズバード。重力属性・黄昏のオリジンことフジワラノタケツナ。そして空間属性・薄雲のオリジンことリディア・ボルトキエヴィッチの3人。

 対する俺達は、俺とリリアの2人だけ。そして俺は残っていた魔力も全部リリアに譲渡してしまっているから、もはやEXアーツを出すこともできない戦力外だ。


 魔力を分けた人が死ねば、持ち主に戻って来るって話だったけど、それを望むことはできない。それにみんなと別れてからそれなりの時間が経った。まだ魔力が全く無いということは、ロンメルト以外は全員間違いなく無事だということだ。


 しかし合流するのを待っていては先行した意味が無くなるし、さりとてこのまま進むとなるとリリア1人で残りのオリジン……それも過去の10人の中で最強と呼ばれた3人と戦うことになってしまう。さすがに無謀だ。


「って、困っていたのに、よりにもよってここで2人同時とか」


 火山階層の2人は姉妹のようだったからセットで配置されても違和感は無かったけど、この2人は明らかにミスマッチだろ。

 迷宮型モンスターが居なくなったせいで迷宮でもなんでもない広間になってしまっている迷宮階層で待ち構えていた2人を見るたびに、ゲンナリしそうになる。


「よっ、久しぶりだなクソ野郎。そして……んーー会いたかったよぉーん、ッリリアちゅあーん!!」

「ええい、静かにめされぃアラン殿! このような厳粛な場で不謹慎であろう!!」


 アホっぽい方は、よく知ってる男だ。もう1人は、あれがフジワラノタケツナか? 世界統一して日本語を共用語にしたり、いろんな日本の文化を残したりとあれこれ伝説を残しているから、もっと暴虐無人な人物だとばかり思っていた。意外にも真面目そうな人じゃないか。


「あああんっ!? 娘との再会を喜んで何が悪りぃーんだ、バーカ!」

「バ……無礼な。それがいい年をした男の言い草かっ」

「娘のいる年だからこうなんだよ、バカバカバァーカ」

「私とて娘はいるわ! 貴殿に持って行かれたがな!」

「プッ。おいリリアちゅわん、あれがお爺ちゃんだぜ? 会ったことなかったろ」

「む! ま、孫か。うむ、うむ……リリア、と申したか。もっと近こう寄れ。顔を……」

「ぶはははぁ!! お爺ちゃんだ! 孫が気になるお爺ちゃんがいるぜぇ!!」

「おっのれぇぇぇぇぇ!!!」


 なるほど、まったく噛み合わない2人だった。というか全面的にアランが悪い。特別仲が悪かったわけじゃないとアランは言っていたけど、それは完全にいじめっ子がいじめられっ子を友達だと言っているパターンの奴だ。そりゃ自分の同期が娘と結婚して、その子供が自分にとっては孫だなんて普通に嫌だ。そういう所をテロスに利用されて戦争してたんだろうな、この2人は。

 なんてこった。1200年の戦争の理由が思った以上にしょぼかった。


「口惜しや! 貴様が敵であれば何ら憂いなく叩き潰してやるというのに!!」


 アランへの怒りで高まった魔力が、そのまま俺達に向けられる。そうだ、コントみたいなやり取りで忘れそうになっていたけど、この2人は連携して俺達を襲ってくる敵だ。

 アランにとっての娘、タケツナにとっての孫であるリリアがいるんだから見逃してはもらえないかと期待したけど、どうやらテロスの洗脳はバッチリ機能しているようだった。


「おっし、てめぇならそう言うと思ってたぜ、ビチクソ野郎。その願い、叶えてやるよ」


 黄金の鐘が現れ、アランの体に吸い込まれる。最大強化されたアランが一瞬にして距離を詰め、タケツナ・・・・を殴りつけた。


「ぐっ……は!? な、何が!? オリジン同士では戦えぬよう、呪をかけられていたはずではなかったか!?」

「カッサンドルの奴はかかりが弱かったろ? アイツは案外、俺達の中で一番根性があったかんな。つまり、根性でなんとかなるってこった!!」


 そんな訳はない。そんな訳はない筈なんだけど、確かにアランはテロスの洗脳を打ち破っているように見える。もしかして、そんな訳あるのか?


「普通は無理だろうさ。自力でこの呪いをぶち抜ける精神力なんざ想像もできねぇ」


 もし、アランの仮説が正しいとすれば辻褄が合うことが1つだけある。なぜテロスがゲンサイを野放しにしていたのかという事だ。いくら目が見えなくなったとはいえ、それでも攻撃が通用しない上に適当に刀を振っていれば軍が壊滅するような怪物だ。洗脳して手駒に加えられるなら、そうしない理由は無い。いや、それ以前にテロスはゲンサイを誘導して俺と戦うように仕向けていたけど、それはリスキーだ。ゲンサイが思い通りに動かないかもしれないし、俺が負けて死んでしまうかもしれない。洗脳して操ればそんなリスクは回避できたはずなのにだ。

 ひょっとしてできなかったんじゃないだろうか? 精神力でどうにかなるというのなら、俺はあの人以上に精神の強い人を見たことがない。


「けどなぁ、できねぇもんをできるようにするのが、俺様の魔法なんだぜ?」

「強化……! そうか貴殿、己が心を強化して……」


 不敵に笑んで、アランは拳を握りしめた。どうやら武器は用意していないらしい。いや、必要ないのか。元より極限まで強化された彼の肉体は、それだけで最強の武器になるんだ。対するタケツナも肉体1つで戦うのか、アランの裏切りに戸惑いながらも戦う姿勢をとった。


「行きな。クソ野郎をきっちり上まで届けてやるんだぜ、リリアちゅわん」

「ありがとうなのじゃ、父様」


 アランの背に一度だけお辞儀して、俺達は上の階層へと続くポータルへと手を伸ばした。

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