表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/223

地上に下ろしてはやる気は無い

 甘く見ていた。そう言わざるをえない。


「くっ…!」


 誰も彼もが俺を驚かせてくれる。明らかに他者より強力な力を持っていて、今となってはそれが世界を創った神の力だと知って、そんな力を持っていながら圧勝できない自分をふがいなく思う一方で、そんな力に真っ向から挑んでみせる姿をまぶしく感じる。


「どうしたユウト! ドラゴンに憧れていたという割に、まるで乗りこなせていないようだな!」

「経験の差だろ! すぐに追いついてみせる!」


 体が上下左右縦横無尽に揺さぶられる。空を飛ぶ竜の背中は、それが空中散歩なら最高に気持ちがいいのだけど、戦闘ともなればここまで苦しいものなのか。

 能力では負けていない。むしろオリジナルドラゴンの方が間違いなく性能は上だ。だがリゼットはアインソフを巧みに操り、自由自在に空を飛ぶ。俺達はそれについて行くので精一杯だ。


「空を飛んでるってだけで、ここまで不利になるなんてっ」


 向こうは10数年も共に飛んで来た相棒だ。多少の不利は覚悟していた。だけどまさかここまでとは。


「すまないが、地上に下ろしてはやる気は無い」

「わかってるよ!!」


 このまま不利を受け入れて戦うなんて愚かな判断でしかないと早々に地上に下りようと決めたのは、戦いが始まってほんの数分後だった。そして俺は未だ、地上に下りられずにいる。


 ダメ元でもう一回だけ試してみるか。


 上に向かう、と見せかけての急下降。リゼットがフェイントに釣られそうになったんは一瞬。それでも初動で先行できた分、有利なはずだった。


「アインソフ!」


 リゼットが手綱を引く。指示から行動までが恐ろしく早い。だが例え阿吽の呼吸で反応してみせたとしても、性能で勝るオリジナルドラゴンにアインソフが追いつくことは不可能……というやり取りは、これで何回目だったろうか。


「はあっ!!」

「くぬ!?」


 真上から突っ込んできたリゼットの槍を、そうくるだろうと構えていた剣で受け止める。同時に槍から電流が流し込まれてくるが、それは疑似EXアーツの剣で吸収できるから問題無い。しかしその強襲を受け止める足場でもあるオリジナルドラゴンがバランスを崩し、体勢を立て直すためにも降下は断念せざるをえなかった。


 理屈では追いつけるはずが無いんだけどなぁ。

 よく観察してみると、どうやらリゼットとアインソフは真っ直ぐ飛んでいるわけではなさそうだった。そういえば鳥は気流を呼んで飛ぶという。アインソフの本能と、リゼットの長年の経験からくる勘があってこそ見えてくるものがあるのかもしれない。

 だとすれば、俺にそれを真似することは難しそうだ。オル君はトカゲだし、ジルはドラゴンボディーに慣れてない。そして俺も、竜に乗るのは初心者だ。前世は鳥だったはずなんだが。


「何度やっても無駄だ。私はユウトが地上に下りることを、なにより優先して警戒している」

「つまり下りれれば俺の勝ちってことだ」

「考慮する必要は無い。不可能だ」


 大した自信だ。そしてその自信を打ち破ることが、俺には出来そうにない。

 当たり前のことだな。ゲンサイと戦った時にも思ったことだ。俺は剣士じゃない。剣士じゃない奴が剣を使って最強の剣士に戦いを挑み、それで勝てると思う方が間違っている。

 同じように、俺は竜騎士じゃない。つい数ヶ月前にオル君がドラゴンに変身できるようになって、その背中に乗せてもらっているだけ。もはや一心同体も同然にまで磨き上げられたリゼットとアインソフの絆に追従しようとは思っていない。


「ジル。全部任せる……好きにやれ!」


 だからこそ地面に立って俺らしく戦いたかったんだけど、それはさせてくれない。どう足掻いても竜騎士としての戦い方に付き合わされるのなら、せめてその中で俺達らしい戦いをしようじゃないか。

 中途半端な連携じゃ太刀打ちできない。だったら全部丸投げだ。オル君にもジルに身を任せるようにしてもらって、ジルだけの判断で動いてもらう。それなら意思疎通の正確さは関係無く戦える。


「なっ!?」


 突然の動きの変化にリゼットが驚愕の声を上げるのが聞こえた。

 そうだろう。驚いたろう。俺も驚いた。まさかいきなり回転するとは。もうちょっと気を抜いていたら振り落とされていたかもしれない。さすがにヒヤッとしたぞ、ジル?


「馬鹿な。好き勝手に飛ばれて、乗っていられるわけがない」

「いいや、飛んでいるのも俺だ」


 意識は別々にあるとはいえ、ジルは俺の一部だ。比喩でもなんでもない一心同体。それが別々の意識として協力しあおうなんていうのは、遠回りでしかなかったのだ。オル君をのけ者にしてパワーアップするのは心苦しいけど、このドラゴンはオル君あってのことだから無意味じゃないんだよ、オル君?


「く……アインソフ!」

「頑張れ、ジル!!」


 乗っている俺のことなんて居ないかのように自由に空を飛ぶジル。体は本来の物ではないとはいえ、元々飛行する生物だっただけあって見事なもんだ。アインソフのブレスも、リゼットの雷撃もするすると躱していく。その回避運動によって俺の体もあっちこっちに振り回されるが、それで俺が落下することは無い。


「な、なぜ!? 予測できない動きの中で、どうして振り落とされない!?」

「なんとなくだ」


 冗談ではなく、本当になんとなくだ。なんとなくジルがどう動こうとしているのかは分かる。それが元は同じ存在だからこその以心伝心なのか、考え方が同じだからなのかは不明だけどな。たまにハズれて危ない時があるし。


 そんな無茶も続けてくる内に慣れてきた。そしてジルもドラゴンの状態での飛び方が分かってきたのか、動きにキレが増しているように思う。

 そしてついに、捉えた。


「しまった! アインソ--」


 オリジナルドラゴンの牙が、アインソフの右肩に突き刺さる。腕であり翼でもある部分を封じされ、飛行が困難になったアインソフがバランスを失い、しかし墜落はするまいとオリジナルドラゴンにしがみ付く。それは咄嗟の行動だったのだろうけど、起死回生の一手にもなった。


「ジル、振り払え!」

「離してはダメだ、アインソフ! もう少し耐えてくれ!」

「グオオオオ!!」


 死んでも離さないとでも言うかのように、アインソフがオリジナルドラゴンの首に噛みついた。ハリボテノ体だから痛くも痒くもないのだけど、がっしりと突き刺さった牙は簡単には離れない。そして道連れにする形で、俺達を乗せたまま2匹のドラゴンはきりもみして落下し始めた。


「うおおおお!?」


 目が回る。やばい、まるで状況が分からない。その時、視界の端で雷光が弾けるのを見た。


「戻れジル!! 魔導兵装CODE-DeepBlue!!」


 防ごうにも自分が今どっちを向いているのかも分からない状態では、魔導兵装で全身を守るしかなかった。そして危機一髪、全身を魔力が覆った瞬間にとんでもない魔力の籠った電撃が叩き付けられた。


「あ、が……」


 一瞬、目の前が真っ白になった。テロスの魔力で強化されたリゼットの雷は予想以上に強力だったようだ。まさか魔導兵装の防御を超えて来るなんて。だけど致命的なダメージじゃない。その大半は吸収できた。

 意識が薄れたのは、コンマ数秒ほどだろう。むしろ致命的だったのはその隙の方だった。


「ぐあ!?」


 肩に走る痛み。見ればそこには金色に輝く槍の穂先が突き刺さっていた。電撃と同じく威力が減退しているが、少しでも刺されば当然痛い。だけどその痛みのおかげで、いくらか意識がハッキリしてきた。

 

 空中でジタバタしていたオル君をキャッチして懐に入れる。アインソフは絡みついていたオリジナルドラゴンが居なくなったことで自由の身にはなっているが、肩に受けた傷が深かったらしく落下したままだ。そしてリゼットは、落下しながらもどうにかバランスを取ってこっちを向いていた。


「地上に着く前に、決着を付ける!!」

「マジ、かよ!?」


 器用に空中で体を動かし、リゼットが槍を操る。空中で接近戦を挑む気か!? 風で飛んで……いや無理だ、近すぎる。徹底的に魔法で戦わせないつもりだな。

 幸い、前後不覚に陥っている状態でも無意識に剣は持ったままだった。落下したままとは思えないほど鋭いリゼットの突きを剣で受け止める。


 そして第二ラウンドの始まりを告げる金属音が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ