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「戻ったか、ユー……っ!」


 連合軍の集まっている場所に向かうと、リリアを抱きかかえたケイツが出迎えてくれた。

 俺の方を見て驚いたのは……俺の腕に抱えられているリゼットの遺体を見たからか、風の力でここまで運んできたアインソフの亡骸を見たからかのどちらかだろうな。いや、両方か。


「そうか、竜騎士リーゼトロメイアは逝ったか」

「……ああ。軍の一部を借りてもいいか? 彼女を故郷の土に送り届けてやって欲しいんだ」


 こんな状況だ。リゼットの故郷であるオルシエラ共和国はまともな状態ではないはずだし、両親が存命かどうかも怪しい。だけど彼女が相棒と生まれ育った実家に、2人寄り添うように埋葬してあげたい。


「構わねぇよ。どうせ連合軍に、この先の戦いに参加するほどの余力は残ってねぇしな。浮遊船で送らせる」

「頼む」


 一番近くにいた女性の兵士にリゼットを預ける。アインソフはそのまま風に運ばせて、浮遊船の1つに乗せて置いた。


 リゼットを運び、兵士達が浮遊船へと乗り込んでいく。

 さようなら、リゼット。俺に、創世の鳥に、人間に転生してまで知りたかった「人を愛する」という感情を教えてくれた人。




 連合軍も、ずいぶん減ったな。全滅していないだけ僥倖だったと考えるべきか。それほどまでに危険な状況だった。弾薬もほとんど使い切ってしまったようだし、たしかにもう戦力としては期待できないな。それでも捨て駒にして突撃させればオリジンの1人くらいはなんとかなるかもしれないが、彼らにはこの後も町や村の防衛という任務がある。オリジンを倒し、テロスを倒しても餓獣がいなくなるわけじゃないんだからな。彼らの仕事はここまでだ。


「そうなると、やっぱりオリジン達と戦う戦力が足りないな」

「そのことなんだがな、ユート……」


 苦々しい表情で、ケイツがその腕に抱えていたリリアを俺に見えるように前に出した。そういえば何故ケイツに体を預けているんだろう? その答えは直ぐに分かった。連合軍が生き残った理由と共に。


「オルシエラ軍の時間を止めて、限界以上に魔力を使っちまったんだ。婆さんは、もう……」


 ケイツに支えられながら、リリアは短く弱い呼吸をなんとか繰り返している。ただ魔力を使い切っただけなら、こうはならない。せいぜい回復するまで気絶するくらいだ。魔力を削り、魔力を貯める器をも削って、そこまでして連合軍を守ったのか。


「そうか。がんばってくれたんだな。だけど……もう少し頑張ってくれ」

「ユート!? てめぇ何を……」


 死にかけている人間に、もっと頑張れと言う俺にケイツが驚愕と怒りの顔を向けた。それを無視して、リリアの額に手を当てる。

 手の平からじんわりと魔力が流れ出て、リリアの中へと入りこむ。聖霊としての感覚で解る。こっちで魔力を同調してやれば、血液を介さなくても魔力を分け与えることは可能だ。


「むむぅ……。くすぐったいのじゃ」

「ば、婆ちゃん!!」

「ぬぎゃぁーー!? なんじゃあ!? ええい、むさ苦しいアゴを擦りつけるでないわぁ!!」


 もぞもぞと動き、寝起きのように目をこすりながら起きたリリアを、ケイツが涙を流しながら抱きしめた。感動的なシーンのようだが、オッサンに抱きしめられて幼女が抵抗している犯罪的なシーンにしか見えない。


「そうじゃ! ワシは魔力を使い果たして……なぜ生きておるのじゃ?」

「俺が魔力を分けたからだよ」


 何気なく答えた俺の言葉に、リリアは目を見開き、わなわなと震え始めた。


「何をしたか、わかっておるのか? 小僧、お主ほとんど魔力が残っておらんではないか。そんな状態で、どうやってテロスを倒すと言うのじゃ!」


 当然の怒りだな。これじゃあ何のために大勢の兵士が死に、自分も全てを失う覚悟で魔法を使ったのかわからない、と言いたいんだろう。もちろん、そんなことを考えもしないで助けたわけじゃない。


「わかってる。テロスは倒すさ。俺だって、リゼットの死を無意味なものにする気は無い」

「竜騎士……そうか、わかったのじゃ」


 俺が絶対に戦いを投げたりしない理由がわかったのか、リリアはそれ以上なにも言わなかった。


「もう、十分だ。アイツの俺への復讐は、もう十分な筈だ。ここからは、俺が復讐する。手を貸してくれ、リリア」

「かかっ。一度捨てた命じゃ。二度でも三度でも捨ててやるわい」


 ありがたい。俺は魔力を失った。この状態でもテロスとは戦える自信はあるが、その途中のオリジン達は話が別だ。可能なら、俺は一度も戦うことなくテロスの所まで辿り着くのが理想。そのために、リリアの力は必要不可欠なのだから。


「ケイツ、ユリウス。それに……」

「ティナも頑張る!」


 軍同士の戦いでは出番が無いから、万が一が無いようにと後方に下がらせていたアルスティナも合流できたか。世界の未来を賭けた戦い。なるほど子供の好きそうな響きだ。戦闘訓練から逃げ回っていた子だから嫌がるかと思っていたけど、思いのほか乗り気になっている。


「悪いけど、俺はテロス相手以外では戦力外だ。極力当てにはしないで欲しい」

「ってーと、戦力になるのぁオレと婆さんに陛下とリスの坊主で……4人か。どうする? 塔の中のオリジンは9人だぜ?」


 足りないのは5人か。


「では、足りぬのはあと3人であるな?」


 やっと来たか。とんでもないオマケ付きで。


「間に合わないかと思ったよ」

「ふはははは! あと少しあと少しと思っておったら、時間がギリギリになってしまったのだ!!」

「それに……」

「久しいな、深蒼。いや、お前にとってはそれほどでもないのか」


 仮にも脱獄していった人間とは思えないくらい堂々とした態度でロンメルトと一緒にやってきた人物。一度は勝った相手のはずなのに、こうして相対すると相変わらず寒気がする迫力だ。

 鐵のオリジン・ゲンサイ。まさかロンメルトがこの男と連れ立って現れるとは。

 世界最強の男。史上最強のオリジン。かつてそう呼ばれ、恐れられ、その名にふさわしい圧倒的な力で俺達の前に立ちはだかった魔王。俺との戦いで目が見えなくなったというのに、その覇気はまったく衰えていない。聖霊として目覚めた今でさえ、この男に「絶対に勝てる」とは口が裂けても言える気がしない。


「つか、おめーら老けてねぇか?」


 ケイツが指摘するまでもなく、気づいてた。ゲンサイは正直分かりにくいけど、ロンメルトは明らかに老けている。ハードなトレーニングでやつれているとかではなく、10年くらい歳を取っているようにしか見えない。


「ふははははは! ガルディアス帝国でユートと別れてから、国をあげて師匠を探してな。それからかれこれ10年は修行しただろうか!」

「ふっふ、それくらいだったか」


 どういうこと? と、おそらく協力しているだろうリリアに視線で説明を求めた。時系列がおかしい、ということはリリアが関わっているということだ。


「うむ。時間を気にせず修行がしたいと言うのでな、訓練室の時間を止めてやったのじゃ」




 説明を聞くに、ゲンサイに修行を付けてもらいたいと彼を探し出したはいいが時間が足りない。ということでリリアに助けを求めた結果、時間を止めた部屋の中なら可能だという結論に至ったらしい。

 時間が停止しているのは部屋だけで、中で修行している2人の時間は普通に流れていたのだとか。中から扉を開けるまでは持続する魔法だったようで、つい先日やっと修行が終わって出て来たのだそうだ。


「魔力を節約したせいでゆっくりとじゃが時間が進んでおったようじゃな。ここまでギリギリになるとは……少々肝が冷えたわい」


 まあ、間に合ったなら問題無いさ。それより、問題なのは別のことだ。


「出て来たってことは、任せていいんだな?」

「ふっははははははは!! 愚問である! オリジンなど、我が剣で叩き潰してくれるわ!!」


 これがロンメルト単体での発言なら、から元気という可能性もあったけど師匠が師匠だ。そもそもまともに戦えるオリジンを俺と琴音以外に見たことが無いゲンサイが認めたのなら、きっと大丈夫。

 なら、残る問題点は1つだ。


「それで、ゲンサイ。アンタはどうしてここに? 弟子の見送りでないなら、期待してもいいのかな?」

「ふっふ……。過去のオリジンに、神。こんな戦いに不参加とあっては、我が剣が泣くというもの」


 意味は微妙によくわからないが、力を貸してくれるらしい。


「けど、目は治ってないんだろ?」

「馬鹿を言う。10年もの時間があって、私が視覚を失った状態での戦い方を身につけていないとでも? あるいは貴様と戦った時よりも強い、ということもあるかもしれんぞ?」


 それは、頼も恐ろしい限りだ。


「3人足りんと言っていたな? 問題無い。私が4人倒せば良いだけのこと」


 オリジン盛り合わせ4人前のフルコースを想像したのか、ゲンサイは涎を垂らさんばかりに興奮しているようだった。本当に、頼もしい以上に恐ろしい。むしろこの男の相手をさせられるオリジンの方が気の毒なくらいだ。



「それじゃあ、改めて頼むよ皆。俺をあの塔の最上階へ……テロスの所へ届けてくれ」

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